第十一話 終末論
吹雪が舞っている。
リラの様子は見えない。
吹雪で見えないからなのか、もういないからなのかも分からない。
天使も悪魔も人間も螺旋塔も、全てが凍って静止している。
ほぼ零距離で"氷河期"を浴びたことにより皮膚、骨、血、筋肉、神経、真芯の部分まで氷漬けにさせられ、マスター死亡。
あれだけしぶとかった黒天使もあっけなく死亡。
それでも、私は無傷で生きている。
何故なら、ライルが庇ってくれていたから。
"火属性"×200
ライルは掌から放たれる炎だけで私の周りの氷をあっけなく溶かす。
「わ、私たち……人間、いや私のせいで……リラさんは……」
しかしその心境は穏やかなものでは無かった。
"私があの時、慈悲を持って彼女を説得していたら結末は変わったかもしれない。"
"辞めたい"
"違う。あいつらは死んでもいい奴だったから私は止めなかっただけ。こんな事になるなんて思わなかった。"
"逃げたい"
"その発言、私の両親を殺した殺人鬼にも言えるのか。"
"黒天使は退屈だったから人を殺した。もしも私がライルでは無く彼に出会っていたら。"
"死にたい"
"苦しい"
"嫌だ"
"人間同士、分かり合えるわけがないだろ。"
"止めて"
"つまんねえ綺麗事"
"止めて"
"止めて"
"偽善だ"
止めて
止めて
止めて
「止めて……止めて…」
思考がぐちゃぐちゃになる。
私ももうすぐ心が壊れてしまいそうになる。
しかしライルがそれを許さない。
「……さて、私は今から本気を出す。彼女を止めなければ」
いつものあっけらかんとした雰囲気とは違う。
何を考えているのか分からない彼ではない。
"私の目的は人間らしく死ぬこと。それが例え、処刑台の上でもね"
誰よりも人間らしい瞳を宿しながら彼は拳を握る。
彼は私なんかよりも人間であろうとした。
いや、普通の人間なら此処で逃げ出すんだよ……。
そんな情けない声かけすら出来ない。
「と言う訳で、アーミー君。今から君をジェット機内部に瞬間移動させる。そして高速で此処から逃げて欲しい。ただしゲノムユートピアは危険だから駄目だ」
そう言えばジェット機はオートで動いてくれるから誰でも操作出来るって話だったけど、私一人で……?
いや、もうそんな色々考えている場合では無い。時は一刻も争うのだ。消えたリラがどういう行動に出るのか、誰にも分からない。
「私、どうしたら……」
「ジェット機ならオート
「いや……ジェット機のことじゃなくて……」
私はリラの闇落ちの原因が自分ではないか、と言う事を全て白状する。
"ライルなら何か私を救う言葉をくれる"
"私が倒れた時みたいに耳障りの良い言葉をくれる"
"助け「残念だけど……私は怪物だからね、今の君の気持ちは分からないんだ。それに全知全能でも無いし」
ライルは私の悩みを投げ捨てる様に言い放つ。
「……」
「でもリラは、謝ったよ。私や君を傷付けた時。変な言い訳なんか一つもこぼすことなくね」
"瞬間移動"
◇ ◇ ◇ ◇
リラの行き先はゲノムユートピア。
丁度、この地区に存在する螺旋塔の組換を完了したところだ。
"氷河期"
此処は絶対零度の世界。
よってこの瞬間、天使は完全に堕天した。
「すぅ……はぁ……」
千人規模の魔物たちが鼓動を一斉に止めた氷の土地にて。
人間と魔物が一匹もいない世界は、あまりにも空気が澄んでいた。
「まさか……第二ラウンドが本当に始まるとは」
案の定、天から降りるはライル・ジッド。
「もしや私を止めに来たんですか? 貴方が人間であろうと考える意味がもう分かりません。人間は醜悪なのに、何故ヒトであろうと?」
「マスターも人間だけどね」
「……」
「それにさ……マスターが身体を張って君へ説得したのを見て、放っておける訳ないじゃないか」
続けてライルは正面からリラに言い放つ。
"誰かの為に戦う。この慈悲こそが、ヒトらしさって奴じゃないか"
「黙れ……黙れよ、てめえが人間らしさを語るな兵器が悪魔が怪物が!!!!!!」
理想郷にて天使は天から君臨する。
理想郷にて悪魔は地から咆哮する。
それはまるでかの神話の再現の様に。
天使と悪魔は殺し合いを持って対峙する。
「では怪物らしく行かせて貰おう。―—"完全体"。」
"武器化"×1000
"砲弾"×無限
"無限生成"
"第六感"
"五感強化"
"筋力増強"
"痛覚遮断"
"頭脳明晰"
"峰打ち"
"浮遊化"
"詠唱"
"念力"
"光属性"
"追尾"
"テレパシー"
"暴食"
"水属性"
"火属性"
"吸引"
"空間操作"
"時間操作"
"組換"
"重力操作"
"サイコキネシス"
"運勢操作"
"混乱"
"毒"
"麻痺"
"斬撃属性付与"
"パンチ力増加"
"会心の一撃"
"幻影"
"爆音波"
"石化"
"バーサーカー"
"風属性"
"鉄拳"
"磁力操作"
"影操作"
"鬼人化"
"腐敗化"
"鱗"
"血液操作"
"硬化"
"伸縮化"
"分裂化"
"ゲル化"
"ゲノム無効"
"飛行化"
"巨大化"
"バリア"
"電気"
"翼"
"コピー"
"土属性"
"自己再生"
"幽霊化"
"放熱"
"アンデッド"
"尾"
"軟化"
"回転"
"融合"
"反射"
"可視化"
"胞子"
"爆弾化"
"骨格変化"
"反転"
"不老不死"
"浄化"
"凝固"
"フェロモン"
"触手"
"洗脳"
"記憶改竄"
"感情除去"
"五感消去"
"魔物召喚"
"角"
"牙"
"爪"
"戦術"
"吸血"
"部位増加"
"天候操作"
"聖属性"
"闇属性"
"氷属性"
(以下略
全長はおおよそ螺旋塔ほど。ライルの肉体からは数多の頭、腕、足、が木の枝の様に排出。まさに巨大な御神木が如く、地面に根を張り佇む。
さらに排出された枝の部分には、銃口が内部に搭載。マシンガンの様に大量の砲弾が射出される。
またこの砲弾にこそゲノムが含まれており、彼が所持している177429種のゲノムがそれぞれ一発ずつに付与。
氷属性の砲弾を撃てば着弾した瞬間に凍り付き、光属性の砲弾を撃てばレーザーやエネルギー弾として降り注ぐ。
最大砲口数10000。最大射出距離半径15㎞(瞬間移動ゲノムを所持している場合はこの限りではない)。最大砲撃持続時間7日。
ランダムでゲノムに関連した砲弾による同時砲撃こそが――。
終末論と呼ばれる所以である。
ライルの肉体は神木の一番高い枝へ上半身のみ設置される。
そして彼は、かつての天使と同じ様に祈る様な所作を行う。
人間はどのように進化するのが適正か。
「やっぱり即刻、殺した方が良かったじゃないですか……」
実際に目の前に見ることでリラは、進化の果てには終末しか無いことを悟る。
その銃口は全てリラに向けられる。
安心して欲しい。"峰打ち"ゲノムがあるので必ず死なない。
死ぬほど痛いが。
かつて神様は七日で世界をお造りになられました。皆が幸せになれる様に歴史書である聖書を託しました。どんな困難でも聖書があれば対処が出来る様に、神様が書いてくれたのです。
標的確認―—、砲撃開始。
"草属性"
"剣豪"
"霧"
"憑依"
"蟲"
"獣人化"
"怨恨"
"恐怖"
"ゲル化"
"悪夢"
"ゲノム無効"
"圧縮"
"改造"
"重量化"
でも人間は争いました。誰も幸せにはなりませんでした。なので、神様は特別に設計図であるゲノムを託しました。
急速に進化させる事は混乱に繋がると思いましたが、それでも今のままでは人間は幸せになれないので、仕方がなくゲノムを用意せざるを得ませんでした。
それに神様一人ではもうどうする事も出来ないとも考え、魔物を造りました。魔物は神様の補助をする役割を果たしました。
これでようやく皆が幸せになれる世界になったのです。
"吸引"
"増殖"
"放出"
"空間操作"
"封印"
"色彩"
"モノクロ"
"瞬間移動"
"振動"
"亜人化"
"泡"
"刃物化"
"鉱石化"
"変身"
"不干渉"
"未来予知"
"長寿化"
"分身"
"千里眼"
"チャージ"
でも人間は争いました。誰も幸せにはなりませんでした。ある者はゲノムを悪用して、殺戮兵器を造りました。ある者は慈悲を無碍にして悪事の限りを楽しみました。ある者はこの世界をつまらないと見限り、自殺を考えてしまいました。
「どうやったら……満足するんだお前等」
わたしはただしあわせになってほしかっただけなのに。
リラの全身は砲撃により撃ち抜かれ、生きているのが不思議なほどにボロボロであった。
「こうでもしなければ、暴走した君を止められなかった。恐らくこのまま放置していたら……世界中が氷河期に陥り人類は滅亡していただろうからね」
ライルは一瞬で元の姿に戻り、倒れているリラに"自己再生"のゲノムを発動。
また暴れない様に完治とは行かないものの、彼女の傷は少しずつ癒えていく。
「……」
だが彼女の瞳は輝くことは無い。ずっと渇いたまま、一点を見つめるのみ。
すると彼等の真上に見覚えのあるジェット機が到着する。
勿論、其処に乗っているのはアーミーだ。
未だ絶対零度が続くこの世界だが、ライルは咄嗟の機転で熱や炎系のゲノムを駆使して温度を上昇。
ジェット機はそれを確認した後、今は亡きゲノムユートピアに無事着陸する。
長かった千年大国の旅路からようやく戻って来れたのだ。
そうだと言うのにアーミーは感傷に浸る暇もなく、ジェット機の扉を思いっきり開けてリラの元へ駆け寄る。
「……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい」
アーミーはリラの冷たくなった手を力強く握る。
にんげんがないていた。
「……ごめんなさい。……ごめんなさい」
だいすきなにんげんがないていた。
だけど、もうなにもおもえなくなっていた。
夢を見ました。
其処は千年大国で、私は親友にこれから会いに行くんです!
そう、これから一緒に旅をする仲間を紹介する為に!
私、ずっとゲノムユートピアの運営をしていたので実は旅に出た事ないんです!
だから仲間と一緒に冒険するって言うのがとっても楽しみなんですよね!
あれ、仲間の名前は……なんだっけ……。
確か、シルクハットでクソ悪魔でとんでもないクズなのは覚えているんですけどね……!
後は……私が傷付けてしまった女の子。いっつも話し相手は男の人だったので、女の子と話すの本当に楽しみです!!!
これから沢山色んな思い出を作って、仲良くなっていくんだろうな。
そして最後に……私が道を踏み外しそうな時いつも正してくれる優しい人。
そうだ、この人が居たから……私、人間が好きだったんだ。
名前、なんだっけ。
名前、ながいからおぼえられない。
もう……いいか……どうでも。
夢を見ました。
四人でずっと旅に出る幸せな夢を。




