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ブループリントヒトゲノム  作者: 冬蜂
序章 ゲノムユートピア編
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第二話 天使と鶏は朝に啼く

大きくひび割れた喫茶店のガラスに白い朝日が差し込む。


映し出すは、人ならざるライル・ジッドの笑顔。


彼はそのままの表情でカウンターで蠢いているマスターの麓に向かう。


「さて……新しい追っ手が来る前にある程度聞き出しておかなくてはね」


彼の言う通り、この騒動の影響により既に色とりどりの野次馬が沸いていた。


「……」


さて一方と言えば、この私アーミー・ブループリント。この状況において全く持って動けないでいた。


だがその原因はありきたりな恐怖などでは無く、今までに無い高揚感に満ちていたから。


ただそれは"高所から飛び降りたらさぞ気持ちいいんだろうな"と言う感情に似た危険な好奇心。


つまり、絶対に触れてはいけない蜜の味。


そんな頭の中で理性と本能が渦巻く最中でも、ライルさんとマスターの会話は絶賛進行中だ。


Q,なんで私を襲ったの?


「リラ様から抹殺命令が出ていた為だ。理由は貴方ライル・ジッドがトップレベルの超危険人物だからとの事。普段ならば不法侵入だけで此処までの措置は行わない」


Q,リラ様って街頭モニターに映っていたあの天使?


「その通りだ。我々は警察の中でもあの方を護る事を専門とする天使護衛軍。本来なら警告すら無しに頭部を撃つ予定だったが……。それにしても貴方はリラ様を知っているのか?」


Q,なんで喫茶店のマスターに変装してたの?


「こちらの質問は無視と……。状況的に見て当然ではあるか。彼女はゲノム"五感強化"を持っている。それで、ゲノムユートピア全ての民の言葉を聞いている。一つも漏らさずに。だから貴方がたが、最寄りの喫茶店に行く会話をお聞きになられていた。そして先回りして……」


「やけに素直じゃないか。君の言うこと全て本当なら、この会話も聞かれてるってことになるけどね」


ライルさんはマスターが情報をペラペラ話すことに違和感を覚える。


「貴方がたも知っているだろうが、リラ様は慈悲深いお方だ。全ての人間どころかこれから生まれる子供の事を考え、世界を幸せにしようと日々模索しているのだからな。本来はこの様な手荒な真似は絶対しない。



……放っておけば世界を滅亡させてしまう怪物を相手にするなんて事が起こらない限りはな」



マスターは視界に慣れたのか、真っすぐライルさんの顔を睨んでいく。



「私がもしもそうだったらとっくに滅亡させてるよ。まさか、あの出所不明の噂を信じた訳じゃないよね? 女子高生が冷やかしで来る程度の噂を信じてどーするの」


私はこの二人の緊迫したやり取りにただ沈黙を通す他なかった。明らかに対話レベルが違い過ぎて、会話に割り込む気も起こらなかった。


「ああ……だから聞かれた事を全て話した。貴方が本当に怪物だったら、私を含めた武装兵六人は確実に殺されていた。だが今もこうして全員生きている」


彼はそう言いながらあえて両手を軽く掲げてみせる。見た限り、武器は所持していない。


「つまり……天使様への弁解の余地があるって判断してくれた訳だね」


「貴方は部下を殺さないでくれる程度の良心はある。抹殺するレベルの怪物では無く、話せば分かるタイプの怪物だと私は考えた」


「なんか言い方がまだ引っかかるけどそれでいいよ。そもそも私は単なる何でも屋だからね。誤解が解けてよかった」


すると今度は二人だけで謎の微笑みを交わし始める。


「ふっ……」


「ふっ……」


なんか勝手に置いてかれた気分に陥っている。このままだと二人で微笑みだけならぬ握手なんてものを交わしてしまう雰囲気だ。





「あ、でもこの人なんか人ならざる笑顔私に向けてましたけどいいんですか……!?めっちゃ怪しかったんですけど」




思わず私はポンッ!と頭に思い浮かんだことを突っ込んでしまった。


まあだってしょうがない。こんな怪しいって言うか喫茶店で大暴れしてるのに逮捕する気配全然ないんだから。されてもまた私が退屈しちゃうから困るんだけど。


あと多分このマスターっておバカさんだ。


結局のところ"カッコつけてるけど、あんな誰も信じない様な噂にホイホイ騙されて銃口向けたら返り討ちにされましたー。"ってだけだからね。


え、文字にして見るとやっぱバカじゃん……。


「全く……何故か丸く収まりそうだったのになんで荒らすんだい君は……?」


「てへへ」


「照れるな照れるな」


しかし当のマスターは何故か後方腕組みしながらこちらをニヤニヤ見ている。


「とりあえず私はリラ様を説得して、貴方に弁解の場を用意しようと思う。その内こちらから出向かせて頂く。それでは私は此処の後処理と援軍をキャンセルする指示を送らねばならない故……」


謎のホクホク感を顔に出しながら、彼は所持しているスマートフォンでどこかに連絡する。


「それじゃあ、我々は一旦此処を出ようかな。他のところで朝食を取りたいし。依頼についても口約束じゃなくて色々手続きも必要だし」


「でも……勝手に此処から出ていいんですか?」


「いいんじゃない? 退屈したくないなら警察に追われるのが一番って言われてるからね」


「うわ、思考がやべータイプの半グレ」


「んじゃあゲノム"瞬間移動"発動するから気張ってて」


「ま、待ってくだ




"詠唱"




その時、私の頭へとある声が聞こえる。





(その男の言う事を信じてはいけません! その男の噂は全て真実です!)


こ、この声って


(だって彼は……



――――――――――――――

ライル・ジッド依頼者リスト

行方不明者数550名

死亡者数  365名

生存者数   0名

――――――――――――――


"悪魔"なんですから。)



この声って、私の大嫌いなあの――。




「私の名前はリラです!この"ゲノムユートピア"の守護者である魔物……"天使"です!」


喫茶店から見える街頭モニターには彼女の映像がずっと流れていた。





"瞬間移動"





◇    ◇    ◇    ◇






「あ、やっぱり朝食はいらないや。水一気飲みしちゃってお腹タプタプだからね」


二人が転送された先は、とある祭壇の上空。


サイバーバンクには似つかわしくない白き教会の祭壇。今にも讃美歌と鐘の音が聞こえてきそうだ。


「不意打ちと来ましたか……!どこまでも私達をコケにしてくれますねこの野蛮な悪魔が!!!」


そしてかの地にて啼くは――。



人々を救う慈悲深き天使と呼ばれた少女、リラ。


しかしその顔付きは慈悲とは程遠く、憤怒に満ちていた。


「私の大切な依頼者であるアーミー氏を誑かそうとした癖に何を言ってるんだか」


「た、大切なら……!上空に放り出さないで下さると嬉しいんですけどっ……!?」


理想郷にて悪魔は天から君臨する。


理想郷にて天使は地から咆哮する。


"高速化"+"光属性"+"武器化"+"武器化"+"武器化"+"武器化"+"峰打ち"+"浮遊化"


「"詠唱"+"氷属性"+"氷属性"+"氷属性"+"痛覚遮断"+"瞬間移動"+"組換"+"念力"」



それはまるでかの神話の再現の様に。


天使と悪魔は殺し合いを持って対峙する――。

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