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ブループリントヒトゲノム  作者: 冬蜂
序章 ゲノムユートピア編
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第一話 この世界で一番幸せになれる方法

1999年7月。世界各地にてDNAの形状に極めて類似した螺旋の青い塔を観測。全長はおおよそ東京タワー程。塔同士の間隔は一定ではなく、多くの建築物や障害物を破壊しながら地面から生成。

後にそれはある地域で"螺旋塔"と呼ばれた。

或いは"神様のプレゼント""この世界の厄災""パンドラの箱"。


と言うのもこの螺旋塔は塔自身を中心に半径15㎞程の円の範囲で、著しく環境や生態系を変化させる性質を持っていた為だ。

もっと踏み込んで言えば、現代科学ではあり得ないファンタジー要素を介入させる性質。


例に挙げると雪では無く綿が降り注ぐ北極。常に業火に晒される渋谷等。


さらに魔物と呼ばれるドラゴンやスライムまでも自然発生する始末だ。


そうお察しの通り、この螺旋の塔こそが神様が描いた設計図"ゲノム"である。


この螺旋塔に入り神様とやらの啓示を聞くことでゲノムを与えられる。とされている。


何故、この螺旋塔が発生したのか等のメカニズムや目的は一切不明。なのだが魔物が時折「これは人間への試練」「人間はどのように進化するのが適正か」等と言語を発していることからゲノムは神様のプレゼントであり、魔物はそれを受け取るに相応しい人間をふるいにかけている。と言う仮定に至っている。


しかしあくまでも仮定であり、残念ながら確証には至っていない。


初めてゲノムが観測されてから数百年の時が経った現在でも――。













普通。平凡。凡庸。退屈。


今日の私の着飾り方はこれで決まり。


そうヤケクソ気味に私は黒のリュックを背負って自分の家のドアを開けた。


私の名前はアーミー。どこにでもいる銀髪で金色の瞳の女子高生。ブレザーの制服を着ているけど行き先は学校なんかじゃない。


「だってあんなところ退屈でしか無いんですから」


そんな訳で朝から登校もしないでサボろうとしている最中だ。ちなみに今はサイバーチックな街並みを呑気に散歩中。足取りは軽かったり重かったり何とも不安定だ。


「他の子はまだ登校してるっぽいですいし今のところは制服でもセーフですかね。……まあ、そんな細かいこと誰も気にする訳ありませんけど」


私は不自然に口角を上げては呆れる様に台詞を吐き捨てる。


だってしょうがない。私の周りの子、みんな角とか尻尾、翼とか生えてるんだから。

髪の色も赤、緑、黄、青と奇抜で何でもあり。さらにほとんどの人が火を操り、水を操り、風を操り、氷を操り…まるで二次元の世界から飛び出たのかの様。

だから制服を着てるとか、銀髪は別に普通じゃないとか、いちいち気にしてても意味が無い。


「ほんと……みんな、おかしいと思わないんですかね」


そんな事を考えていると、私の目の前へ高層ビルに立てかけられた巨大な街頭モニターが視界に入る。


「私の名前はリラです!この"ゲノムユートピア"の守護者である魔物……"天使"です!」


モニターに写されたのはシスターの恰好を施した金髪のロングヘアー少女。天使に相応しい微笑みで高いところから私を見下していた。


「私達魔物はずっと考えていました。人間はどのような進化が適正なのか」


「魔物の中にはあえて過酷な環境に身を置かせる事、即ち試練によって進化を無理やり促す。そんな非道を行う者も居ました」


「しかし私は違います!私は寄り添うべきだと考えました!そう、神様のプレゼントである設計図(ゲノム)と共に……!」


「だってそうではありませんか……。人間は愛でるべきなのに壊してしまっては意味がありませんもの」


「なのでこの"ゲノムユートピア"では誰でも自由にいつでも進化が出来ます!ゲームで言うアバターの様な感覚で好きな自分に生まれ変われちゃいます!しかも飽きたらいつでも組み換えも可能なんですよ!」


「これにより人は自由に翼を手に入れるどころか異能力を得られます!神様が描いた設計図ですので、拒絶反応等は絶対あり得ません!」


「マッチョになりたい? なら"筋肉増強"ゲノムで一発!頭がよくなりたい? なら"頭脳明晰"ゲノムで簡単!」


「容姿、性格、性別、人種、職業、年齢、過去。全てが理想に変わります!」


「そうです。だってこの世界は神様が作ったんですから……!みんな幸せになれるんです!なるべきなんです!」


「だからいくらこの世界は残酷だったとしても私は言います。これから生まれる子供達に。そして今この映像を見ている貴方達に」


「ようこそ、この世界へ!どうぞお楽しみください!」







この台詞を聞いて本気で虫唾が走るのは私だけなのだろうか。


どうにかこの気持ち悪さを言語化したいけど、どうにも出来ないのに苛立ちが募る。


「ほんと、つまんねぇ世界」


だって――、私は幸せじゃないから。


フラッシュバックするのは、血みどろで出来た過去の光景。


私は大きく歯ぎしりをしてあからさまに顔を歪ませる。






◇    ◇    ◇    ◇






「着いた着いた」


そう軽く息を吐きながら私はかの螺旋塔の麓にまで到着していた。


異物であった螺旋塔もこのサイバーバンクシティからしてみれば実に馴染んでおり、すっかり街のシンボルに成り下がってしまった。


あれだけ世界の常識を変えた螺旋塔も、今や公園のトイレレベル程度の認識だ。


そして実は私はとある目的を持ってサボりを実行していた。


「本当にどこの螺旋塔でもいいんですかね」


とある噂を聞いた。


"ゲノム研究所所長のライルさんを呼び出すと、一つだけ好きなゲノムを与えてくれる"


とは言え、噂は結構曖昧で"好きなゲノムの場所を教えてくれる"と言った劣化バージョンだったり、"自分の持ってるゲノムを一つ奪われてしまう"逆バージョンだったり、尾びれ背びれが酷い。


残念ながら怪しすぎてほぼ誰もやらない。そもそも数年前にゲノムユートピアが建築されてからはこの噂すら無意味だし。


ちなみに呼び出し方法は、最寄りの螺旋塔のどこかに待ち合わせ場所を書いたメモを貼っておくだけ。ますます怪しすぎる。


「ゲノムは大嫌いだけど……退屈だったから呼んでやろうと思って」


なんなら、噂は嘘の方が良い。その方が死……。


「あれ、待ち合わせ場所だけ書くんだっけ……。時間や名前は……?」


今更気付いた事だけど、噂が曖昧すぎてメモに何を書けばいいのか正確に覚えていなかった。


「ま、いっか」


もう考えるのも面倒なのでリュックからノートの紙を引きちぎって螺旋塔に押し付け、ポケットに入ってるペンで待ち合わせ場所を記入……。


「あ、待ち合わせ場所も決めていませんでしたね……。いいや、近くの喫茶店で」


「んー言っとくけど、私はコーヒーは飲めないよ」


そうまるで友達にでも話しかける様に私の隣へ現れたのは、紳士の様な恰好を施した謎の男子。背格好や顔立ちからして私と同年代くらいと思われる。ゲノムで操作していなければの話だけど。


「……あの、だ、誰ですか」


「おやおや……私の事を呼んだのは君じゃないか」


ボロボロのシルクハットにタキシード。ボサボサの茶髪姿。研究者とも一般人にも程遠い謎の雰囲気をまとった人物は、逆に何故か不思議そうに私を見つめる。


「それじゃあ……貴方がゲノム研究所のライルさん…ですか?」


思ったよりお早い登場に脳みそが理解できず、私は困惑する事しか出来なかった。


「ご名答。私はゲノム研究所所長ライル・ジッド。さてそれではご依頼を早速お聞きしようか」


「……」


ただしこの際、私と彼の間にはある問題が発生していた。


「すみません。ライルさんの顔を知らないので、貴方が本当に本人なのか分からないんですけど……」


「え……。君、私を知らないで依頼に来たん……ですか?」


なぜ……敬語?


「そもそも、"あ、本当にライルさんって実在するんだ。都市伝説だと思ってた"ってところですね……」


「……な、なるほどね……」


するといきなり彼は操り人形の糸が切れた様に地べたに転がり込んでしまった。


「ようやくご飯にありつけると思ったのに」


「え、どうしたんですか」


「いや、凄い空腹なだけだ。喫茶店へ行こう」










モーニングの時間だと言うのに、私とライルさんが入った喫茶店には誰もいなかった。


内装はサイバーバンクに相応しく銀を基調とした近未来チックに満ちており、さながら宇宙船の様であった。


「外の景色を見るのが好きだから窓際の席指定してもいいかな。誰もいないのでね」


彼はそう鬼の角を生やした初老喫茶店マスターに言いながら、答えも聞かず窓際の席に座りモーニングセットを注文。


マスターは店のカウンターで唖然とするばかりでライルさんの言動に何も言えなくなっていた。


「私はもう朝食はコンビニで済ませたので大丈夫です」


「そう?それでは君の水貰ってもいいかな?」


「スマートに何を聞いてるんですか」


余程お腹が空いていたのか、鬼マスターが丁度テーブルに置いた水を二人分勢いよくガブ飲みし始める。


「それで色々気になる事が多過ぎて……まず、ライルさんって何なんですか?」


「ああ、自己紹介は大事だからね」


彼は手際よく胸ポケットから一枚の名刺を取り出す。


―――—―—―—―—―—―—―—―—―—

ゲノムの情報を集める為に猫探しから庭の手入れまで何でもやります。

"ゲノム研究所"

ライル・ジッド

――――――――――――――――――――


「えっとつまり……貴方はただの何でも屋ってことですか」


「ふっ……ご名答」


「それじゃ噂って……」


しかし私が考える間も無く、彼が直ぐにその回答を用意してくれる。


「ああ、その噂は私も迷惑していてね。出所不明だし。私は単なる何でも屋なのに変な噂ばかり流れるせいで、誰も依頼してくれないから腹ペコで死にそうだったんだよ」


「え、本当にそれだけ……?」


「ゲノム研究所ってのもカッコつけてるだけだね。別に私は正式な研究者では無い。個人的にゲノムの情報を集めてるけれど」


予想していた事態より以下の以下の以下の出来事が起こって私は思わず拍子抜けしてしまった。


Q,なんで呼び出し方法が螺旋塔なの?


「スマホ持ってないから」


Q,なんで螺旋塔に貼った依頼のメモを認知できるの?


「ゲノム"第六感"で大抵分かるから」


ゲノム。その情報が出た途端、私は本能的に顔をしかめてしまった。


「ゲノム"第六感"……。あんまりゲノム関連はよく理解が出来ないですね……」


「言っても単なる異能力だから難しくないと思うけど」


「いやそう言う意味じゃないです。わざわざ使う意図って言うか……」


しかし私の言う言葉を遮ってライルさんは"本題"に斬り込んでいく。


「まあ……なんでもいいさ。それより私への依頼は何でも良いから用意して貰わないと困るね。冷やかしはお断りだし」


どうしよう。とても全うなことを言っている。


「それに私は見ての通り、お金が無くてね。君から今すぐ依頼金を頂戴しないといけない。料金はこのモーニング代でいいよ。学生料金ってことで」


「まあ私の都合で呼び出したのでそれは勿論お支払いしますけど……」


その言葉に心底安堵したのか、気が緩んだ表情でさらにライルさんは話を続ける。


「実はもう一つ頂戴したい事があるんだけど……まずは依頼について聞いた方がいいかもしれないね」


「依頼、ですか……」


そうは言ったものの、何も思いつかないのが正直なところだ。


「それじゃあ、ですね……」




普通の容姿。


平凡な人格。


凡庸な思考。


退屈な人生。


思いつくのは反吐が出る様な事ばかり。


だからと言ってゲノムとか言う浅い幸せに浸かりたくも無い。


だから、だから私の依頼は――。





「私を退屈させないで下さい」





それを聞いたライルさんはにこやかに答える。


「それじゃあ……いきなり夢が叶ったね。おめでとう」


「え……?」


"第六感"


すると彼の周りに突如、武装した兵士が瞬間移動が如く登場。人数は五人。手元にはサブマシンガンが構えられている。


続けてカウンターに居る鬼マスターも待ってましたとばかりにサブマシンガンをライルさんの方へ向ける。


「"詠唱"+"五感強化"+"筋力増強"+"痛覚遮断"」


マスターは謎の呪文をいきなり唱え始める。すると武装兵達からたちまち白いオーラが噴き出ていく。


「其処のお嬢さん、我々は警察なので安心して頂きたい。……目的は貴方だけ故、不法侵入者ライル・ジッド」


「……今日はよく人に求められる日だね。バーゲンセールでも無いのに」


「即刻、このゲノムユートピアから出て行けば我々は貴方を見逃す。さもなければ貴方をこの場で撃たなければならない」


しかしライルさんは何も動じることなく、マスターの瞳をしっかり見て答える。


「さっきから何を躊躇しているのかな。さっき空腹で倒れてるところを撃てば良かったのに」


"高速化"


彼は目にも止まらぬ速度で武装兵の一人の頭を鷲掴みしてすぐ近くの窓に放り投げる。


窓ガラスは盛大に割れながら兵士と共に大きく外へ吹っ飛んでいく。


「さあ、楽しいパレードの時間と洒落こもうか」


"武器化"×2


「え、え」


私の戸惑いなどいざ知らず、彼は両手から銃口らしき器官を披露する。


"光属性"×3


「ふ、伏せr


"砲弾"×10


"追尾"×4


「光弾発動」


マスターの指示よりも早くライルさんの掌からは黄色い散弾が幾つか放たれ、四人の武装兵の顔面付近に被弾してしまう。


"峰打ち"


「安心しろ。峰打ちだ。死にはしないさ。……峰撃ちの方が正しいかな」









足が……動かない。


「はぁ…はぁ…」


動悸が激しい。


私はただ椅子に座っていただけなのに無傷で生きていた。


だって武装兵の一人が私を庇って守ってくれていたから。


「五感の中でも視力を強化したのは失敗だったね。みんな眩しすぎて失神してしまったらしい」


他の武装兵は気絶していたもののマスターはどうやら意識がまだ残っていたらしい。それでも目を抑えながらただ呻くのみだけど。


「君には色々聞きたい事があるからね、手加減したよ」


するとライルさんはようやく私の存在に気にかけてくる。


「おや……逃げやすい様に窓を壊したのに、まだ此処にいたんだ」


「……」


声が出ない。怖い。怖い。怖い。


けれどどうにか私は近くで眠る武装兵をどかして彼の元に寄る。


震える足を必死に抑えながら、私は目の前のライル・ジッドに近づいてみせる。





「……いいね。そんなに私の戦いを間近で見たかったのか。そんな人間初めてだ。大抵は逃げるが相場なのに。ふっ……それじゃあ――。






"これからもっと退屈しないで済むぞ"






そう言って彼は人とは思えないイカれた笑顔を私に向ける。





私は今、とんでもない怪物と出会ってしまったのかもしれない。


先程まで私の存在を認知せずに大暴れ、武装兵を容赦なく無力化、それも相手は私の様な一般人を庇う程に善人である警察。


ああ、目の前の彼は圧倒的にクズだ。


しかしそんな理性とは裏腹に、私も本能的に向けていたのだ。



「……どうやら、私も貴方も悪人みたいですね」



圧倒的な狂気に魅せられた眼差しを笑顔と共に。



これは何かが欠落した者達が"ヒト"の幸せを求める為、ヒトゲノムを巡る物語。


一人は人らしさに欠ける紳士ライル・ジッド。


そしてもう一人はこの私―—、アーミー・ブループリント。




この物語の名は【ブループリントヒトゲノム】。

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