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久しぶりに街へ

大変お待たせいたしました!

ページの区切りと話の中身をやや変更しました。

一度読んだ人ももう一度読み直してもらえると嬉しいです。

午前の仕事を急いで終え、昼食を作ろうと台所へ行く前に、家の中に人の気配がないことに気がついた。

外で作業をしていたので気づかなかったらしい。

「きっと街へ行ったのかもしれないわ。」

この時間に家にいないということは昼食も外で食べてくるのだろう。

私は適当にパンと野菜を挟んだサンドイッチを、台所にあった椅子に座って食べ始めた。

すると私以外に誰もいないことを気がついているのか、ベルも何も鳴らさずにネズミが数匹出てきていた。

「一緒に食べる?」

私は椅子から降りて、まな板の上に乗っていた野菜の切れ端を渡す。

シャキシャキと齧るネズミの様子を見た後に、私も椅子へ戻り、残りのパンを齧った。

「もうしばらく誰かと食事もしてないわね...。」

そう呟くと、ネズミたちが怒ったようにチュウチュウと鳴いた。

言っていることはわからないが、私の言葉に抗議しているのかもしれない。

「ごめんなさい、貴方たちは別よ。」

そう言うと、彼らは納得したのかまた食事へ戻っていった。

また声に出して言えば怒られそうなため、もそもそと食べながら黙って考える。

誰かと食事をする機会がなかったわけではない。

ただ、結局マリアに何度か茶会に誘われたものの、街へ行ける日がなく、断ってばかりだった。

家族とは相変わらず食事には同席させてもらえず、家同士で交流があった友人との茶会も、義姉たちが適当な理由をつけて二人だけで参加していた。

でも、舞踏会へ行けば多くの人と交流する機会がある。

もしかしたら未来の婚約者にも出会えるかもしれない。

「いつか王子様が、なんて柄じゃないけれど、私にとっての王子様に出会えたらとても素敵ね。」

そういうと、ネズミが嬉しそうにチュウチュウと鳴いた。


久しぶりに街へ行くと、街並みやお店も少しずつ変わっていた。

「1年来ないとこんなに変わるのね。」

時計の動きが悪くなっていたので、以前訪れた時計店へ時計を預けて、修理が終わるまで散策をすることにした。

王国全土へ舞踏会のお知らせが届いたからか、以前来た時よりも人の数が多い。

人気の服屋や宝石店の前には、何台もの馬車が立て続けに乗りつけては多くの女性たちを下ろしていった。

また、パートナーの男性も女性同様に新しい服が必要らしく、男物の仕立て屋へ入る人も見かけた。

服屋のショーケースに可愛らしいドレスが並べられ、そのドレスを小さな女の子がうっとりと眺めている。

店へ入っていく人たちも、飾られているものよりも簡素ではあるが、似たようなデザインのドレスを着ているので、あの形が流行りなのかもしれない。

だが、私にはその店へ入っていって物が買えるお金を持ち合わせていないので、そのまま店の前を通り過ぎ、店が立ち並ぶ大通りを抜けた先の、邸宅が並ぶ通りへと向かう。

貴族の屋敷ばかりが集まるこの地区には、各屋敷の敷地面積が広いのと、移動はほぼ馬車なのもあり、歩いている人はほとんどいなかった。

私は記憶と手紙に書いてあった住所を頼りに、マリアの住む屋敷の近くに着いた。

「たしかこの辺だった気が...。」

あまり家の前をうろうろすると不審者に間違われてしまうため、あまり周囲を見ながら探すことはできない。

目的地がわかっているように装いながら歩いていると、ふと見覚えのある門の前に来た。

「ここ、かしら。」

近くに怪しんでいる人がいないことを確認して、ポストの上にある数字を見た。

住所と番地が一緒なのでおそらくここだろう。

私はおそるおそるポストへ手紙を差し込むと、カタン、と音がして手紙が落ちた。

しばらく様子を見ていたが、特に問題はなさそうなので門の前から離れ、私の3倍くらいの高さのある門をしげしげと眺める。

最後の来たのは、父が亡くなったすぐ後だった気がする。

父が亡くなったことを受け止めきれず、泣き出してしまった私を励ましながら「いつでも遊びに来て」と言ってくれた友人のことを思い出す。

すると遠くからガラガラという馬車の音が聞こえてきたので、部外者がいつまでも他人の家の前にいるのはまずいと思い、慌てて歩き始めた。

馬車の音がどんどん近いていき、通り過ぎるかと思っていたら、すぐ後ろに止まった。

思わず振り返ると、御者の助けも待たずに、淡いピンクのドレスを着た女性が降りてきた。

「エラ!!!!!!」

「マリア!」

私の名前を大きな声で呼んだマリアはそのまま私へ駆け寄ると、私の両手を包み込むように掴んだ。

「もうエラったら!いつまで経っても私に返事を寄越さないじゃない。家まで取りに行こうかと思ったわ!」

「ごめんなさいマリア。切手を買いに行く余裕がなくて、貴方の自宅に手紙を届けにきたの。」

「ふふ、怒っていないわ。貴方がいつも忙しいのは知ってるもの。それにここに届けに来てくれたおかげで久しぶりに会えたことが何よりも嬉しいわ。エラ、元気?」

変わらず可愛らしい花の咲くような笑顔でこちらを見つめてくるマリアが、とても眩しい。

私がどんなに貧相は服を着ていても、身だしなみが整っていなくても、彼女の私への態度は変わらないのだろう。

「そうね、私も嬉しいわ。まさか会えるなんて。」

「御者が貴方の姿を見かけたと言うから、急いで帰ってきたの!本当でよかったわ。」

ちらりと馬車を見ると、以前マリアに会った時に自宅まで送ってくれた方だったので、私に気づいてくれたのだろう。

彼は軽く会釈をすると、いつの間にか開いていた門を通って、そのまま屋敷の中へ入っていった。

「さ、貴方にも来てもらうわよ。話したいことはたくさんあるんだから!」

「え、そんな急に押しかけたみたいで、申し訳ないわ。」

「まあ!ここまで来てお話もせずに帰るなんて、私が許さないわよ。」

マリアはそのまま手を繋ぎながら、私の手を離そうとせず、ずんずんと屋敷の中へ入っていく。

庭には切り揃えられた木が等間隔に並び、彼女が送ってくれる便箋に描かれている花が植えられていた。

「そういえばエラ、この後予定があったのかしら。それだと私の方が申し訳ないわ。」

「いいえ、時計を受け取りに行って、夕飯の時間の前に帰ること以外は、予定は何もないわ。」

「よかったわ!もちろん帰りは送るので安心してね。」

「ありがとう。」

屋敷の中へ入り、玄関で止まった。

「少し待っていて。」

マリアはそう言うと、駆け足で「モリー!」と言いながらどこかへ向かっていった。

しん、と静まり返ってしまった玄関で、部屋の中を見渡した。

改めて見てもとても大きな自宅である。

玄関だけでも我が家の三倍ほどの大きさで、正面には縦1mほどもある家族絵が飾られていた。

幼い頃に描いてもらったのか、飽きた表情をしているマリアがとても可愛らしい。

彼女は侯爵家なので、貴族の位としては上から二番目になる。

代々役所や城で勤務し、側近までとはいかないものの、王家から頼りにされてきた過去もあり、家としての歴史もかなり古い。

私の父も国内の経済発展一助になったと経営を評価されて、侯爵の位を授かっていたが、場所が城下から離れていたのと、新興貴族だったこともあり、比較的屋敷は小さい方だった。

「お待たせ!こっちよ。」

マリアが早足で戻ってくると、部屋へと案内された。

以前も訪れたことのある客間へと入る。

低いテーブルを挟んでソファーが二つ並び、テーブルの上にはすでに茶菓子が用意されていた。

「どうぞ、座って。」

「ありがとう。」

クッション性が高いソファーに腰掛けると、お尻が沈んだ。

直後に使用人のモリーがポットと空のカップを乗せたワゴンを押して部屋へ入ってきた。

「エラ様、お久しぶりです。」

「モリー、久しぶり。」

「前失礼致します。」

小花柄の空のティーカップが前に置かれ、お茶が注がれた。

「当家自慢のブレンドティーよ。隣国から取り寄せているの。」

とても香りのいいお茶だが、この香りは知っている。

昔父が隣国から輸入していた商品で、「とても美味しいから」と我が家でも飲んでいたものだった。

思わずマリアの方を見ると、彼女は少しだけ眉を下げて微笑んだ。

きっとモリーかトーマスから聞いて知っていたのだろう。

私のために、というのは思い上がりなのかもしれないが、いつか遊びに来た時のために用意していてくれていたのかもしれない。

その心遣いがとても嬉しかった。

「私も、このお茶とても好きなの...。」

「きっと気にいると思って用意しておいてよかったわ。さあ!ぜひ温かいうちに飲んで!」

マリアに勧められるがままにカップへ顔を近づけると、懐かしい香りが鼻から抜けていって、思わず涙が滲んだ。

「とても美味しいわ。」

「よかった。でももう時間がないわ。でも全部話すわよ。」

まずはね、とマリアがどんどん話し始めた。

最近茶会でこんなことがあったとか、どんなことが話題かとか、最近婚約者探しでお見合いをさせられているがみんな腑抜けだとか。

次々と出される話題を聞きながらくすくすと笑ったり、驚いたりしながら、私が2杯目のお茶を飲み終えると、マリアが冷たくなってしまったお茶を一口飲んだ。

「このお茶冷たくても美味しいわね、温かい方が好きだけれど。」

マリアがそう言うと、後ろで控えていたモリーが、新しいカップを取りに一旦部屋を出ていった。

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