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1週間後

1週間も経てば、洗濯や料理も慣れてきて、少しだけ自由な時間が持てるようになった。

だが、多少家事の速度が上がった程度で、少しだけ椅子に座るほどの時間しかない。

料理も洗濯も掃除も、以前の暮らしの状態にはほど遠い。

三人は変わらず文句を言うばかりだし、家事の教本なぞ置いていないので当たり前だろう。

少し前まで手荒れなどなかった滑らかな手肌も、乾燥や洗剤によって、日に日にささくれやあかぎれが目立つようになっていった。


いつものように昼食の片付けを終えた後、一息ついて座っていると戸棚のベルがチャリリと鳴った。

「あら、はいはい。何かしら。」

一番上の滅多の開けない戸棚の前に、座っていた椅子をずるずると持っていき、座面の上に立つと扉をガタガタと開けた。

中には尻尾の根元にリボンを巻いたネズミが三匹、倒れたベルの横に立っていた。

倒れたベルを立ててやると、一匹がチュウと鳴いた。

「何かしら、ご飯?もう少し欲しいの?」

以前洗ってやったネズミたちは、こうして時折私の前に来て何かを要求する。

基本的にはご飯の要求なのだが、たまにそうではない時もあり、先日は雨が降っていることを教えてくれた。

ご飯をあげている恩返しのつもりなのかもしれない。

彼らには初めにご飯をあげると約束したものの、外から来たネズミなのか判別がつかないと困るので、義姉が捨てたドレスからリボンを頂戴し、彼らの尻尾につけてやった。

一度義姉のアリエッタの前に姿を見せてしまったことがあり、数時間も騒ぎ立てたので、何かあればベルで知らせるように、滅多に他の人が見ない棚の上にベルを設置した。

この棚は隅にあり、棚の中の壁に穴が空いているのだが、このすぐ近くにネズミの棲家があるらしく、設置して以降はアリエッタに姿を見せていない。

先程鳴いたネズミが私の腕をつたって床へと降りて行き、こちらへ振り向いた。

だが二匹は降りてこない。

どうやらご飯ではなさそうだ。

「ご飯じゃないのね。」

少し笑いながら椅子を降りて、ネズミの近くにしゃがんだ。

「私にわかるように教えてくれる?」

そう尋ねると、もう一度鳴き、食材の保管庫の方へ向かい、扉の前に止まった。

「ご飯が...ああ、もう残り少ないわね。」

扉を開けて中を確認すると、だいぶ食材が少なくなっていた。

改めてよく確認すると、保存食ばかりが残っており、野菜はほぼなくなっていた。

卵ももうないし、パンはもう食べ終わり、代わりに食べていた穀物ももうない。

このままではまた食事が貧相だと叱られてしまう。

「ばたばたしていて確認を忘れていたわ。ありがとう。」

頭を少し撫でてやると、ネズミは満足そうに鳴いた。

彼を戸棚に戻してやり、扉を閉めると椅子を元の位置に戻すと、小さくため息をついた。

「買い物に行かないといけないわ。」

時折街へ買い物には行っていたが、食料品の買い物はしたことがなかった。

日用品や食材が売っているお店は街よりは遠くはないが、歩いて10分ほどかかる。

買い物をしたことはないが行ったことはあるのでどうにかなるだろう。

台所に掛けてあった大きなカバンを持ち、お金をもらいに継母のもとへ向かう。

彼女は義姉たちの詩のレッスンの真っ最中だった。

扉を叩くと、義姉が詩を読む声が止んだ。

「はい。何かしら。」

私はゆっくりと扉を開けると、軽くお辞儀をした。

「お義母様、お取り込みのところ失礼いたします。買い物に行きたいのだけれど、お金をくださらない?」

「何を買うのよ。」

話しかけた継母ではなく、義姉のルイーゼが答えた。

「食材を買いに。」

そう答えると、継母は部屋の外を持っていた指示棒で指した。

「そういったお金は全て台所の箱の中に置いてあります。毎週そのお金を使ってやりくりなさい。話は以上です。」

そう言うと彼女はまた詩を読み始めた。

ルイーゼはふん、と鼻を鳴らすと、視線を継母の方へ戻した。

私は「失礼いたします。」と再度声をかけると、静かに扉を閉めた。

「はあ、息が詰まるかと思ったわ!」

台所へ戻り、カバンも一旦元に戻すと、入り口の扉の裏に鍵がかかった小箱が置いてあるのを見つけた。

だが蓋を開けようにも鍵がないため開きそうにない。

「鍵はどこかしら...。」

試しに少しあたりを探してみるが、見当たらない。

「またお義母様のところへ行かないといけないのかしら。あの人も意地悪ね。」

諦めてまた部屋を出ようとした時に、またネズミが二匹出てきて足元をぐるぐると回りながらチュウチュウと鳴いた。

「あらあら、なになに?」

そのまま彼らは壁沿いへ走ると、壁に取り付けられた箱の前に止まった。

「何かしら。」

箱を開けると中にはいくつかの鍵が掛けられていた。

どうやらキーボックスらしい。

箱のサイズに合いそうな鍵を3個手に取ると、一つずつ挿してみる。

2個目の鍵を回すとがちりという音がして蓋が開いた。

「まあ、開いたわ!」

中には紙の束と布の小袋が置かれていた。

小袋を持ってみると、中から硬貨のような金属音がチャリチャリと鳴った。

開けてみると数枚の硬貨と札が1枚入っていた。

「これが今週の分ってことね。」

私は蓋を閉じ、鍵をかけ、キーボックスの中へ鍵を戻すと、ネズミの方を見た。

「とても助かったわ!ありがとう!」

すると、もう一匹ネズミが物陰からそろりと出てくると、後ろから尻尾にリボンをつけていないネズミがもう一匹出てきた。

「あら、新入りのご紹介?ご紹介もいいけれど、先に体を洗ってもらわないといけないわね。」

小袋を机の上に置き、洗剤の用意をしながら、ふと今日の彼らがとても親切だったことを思い出した。

「まさか新入りを受けて入れてもらうためってこと?ふふふ、そんなことしなくても一匹くらい大丈夫なのに。」

そう言いながら振り返ると、新入りネズミが五匹増えていた。

「これは確かに親切にしてもらって正解ね。」

私は少し苦笑いをしながら、彼らをお風呂に入れるために手招きをした。

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