第十五話 ■
「……まあ、とりあえず俺の事は……処刑人Aとか言うセンス無い異名じゃなくて、孫■空、ル■ィ、ジョ■ョ。この三択から好きなの呼んでくれ」
ヤバい。なんか分かんないけど危険だ。ライルとは別の意味で危険過ぎる。早くこいつの口を閉ざさないといけない気がする。
「いや、俺はジョ■フ・ジョー■ター。ジョ■ョって呼んでくれ……の方が適してたか……? クソ、海外のノリ分っかんね……。でも俺はジョ■サンが一番好きだからよ……」
私は"処刑人A"との会話を諦め、ラジコン程度の大きさのブリキ戦闘機を召喚。
戦闘機の腹の部分を片手で摘まむ様に持ち、そのまま穴が開いた天井に全力で逃げ込む。
瞬間移動持ちを相手に無謀な行為なのは分かっている。だがもはや最善等を考えられる状況では無い。
「一応、兵士も召喚しておきますか……」
バタバタをプロペラ音を鳴らしながら私は二階に到着。
真下の甘味処には足止め用に十人のブリキ兵を再配置。ある程度の休憩があれば、ブリキ兵は直ぐに召喚出来るので非常に助かる。
「ありゃ……エア■スミス……!エア■スミスじゃあねえか……!!!!!」
なんでか余計に騒がしくなったが気にしない気にしない……。
◇ ◇ ◇ ◇
二階フロアは一階とはまるで雰囲気が違っており、彫刻や絵画など様々な芸術品が通路を塞ぐ様にところ狭しと飾られていた。
とてつもなくアカデミックな雰囲気で視界のモノクロフィルターが、より一層それを引き立てていた。
"封印"+"空間操作"+"色彩"
が、世界はそのままの景色を保ったまま急激に色彩を放つ。赤。青。黄。緑。橙。青。水色……。
色の情報が多過ぎて、目があり得ないくらいチカチカする。
「成程……貴様が此処で来るとは……。タイミングが良いのだか悪いのだか……」
目の前には軍服おじさんが煙草を吸いながら愚痴を垂れていた。
"ネオ東京規律第九条重大規定違反。■■教授"
だが正直、見た目は教授よりも大佐の方が似合っている程にワイルド。
そして彼の真上にはガラスのカプセルに閉じ込められた老人がプカプカと浮いていた。
"ネオ東京大虐殺。はぐれ日本軍"
処刑人A等のゴタゴタを抜きにした場合、恐らく二階でこの二人が戦って教授が勝ったのだろう。
しかしあの老人はまだ生きている。何故殺さないで放置しているのか。
「此処は我が作った異空間。我を殺せば完全に隔離され、二度と百貨店には戻れぬ。……無駄な戦闘はしたくない主義でね。言いたいこと分かるか? 今すぐ潔く負けを認めれば……」
聞いてもいないのにやけに自分の情報をぺらぺら話し始める。
「なので"手加減してくだしゃーい。殺さないでくだしゃーい(泣)(泣)"って事ですか」
「貴様ァ……」
教授は煙草をポイ捨て、代わりに左手で刀身が欠けたナイフを逆手に持って構える。
「"詠唱"+"空間操作"」
"メルヘン"
私は小型ブリキ戦闘機を二機、同じ程の大きさのブリキ戦車を五機召喚。
ちなみに"メルヘン"の能力は周囲の世界観にオートで引っ張られるらしく、今の私だと古き良き昔のオモチャがテーマなメルヘンが展開される模様。
私は早速、美術品の彫刻オブジェの後ろに身を隠し、教授を的に七機へ射撃を指示。
戦車の利点は火力が高いこと。難点は装填まで時間がかかること。
戦闘機の利点は連射が速いこと。難点は火力がブリキ兵より低いこと。
上手くこの二つの機体を使い分けながら、私はまず相手が強いかどうかを見定める。
「そんな豆鉄砲など効かぬぞ小娘ェェ……!」
さて向こうはナイフの欠けた刀身に空間操作を付与させて、全ての弾丸を自分へ当たらない様に逸らしている。
「我が小娘なんぞに舐められるなど言語道断……! さあ、今すぐ我の前まで来い! あれだけ煽っておいてコソコソするでない!」
あんな事を言ってわざわざ来る訳がない。随分と下手な煽り方だ。余程、私の喧嘩の売り言葉が効いたのか。それとも何か余裕でもないのか。
そもそもなぜ、空間操作を攻撃に転用しない。さっきから見ていてもずっと防御に徹している様に思える。
こうして使ってみると分かるがゲノムは発動する度に疲弊度が溜まる。私はまだ余裕だが……教授はどうだろうか。
此処で私は一つの予測を建てる。
恐らく宙に浮いている老人との戦闘でかなり疲弊しきっているのではないか、と。
だからああして防御に徹するしか無い。だからああして余裕のない行為を見せるしか無い。
「だからこのまま時間を稼げば、いつかはこちらが勝つと言う事に……」
"空間操作"
気が付くと私は木造のエレベーターの中に居た。色彩は未だカラフルである為、異空間のままなのだろう。
「貴様の様なクソガキでも様子見するのだ。我だって様子見するに決まっているであろうマヌケめ」
「ただの女子高生に様子見ですか?」
「状況を理解しているのか。この狭き空間なら戦車も戦闘機も役に立たぬ。……ただの女子高生と殺人鬼。勝つのはどっちであろうなァ」
「ただの女子高生にイキリですか?」
「……」
「……」
「……」
"メルヘン"
"空間操作"
先にゲノムを発動したの私の方だった。
私は小型戦闘機を一機だけ召喚させ、奴のナイフ目掛けて的確に撃ち出す。
「……ッ!」
"カラン"、と軽快な金属音を建てながらナイフが床に落ちる。
それから、"ベチョ"。と言う血が滴る音。
しかし同時に"空間操作"によって、戦闘機はエレベーターの空間から無残にも弾き飛ばされてしまう。
「ほらな、役に立たぬ」
「手に思いっきり傷g
まずは手始めに力任せの右フック。これは見事に私の顔面、口付近にヒット。
「ほらな、役に立たぬ」
ガードが予定より遅れた。私の身体は大きくよろけて、壁際に倒れてしまう。
「ふむ……当たって良かった。我の言う事もパンチも。……とりあえず貴様は土下座して泣いて詫びて死んで貰おうか。……はてさて、これは当たるかな?」
教授は怒りのままに私の首へ掴みかかり、そのまま壁に押し付ける。
何故……今、空間操作を行わない。
お前の最善策は空間をイジってナイフを引き寄せ、私の顔面をズタズタにする事だ。
怒っているのなら尚更、私を無残な目に遭わせるのが相場。なんだったら、戦闘機では無く私を空間から弾き飛ばせばそれで終わりのはずだ。
何故、空間操作を行わない。
やはり答えは一つ。
教授は私の顔面へ鉄槌を食らわそうと右拳を力いっぱい握った後、思いっきり振りかぶる。
「頭に血が上りやすい馬鹿で助かりました」
私は"メルヘン"を発動してブリキ兵が持っていた歩兵銃のみを手元に召喚。即座に彼の拳に向けて発砲。
【相手は私の煽りで怒り狂っている。】
【相手は連戦且つ激闘だったらしく、ゲノムも満足に使えない程疲弊している。】
【エレベーターに空間操作出来たのは恐らく"自分は疲れてないもん!"と言う虚勢。実際、この後に出来たのはせいぜいラジコン程の戦闘機を弾き飛ばしたくらい。】
【相手は私をただの女子高生だと思っている。】
「……私の両親を殺した殺人鬼の方がまだ相手してて楽しいですよ」
「ハァ……ハァ……ハァ……なんだ、貴様は……」
教授は大量に出血している右手を抱えてその場でうずくまってしまう。
「ハァ……ウグッ……ハァ……」
私は迷わず教授の頭部に歩兵銃をグリグリと突きつける。
「最期に言いたい事は?」
「……も、申し訳ございません。許し……て下さい……」
彼は本能的に恐怖を感じたのか、私に土下座して泣いて詫びる。
「良かった、当たりましたね。貴方の予言」
両親を殺した殺人鬼によって私は人生の全てを奪われた。
大量殺戮兵器ライル・ジッドによって私は残酷な世界を知った。
そして今、ツギハギ屋で恐怖を植え付けられ、処刑人Aで常識を取り上げられた。
「ああ、この銃の威力は手が吹っ飛ばない程度に調整してます。リラさんみたいな悲劇は起こしたくないので」
よって、殺人鬼から多くのものを貰った私、アーミー・ブループリントはただの女子高生であるはずが無いのだ――。
第十五話 エレベーター




