第九話 黒ノ天使
一方同時刻。ライルとマスターもまたアーミー達と同じ試練の間で立ち往生していた。
しかし思っていたよりも危機感は無い様子で、ライル達は赤い砂漠の上で空を見上げる。
地面で眠るジェット機を背景に添えて。
「さて試練の間について全て説明したが……攻略の糸口は見つけられそうか?」
マスターもリラと同じ情報を所持。ライルに全てを提供していた。
「私はヒトゲノムを百年もの間、探しているんだよ」
「ああ、それは知っている」
「それじゃあ、普通"全知全能"がある千年大国にも行こうと思うよね。なんなら真っ先に」
「確かに。……いやしかしこの話に乗ったと言う事は、結局行けなかったのでは?」
「ご名答。私でも試練の間は厳しくてね。意図的に参加するのも避けていたんだ」
ライルの話があまり見えず、マスターは頭にハテナマークを浮かべる。
「でも避けていた理由は千年耐えるのが嫌だったからじゃないんだよ」
「……?」
"この試練の間を超えるのに必要なゲノム2000個失うのが嫌だったから"
「このゲノム無くすと世界中を旅するの結構キツくなるからさ、なるべく旅の最後の最後の方で使いたかったんだ」
"高速化"×1000+"贈与"×1000
対象はこの時空そのもの。
「成程……。"高速化"により、一気に千年を迎えさせると言う寸法か」
ただし"高速化"はあくまでも自らのみを加速させる能力。なので対象(生物、物体、事象問わず)にゲノムを与える"贈与"を施すことで、時空を超高速化させる。
結果、超高速化により千年後にまで経過したと言う寸法。対象は時空のみなので、ライル達は対象外である。
「ちなみに補足すると"贈与"にはデメリットが存在してね。あげちゃったゲノムは私の元には戻ってこないんだ。つまり……私の千個ものコツコツ溜めた高速化はこれで全部パーって訳さ」
さてあっという間にライルによって試練の間は強引にクリア。
すると真上に浮かぶ暗雲から一筋の木漏れ日が漏れ始める。
「あ、今……"贈与"使えば全部のゲノム適当に捨てられるのでは? って思ったね」
「思ってないが……? 急にどうした……? どちらかと言うとライル氏のゲノムの数が多過ぎることに驚いている」
「"贈与"は珍しいタイプのゲノムでね。使い捨てなんだ。だから今持っている"贈与"全てのゲノムを使っても私は兵器のままだよ。残念だったねドンマイ」
「……ひょっとして今、私は慰められているのか?」
さて気を取り直してライルは早速、その一筋の光に飛び込もうと考える。
「私の"第六感"から察するに、あの光の先に全ての元凶が居るね」
「ではとりあえず残りの二人を探した後、四人で合流してからあそこに向かうと言う事で」
「あー……その事なんだけどね」
彼はなんとも言いづらそうな顔でとある提案を行う。
「んとね……マスターはアーミーとリラの二人を探した後、此処から脱出して欲しいんだ」
「つまり……ライル氏は一人残って敵と戦うと……?ライル氏の強さは分かっているつもりだが……」
珍しくマスターは露骨に言葉を濁らせる。
「おや、私のことを心配してくれているのかな? 嬉しいねえ」
あからさまに茶化しているであろうこの発言にも、彼はシリアスな表情を決して崩さない。
「私の"第六感"が言っている。絶対に一人きりで行った方が良い」
それに応じる様にライルもまたいつになく、真剣なものへ顔付きが変わる。
「……どうか、ご武運を」
これ以上の説得は難しいと判断したらしく、マスターは一言だけ呟く。
「ありがとう。では、早速行ってくるよ。あんまり瞬間移動って酔うから好きじゃないんだけどさ」
"瞬間移動"
「あー……マジかよ。まさか俺と同じ方法でさ、試練の間突破するとは思わねえじゃん」
天に見える空はどの青よりも青く、地に触れる雲はどの白よりも白い。
果ての果てまで続く地平線の上には、幾つもの神殿や教会が立派にそびえたつ。
勿論、一筋の青い螺旋塔も立派に。
ライルはその螺旋塔の屋上へ瞬間移動していた。
この天界で一番高い場所に居ると考えたからだ。
そう――、黒い羽を持つ天使が。
「思考がやっぱ似ちゃうもんなのかな、俺等って。ははっ……気持ち悪ぃ」
黒い天使はライルと同じ顔をしていた。
「……」
しかしそれに驚くことなく、ライルは極めて冷静……いや、冷酷に天使に向けてゲノムを発動。
"武器化"
"武器化"
それはまるで鏡合わせの様に。
"噴射"
"噴射"
背中に展開されるはジェットエンジン。
それは勢いよく轟音と黒煙を立てながら体内のエネルギーを噴射。
そして齎されるは――、推進。促進。加速。高速。
よって、対峙する彼等の間は一気に縮む。
"光属性"
"闇属性"
二人が選んだ互いの殺し方は心臓を狙った鋭い飛び蹴り。
思い切り足を振り上げた瞬間、彼等はそれぞれの属性における白と黒のビームサーベルを展開。
そして丁度、彼等のつま先の部分が剣の鍔迫り合いの如く正面衝突。
「めっちゃ寂しいじゃねえか。普通、服も顔も同じ俺が何者なのか聞くだろうが"先輩"♪」
続いて耳をつんざく衝突音と共に大きく身体が弾かれてしまい、二人とも地面に転がり込む。
「正直言うと……今、君を殺すかどうか非常に悩んでる」
「いや……ちげえだろ。てめえが悩むべきは、可愛い俺(後輩)をどう奢るかだろ。とりあえず、朝飯奢れ」
"暴食"
「あ、朝飯はお前な!!!!」
そう叫び倒すと彼は起き上がって、もう一度ライルに向かって飛び蹴りを放つ。
「……やっぱり今、殺しとくか」
こうして黒の天使VSライルの戦いの火ぶたが今落とされる。




