第十三話【後編】 ネオ東京からの■
「……あれ、ボケてるのかなお爺ちゃん。君は私が壊したクソゲノム研究所の"元幹部"だよ」
ライルは対抗する様に因縁めいた瞳で老爺を睨んでいく。
「ひひっ。それを"コネ"と称するお前のジョーク、ワシは好きだねぇ。まあ、お前だけ立ち話ってのもあれだ。お連れさんと共にネオ東京御園にご案内しようか」
"瞬間移動"
「……次から瞬間移動する時、カウントダウンしません?」
私とリラは着替えを済ませ、朝食を今まさに食べている最中であった。
私は外に出る服は制服と学校指定の芋緑ジャージしかない。今日はジャージコーデだ。
リラはいつものシスター服。可愛い。
さて転送先は白黒の世界。
そして巨大な庭園。
桜と思わしき白い木々が桜吹雪を舞わせて、私達の視界を彩らせていく。まあ全部白いけど。
しかしそれはとても雪の様に美しかった。
「……!」
リラはその光景に大きな口を開けてただ見つめるのみ。
「さて……紹介しておこう。このお爺ちゃんがネオ東京王兼クソゲノム研究所元幹部"紫藤"だ」
ちゃんと庭園のコンクリート部分に瞬間移動していた紫藤お爺ちゃんは可愛らしく手を振る。とりあえず私もリラも手を振る。
「それじゃあ早速、ワシとライル氏で交渉タイムとしゃれ込むとするかの。ひよっこの君等は其処で見ていなさい」
と言う事で第一回のリラ&マスターに続き始まった第二回交渉タイム。
今回の交渉は極めて単純。
ライル側
・一か月間ネオ東京で三人を匿って欲しい。
そしてそれに対して国王がどう対応するのか、と言うのが争点である。
断るのか受け入れるのか。
受け入れたとしても、その条件がなんなのか。
ライルやリラをゲノム兵器に活用すべし等と言った、条件が重い可能性もある。
と言うか、私個人はその可能性が高いと思っている。
だって……凄くサラっと明かされたけど、あのお爺ちゃんどうやらライルが兵器化した原因のゲノム研究所の関係者らしいし。
サラッとし過ぎて、どうリアクション取ればいいのかさっぱり分からなかった。
「ああ……ワシは"頭脳明晰"持っとるから大抵の事は分かっとるわ。ゲノムユートピア崩壊の真実も何もかもな」
彼はそう言いながら、空を見上げて遠い目をする。
「ワシ、両足動けてたら……マスター助けに行っとった……。絶対、ワシなら助けられた……。なんじゃあ、あのクソ黒天使」
思ったより話せそう……?
いつの間にかずっと私の袖を握りながら後ろに隠れていたリラも、お爺ちゃんの言う事に耳を傾けていた。
「一応聞くけど、黒天使とは関わりないよね」
「ワシの心をもう読んどるなら分かるはずだ。本当に知らん。ワシもゲノム研究所が今、動いてる可能性があるのにビックリしとるわ」
「ああ……。少しは情報が手に入るか期待して此処を選んだのに」
「あんま寂しいこと言うと泣くぞ。老人がギャン泣きするぞ」
「メンヘラ彼女みたいだねお爺ちゃん」
なんか私とリラを置いてまたマスターと初対面の時みたいに仲良くなり始めている。
いやもう既に関係性は構築されてるみたいだけど、なんか腹立つ。
ので割り込む。
「あの……二人って敵対関係にあった訳ですよね。なんでそんな男子高校生のノリで話せるんですか」
「愚問。それはワシがライル氏の大ファンだからの」
「なので私はクソゲノム研究所を潰した時、お爺ちゃんだけは両足をぶった切るだけに済ましたのさ」
「ひひひひ……。あの時は興奮でっ…イカレそうになったわい」
思ったよりイカレてる……?
「……?」
私は思わず何も知らずに聞いているリラの両耳を塞いでしまう。出来れば目も塞ぎたいが構造的に無理だ。
こりゃ、人間クソ認定されますわ……。いや、ジジイの方は魔物か。
んじゃあ魔物も人間も等しくクソでは……?
「そんな訳だからの、一か月間いくつか依頼をこなしてくれればネオ東京に居ついてくれて構わんわ」
これ以上考えるとおかしくなりそうなので本題に戻る。
「依頼って……お給料が出ると言うあの"依頼"ですか……?」
いや本題に戻らなくてもいい。再び交渉に割り込んで依頼について尋ねる。
「ああ、ワシはライル氏がケチと言うのも知っとる訳でな。アーミー氏の境遇を考えて、依頼と言う形をあえて取りたい」
「めっっっちゃ良い人ですね!!!」
「さっきまでイカれてるとか思ってたのに掌返すの早すぎない?」
一か月此処で匿って貰える。さらにお金も貰える。貰える尽くしだっ
「それもライル氏では無く、アーミー氏に依頼をしたいって言うのがミソでな。これでライル氏の取り分なんぞ気にせんでもええのよ」
「全部、私の金……?」
「そう、全部アーミー氏の金。好きなぬいぐるみも買える。部屋の模様替えも出来る。ああ、想像しただけで素晴らしい生活よのう」
ライルはなんか術中にハマってるなあ、みたいな冷たい視線でこちらを向ける。
うっせーえええええそんなもん知るかあああああああお金欲しいいいいいいい
って言うノリで私はライルを振り切って話を続ける。
「それで……依頼の内容は?」
お爺ちゃんは瞬間移動で私の元まで近づき、不気味な笑顔を浮かべる。
「修行。肉体的にもゲノム的にも精神的にもアーミー氏はもっと鍛えるべきと思っとる」
「それは……確かにそうですね」
はっきり言ってしまえば、私がちゃんとゲノムと向き合う強さを持っていればリラは助けられたはず。
それにライルは人間になりたい。ならば彼の強さに頼る訳にもいかない。
「そうだね。リラに出したあの完全体はあまり好みでは無い。出来ればなるべく人知を超える様な真似はしたくないね」
そうだ、私はリラの為に真犯人と争う事を決めた。
自らの手で今度こそ彼女を助ける為に。
私は熱く拳を握りながら、老爺に頭を下げる。
「むしろ、こちらからお願いしたいくらいです。私に……修行をつけさせてください」
「良き返事良き返事。ライル氏も協力してもらうぞ」
肝心のライルはなんだか納得してない表情で、リラと共に桜吹雪を眺める。
「そんなにお金、欲しかったんですか……?」
ライルは何故かリラの隣で彼女の物真似を始める。
「それはそうですけど、実はもう一つ理由があります」
……私が頑張ってるところを見てくれたら、リラが元気になって貰えるかもしれない。
「ゲノムで凄く凄く……嫌な思いもしましたけど、ゲノムのお陰でライルやリラ、マスターに出会えたのも事実ですから。頑張りたいです」
私は真剣な表情でライルの瞳をじっと見つめる。
「ふう……分かった。ただ暴走には本当に気を付けるんだよ。そもそも一人で戦う訳じゃないんだから、あんまり気負わなくても良いし」
と言う訳でライルの許可も得た。
「よっしゃ、それでは早速修行パートを始めましょ……
だが此処で修行を提案したはずのお爺ちゃんが待ったをかける。
「ああ、修行は明日からでええじゃろ。折角、ネオ東京に来たんだ。今日はゆっくり観光したらええ」
「今からお爺様と呼ばせて頂きます」
「リラ君。見てごらん、あれが"人間"って言うんだよ」
「……」
リラはそれはもうとても純粋な眼で私を見つめる。
ワタシ、ココロ、イタイ。
「今持っとる所持金も今の内にネオ東京の貨幣に両替しとくわ。んで、お勧めは……百貨店になるかの。新しい服も買えて、確か屋上に遊園地もあったはず」
「今から国王様と呼ばせて頂きます」
「まあ、ほんとは最初から国王様って呼んだ方が良いんだろうけど……」
◇ ◇ ◇ ◇
と言う訳でやってきました、ネオ東京百貨店(四階建て)(現在一階部分の入り口付近に居るよ)~~~!!!
至るところにディスプレイで並べられた白黒テレビが設置されており、ガラスに入っていたり街灯の様な棒状の柱の上に乗っかっている等なんか洒落てる。
「今宵は■■■■■暦1■■■年■月■日。おはやうござゐます、さて本日はお日柄も良く……
ちょっと世界観が今まで見た事無さすぎて新鮮味が……その、凄い!
ところ狭しと壁にはやけに渋めな女性などが描かれた様々なポスターが張られており、これ一つ見ても面白い。
「ンポロヒ……?」
旧文明の空気を原液で吸ってる感がエモい。……エモい!
「……!」
「言っとくけど私は旧文明の人間だけど、この時代に生きてないし詳しくないから解説は無理だよ」
勿論、リラとライルも同行中。リラは百貨店に売られているかすていら……現文明で言うカステラに興味津々だ。
現文明にある食物も旧文明フィルターで見るとなんか……良い!
「ちなみに百貨店はお爺ちゃんが貸し切りにしてくれてる。我々と現地人を無闇に交流させられないからね」
「貸し切り!?!?!神様と!!!!呼ばせて頂きます!!!!お爺ちゃん!!!!!」
「なんか……私と遊んでる時より退屈じゃなさそうなんだけど、気のせいかな……気のせいだよな……」
謎にショックを受けてるライルを放っておいて、私とリラは早速衣装屋に入っ……
!!!!""""あ、赤と花柄に彩られた袴~~~""""!!!!(を着ているマネキン)
か、可愛すぎて失神するか思った。
年中芋ジャーウーマンの私には刺激が強い。……強い!!!!
「待ちな、此処はこの道70年の幸代お婆ちゃんに任せな」
私とリラは何処からともなく駆けつけた謎の老婆と超高速で着付けを完了。
私は赤(花柄)、リラは水色(花柄)をそれぞれ着込んでこの世界に早速馴染ませていく。ちなみにお婆ちゃんは瞬間移動で帰った。
「ありがとう、幸代お婆ちゃん。ありがとう、神様。ありがとう、ネオ東京」
「独裁国家は危険だけどさ……こんな精神的におかしくなるタイプの危険だったっけ」
ライルは私のテンションにまるでついて来れず、その場で壁に寄りかかってしまう。
「あ! あれは……エスカレーター!!!いや、エスカレヱタア!!!!」
「エスカレーターは普通に今の文明でもバリバリあるよ……?」
りりりんりりりん、と二回電話が鳴る。
鳴った先は直ぐ近くの壁に設置された固定電話。
"第六感"
本能がこの電話に出ろと囁く。
「……やあ国王様。何の用だい」
「おお、ワシからの電話だと気付いとったか」
「私に用があるのは知っている。本題を言ってくれ」
しかし国王様はため息をつきながら話を進める。
「察し良いのか悪いのか分からんやっちゃな。リラの依頼についての話だ」
「……修行か。私に何を協力しろと?」
国王様はさらに大きくため息をつく。
「何も協力せんでええわ。むしろ、ライル氏が余計な茶々入れんほうが修行捗る訳よ」
「成程……やっぱり、イカれてるねお爺ちゃんは」
リラとアーミーが乗り込もうとしたエスカレヱタアに誰かが仁王立ちで降りて来る。
「あ……あ……」
奇声を静かに上げて降りて来る。
猫背で軍人の男が降りて来る。
ツギハギだらけで縫われた傷の男が降りて来る。
「あ……」
彼は白目を剥きながら、右腕のツギハギ部分を抜糸する。
すると禍々しくそしてバチバチと火花を散らした黒のオーラが噴き出る。
"闇属性"×30+"雷属性"×30
「ええモン思いついたからの……やっぱ修行今から始めよか。修行内容は"牢獄から脱獄して偶然、百貨店に居座っちゃった殺人鬼十人を全員ぶっ倒すまで帰れまてん!"っちゅー奴よ」
「……ようやく本性見せやがったか」
第十三話【後編】 ネオ東京からの刺客




