第七話 天下無双
「そろそろ見える頃かと。千年大国への入り口"奈落"が」
さて意気揚々と出発進行して僅か十分程。時間にして午前9時頃。
ジェット機と言うだけあり最高速で乗り回した結果、恐らくリラの旅のしおり作成期間よりも早く目的地にたどり着いてしまいそうになる。
まだ私とライルは機内の椅子にも座らず、飛行機内のサイバーチックな内装に落ち着かないでうろうろしてたと言うのに。
ちなみにリラとマスターは壁際に配置された操縦席に座って、なんか難しい操作を行っていた。
まあ私達の居るスペースとコックピットは一体化しているので、全然同じ部屋にはいるんだけど。
またジェット機の操縦自体は全てオートで行われており、基本的にボタン一つ押せばだれでも簡単に動いてしまうとの事。
んじゃあマスター達なにしてるの……?
色々気になる事は多いが今、私が注目しているのはそのコックピットでも内装でも無い。
壁に張られたガラス越しに映し出される、外の景色だった。
「目の前に見えますは――、真っ赤な砂漠で、ございますっ!!!」
わざわざ速度を極端にゆっくりして急にリラはこちらに来てバスガイドごっこに勤しむ。
「す、数百年前に…ゲノムを求めてっ↑(緊張して裏声になる)、この地では戦争が続いていました!!! なので巨大なクーデターの跡が沢山っ沢山っ残っているらしいですっ↑↑ 多分掘れば遺骨が沢山っ沢山っ出てきますよっ↑↑↑」
「だからあれなんですね。赤い色の砂もあそこで戦死した人たちの血で染まってる様に見えるんですね」
「あれ、サイコっぽいキャラの相場は私のはずなんだがねぇ……」
速度はゆっくりだが、バスガイドごっこのボルテージはさらに上がる。
「そして真上を向けて見えますは――、奈落でございま……?」
飛行機は真上の部位にも超強化ガラスが張られており、其処には青空を覆う様に巨大で黒い穴がぽっかり浮かんでいた。
本来なら「わあ!ここだけ夜みたい!」なんて人並な反応を見せるところだが……。
どうやらお遊びの時間はこれまでらしい。
何故なら第六感を持たない私から見ても不穏な光景が浮かんでいたからだ。
浮かんでいると言うより、産み落とされている。
千を超える魔物が。
"大量の包帯が巻かれ、羽の生えた骸骨"×200
"虎の模様をした巨大ミミズ男"×50
"ゾンビと化した恐竜"×250
"真っ黒に焦がれた炎の精霊"×300
"全身の毛が逆立った黒い牛の悪魔"×100
"その他、表現しきれない程の醜悪な魔物"×100
其処にはゲノムユートピアよりも色とりどりな魔物が空を舞いながら……全員共食いをしていた。
「そんな……あり得ない……」
いの一番に驚くのは天使リラ。恐らく何回か此処を通った事がある彼女がビックリしているのだから、やっぱりこの状況は普通起こり得ないらしい。
「でも螺旋塔には魔物が居るんですからこれくらいは普通じゃ……? インパクトは強いですが」
「それについてはお手元の旅のしおり12ページ目を見れば分かるさ」
◇螺旋塔と魔物の関係性について
・螺旋塔にはゲノムを守護する目的で魔物が配置されている。
・基本的にそれぞれ、螺旋塔にあるゲノムに関連した魔物が生み出される。
【"水属性"ゲノムなら、水に関連する魔物(魚やスライム等)が生成。】
・ちなみにゲノムユートピアが司る螺旋塔は"組換"。
このゲノムで自らの身体を自由に組み替えて角や髪の色を変えることが可能。また螺旋塔のシステムそのものを「そもそも魔物が生成されない」様に組み換えている。
・ただし緊急時の際は例外で即座に他のゲノムに組み換えて、魔物を生成出来る様にしている。
「この法則に当てはめれば、あの魔物が司っているのは全知全能のはずなんですよね」
しかし魔物たちには知性を感じられず、それどころか"火の精霊""牛の悪魔""骸骨"など法則性はバラバラ。
ただ共通点は互いを喰らい合っていること。
「恐らく司っているのは"暴食"だね。しかし"火属性"や"アンデッド"が混じっているのは……んー、かなり厄介だ」
「ぼ、暴食ってなん
しかし私の質問は遮られる。
「「「「「「「「ア"ア"ア"ア"ア"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!!!」」」」」」」
なにせあれだけ感激していたはずの外の景色は今や、大量の魔物がこちらを見ながら必死に張り付いていると言う恐怖の光景に様変わりしていたのだから。
「"暴食"ゲノムは食べた生物や物体の特性を引き継げる、非常に厄介なゲノム。このジェット機も食われる可能性があると考えるべきかと」
マスターは操縦席から離れる事無く、極めて冷静にこの状況を分析する。
「オートではこの状況、切り抜けるのは難しい故私は操縦から離れられません。援護は出来ませんが……宜しく頼みましたよ。お二方」
すると今まで唖然としていたリラもその言葉を聞いて我に返る。
「そうですね……! まずは皆を護るのが天使の役目ですから……! 親友なら私よりも精神もゲノムも何倍も強いお方ですので絶対大丈夫ですっ!!! さあ行きましょう、ライルさん!!!!!」
「ああ、百匹くらいは君に譲るよ」
さてこれより始まりますは――。
千匹もの大群で押し寄せる魔物VS氷の天使&終末論
「"詠唱"+"高速化"+"光属性"+"武器化"+"武器化"+"武器化"+"武器化"+"峰打ち"+"浮遊化"」
「"詠唱"+"氷属性"+"氷属性"+"氷属性"+"痛覚遮断"+"高速化"+"峰打ち"+"組換"+"念力"」
二人は冷たい氷の翼と白い光の翼を思いきり広げる。
さてこれより始まりますは――、戦争では無い。
鏖殺。蹂躙。終局。
或いは、無双。
""瞬間移動""
僅か約2秒の出来事であった。
外の景色に浮かぶ生命は……二つのみ。
残りの千程の魔物は無残にも砂漠に落とされ、氷漬けや峰打ちで意識を失うばかり。
「まだ余裕カマすのは早いよ。私の"第六感"がまだ反応している」
「ええ、勿論です……!」
「"吸引"×20+"空間操作"×10+"時間操作"×10」
油断も隙も無かった。
ましてや絶対に交わらない天使と悪魔が手を組んだのだ。怖い物など無いと思った。
しかしそれを嘲笑う様な宣告を、私は聞いてしまった。
この日、赤い砂漠に漆黒に満ちた巨大なクーデターが出来た。半径15㎞程の円を描いて。
その円の名は――、"奈落"。
9時4分23秒。現時刻を持って千体の眠れる魔物及びライル・ジッド、アーミー・ブループリント、ドゥーバンエイロック・オブラバーナイト、リラ・シーカーの四名は行方不明となる。




