お父様がいなくなった日
長編を書くのがとても久しぶりです。
まずは完結させられるように頑張りたいと思います。
窓から見えるお城から、かすかに鐘の音が聴こえる。
お城へと向かう大きな通りには、いくつもの馬車が並び、少しずつ門の中へと消えていくのが見える。
ああ、私はエラ。灰かぶりのエラ。
手には、先程まで質素ながらきらきらと輝く夢のようなドレスだった布が握られ、床にはネックレスのパールが散乱し、彼女が履いていたドレスと同じ色の靴は泥で薄汚れていた。
あの日から、お父様がいなくなってしまったあの日から、いつか私を掬い上げてくれる魔法使いや王子様が現れてくれないかと願っていた。
小さい頃、大好きなお母様が亡くなった少し後、お父様が新しい家族だと連れてきた継母と、笑顔がぎこちない二人の娘がこの屋敷にやってきた。
継母はお母様よりも少し年上で、お父様と同じくらい背が高く、とても美しい方だった。
継母に見られると、少し緊張して背筋が伸びた。
娘は双子で、私よりも少しだけ背が低く、髪の毛は癖毛で、片方はとても大きな目とそばかすが、もう片方は眠たそうな目と口元のほくろが印象的だった。
彼女たちは私の二つ上だったので、姉が二人も増えたことになった。
義姉は二人で遊ぶばかりで私とは遊んでくれなかったが、一人っ子だった私は新しい姉妹にとても喜んだ。
新しい家族ができて数年後、お父様のお仕事が忙しくなり、家に帰ってくる頻度が少しずつ減っていった。
しばらくして、お父様からの手紙が届かなくなり、継母が屋敷中のカーテンを閉め、黒い服を着て過ごすように言い渡された。
『お父様の手紙は?お父様はいつ帰ってくるの?』と聞くと、彼女は静かに『もう二度と帰っては来ないわ。』と返した。
お父様が亡くなった1年後、突然屋敷の使用人が全員解雇された。
「お嬢様、お元気で。」と涙ながらに去っていく彼らを見送った翌日、起床後軽めの朝食を摂ってから自室へ戻ると、私の部屋は突然二人の義姉の衣装部屋になった。
クローゼットから服は放り出され、たくさんのアクセサリーは義姉たちが取り合い、1/3は壊れてゴミ箱へ捨てられた。
本棚の本もまとめて袋へ入れられ、部屋の外へ引きずり出された。
私は突然のことに呆然としていたが、義姉がお母様の日記を引き出しから取り出し、興味がなさそうに投げ捨てたことで我に帰り、次に引き出しを開けようとする義姉の手を掴んだ。
「お義姉様?どうしたの?やめて!」
「やめるのは貴方よ。」
後ろから突然声が聞こえ、振り返ると継母が立っていた。
私が驚き、義姉の手を離すと、また部屋を荒らし始めた。
継母は二人の義姉の暴挙を諌めることもなく、ただ部屋がめちゃくちゃになるのを見ている。
「お義母様、二人を止めて!」
私の悲痛の訴えは虚しく、継母の口元に広げられた扇によって遮られた。
「いいえ、この部屋は二人の部屋になるのよ。」
ついてきなさい、と継母に案内された先には、たくさんのものが押し込められたほこりまみれの屋根裏部屋があった。
隙間があるのか、窓が風でカタカタと鳴っている。
「今日から貴方の部屋はここです。」
「え...。」
「何か足りないものがあれば先ほどの部屋から回収しなさい。」
「そんな、お義母様、どうして...!」
「『お義母様』ね...。」
継母はくすりと笑った後に、私に背を向け、部屋を出て行くためにドアノブに手をかけた。
「貴方を娘だと思ったことは一度もないわ。」
そう言うと、彼女は私を見ることなく部屋を出て行った。
しばらく経って、自室だった部屋へ戻ると、義姉達のドレスやアクセサリー、帽子が詰め込まれており、足の踏み場はほぼなくなっていた。
残っていた私のものは、肌着や寝巻き、あとは以前お母様が着ていた時代遅れのドレスと、お母様の日記、お父様からの手紙数枚だけであった。