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097.テスト結果

 ドラゴンが黒髪の少女に(かしず)いた。

 ジークハルトと少女は熱い口付けを交わしていた。

 黒竜のようなジークハルトが子うさぎのような少女をまるで食べてしまうかのようだった。

 あの少女は誰なのか。

 一体何者なのか。


「ジーク様がうさぎを溺愛している。という噂が流れています」

 噂と憶測と間違った情報が流れ、最終的にはおかしな話になったとクリスは溜息をついた。


「ジーク様、うさぎを飼っているのですか?」

 もふもふしたいと目を輝かせているリリアーナを見たジークハルトは声を上げて笑った。

 本人が全くわかっていない。

 噂などどうでもいいが、貴族達は面倒だ。

 今頃、リリアーナの正体を探るのに必死だろう。


「宰相の腕の見せ所だな」

 ジークハルトはニヤリと笑った。



「あの、自分で歩けますっ」

 ジークハルトに抱えられ、帝宮の廊下を進んでいく。

 学園長がテスト結果を持って来たので応接室に来てほしいと連絡があったため移動中だ。


 場所がわからないので1人では行けないが、抱っこでなくてもいいのに。

 すれ違う人達に2度見されるのでかなり恥ずかしい。

 リリアーナは真っ赤になりながらジークハルトの肩に顔を埋めた。


「あぁ、なるほどそういうことでしたか」

 抱っこされたリリアーナを見た学園長は、『うさぎを溺愛』の本当の意味を知った。


 応接室には学園長、宰相、なぜか皇帝陛下が座っている。

 挨拶をしようと思ったが、リリアーナは床に降ろしてもらえずに、そのままソファーに座るジークハルトの膝の上に乗せられた。


「では、結果から」

 誰かこの状況を突っ込んでください。というリリアーナの願いは通じず、そのまま開始される。


「結論だけ言ってしまいますと、すでに学科の卒業資格がありますので15年生でも構いません」

 学園長の言葉に、全員がリリアーナを見る。


「え? で、でも、歴史とか地理は白紙ですよ?」

 歴史、地理はまったくわからず白紙、剣術もほぼ書けていない。


「そうですね。でも3教科が90点以上という条件をクリアしているので」

 学園長はリリアーナの答案用紙をテーブルに広げてみせた。

 魔術96点、計算100点、歴史0点、地理0点、薬草学79点、剣術37点、解剖学92点。


 計算100点の答案を皇帝陛下が手に取る。

 魔術は宰相が、解剖学はジークハルトが手に取った。


「……すごいな」

 思わず皇帝陛下の声が漏れた。


「あと、こちらがスライゴ先生がどうやら悪戯で紛れ込ませたテストのようで……」

 おまけ問題と言われたテストを学園長がテーブルに置くと、全員がその紙に釘付けとなった。

 それには点数がついていない。

 おまけだから採点されないのだろうか。リリアーナは首を傾げた。


「……リナ。これは実現可能か?」

 ジークハルトがおまけ問題を指差した。


「えーっと、本当はウィンチェスタ侯爵が作った青の魔道具でドラゴンを囲むとできるのですが、ここには魔道具がないので、代わりに魔術で結界を作る方法で書いたので……。えーっと、結界はまだ練習中でうまくできなくて……」

 こんな説明で伝わるだろうか。

 そういえば前回もエドワードに説明を手伝ってもらってようやく特別講座のみんなに伝わったのだった。

 わかりますか? とリリアーナは困った顔をした。


「結界とは?」

 学園長が尋ねた。


「シールド? はわかりますか? 全方位にシールドを張る……が青の魔道具なので、四角くシールドが張られた状態を結界と呼んでます。……勝手に私だけ……」

 リリアーナは自分がやっぱり説明が下手だと実感した。

 うまく言葉にできない。


「……全方位にシールド……」

 宰相が驚いた顔をした。


 あれ? やっぱりそういう発想はないということ?

 特別講座でもみんなが不思議そうな顔をしていたが、ここでも同じような反応だ。

 もしかして、ウィンチェスタ侯爵もとんでもなくすごい物を作っていたのだろうか。


 ……ノア先生のお父さんだもんね。

 リリアーナは急に喪失感に襲われた。

 今まで当たり前のようにあった物がなくなってしまった。物も。人も。

 スカートをぎゅっと握りしめると、ジークハルトの手がリリアーナの手の上に乗せられた。

 暖かい手。

 まるで励ましてくれているかのようだ。


「もうこの回答だけで卒業でいいのですが、せっかく学園に通いたいという事ですので、18歳まで通われるというのでいかがでしょうか?」

 12年生から入り、18歳で15年生を卒業する案でどうかと提案された。


「あの、もうすぐ16歳なので、それだと19歳で卒業に……」

 リリアーナが年齢を伝えると、学園長は「では13年生でどうでしょうか」と言う。

 本当に学年はどうでもいいようだ。


「私、魔術回路を勉強したいです。スライゴ先生に9年生だと聞きました」

 9年生ではダメですか? とリリアーナが尋ねると学園長はニコニコと微笑んだ。


 学園長は下の学年の授業は好きなだけ受けることができると教えてくれた。

 大学の講義のように自分で選べるので、魔術回路の他にも興味のあるものは時間の限り好きなだけ受けてよいと言ってくれた。


 授業は12年生まで。

 多くの子は12年生で卒業してしまうそうだ。

 13年生からは自分の研究時間に当てる人が多く、15年生で論文を出して卒業すると研究職のような職業に就くことができるようになると教えてくれる。


「……好きな授業を好きなだけ……?」

 リリアーナがつぶやくと、学園長は微笑んだ。


「どうでしょうか?」

 学園長の言葉に、宰相も皇帝陛下も頷いた。


 リリアーナがジークハルトを見つめると、ようやく膝の上から解放され、床に立つことが許された。


「よろしくお願いします」

 学園長にお辞儀をすると、腰を引かれてまたジークハルトの膝の上に戻ってしまう。

 皇帝陛下が呆れて溜息をついた。


「ははは。仲がよろしいですな。では魔術の属性を聞いておきたいのですが」

 学園長の言葉にリリアーナの身体が強張った。

 スカートを強く握り、俯いてしまう。


『もし神託で全部の属性が出たら、リリアーナは私達と一緒にいられない』

『これが神託で出たら収拾が付かなくなる所でした』

『神託で出なくて良かった』


 ……知られたくない。

 指輪も腕輪もないので誤魔化す事もできない。


「……リナ?」

 ジークハルトがリリアーナの顔を覗き込むと、リリアーナは泣きそうな顔をしていた。


 ジークハルトは腰に回していた手をリリアーナの頭へ移動し、ゆっくり自分の方へ引き寄せた。

 リリアーナの肩が震え出し、嗚咽が漏れる。

 ジークハルトは学園長に向かって首を横に振った。


「属性は『闇』で」

 リリアーナの代わりに宰相が回答した。

 ウィンチェスタ侯爵からリリアーナの事は聞いている。

 魔力を隠して生活して来たと。

 本人は属性を知られたくないのだろう。


「闇ですか。あぁ確かに。スライゴ先生と同じ容姿ですね」

 学園長がノートにメモをする。


「1つ登録すればゲートが通れるので大丈夫ですね?」

 宰相が尋ねると、学園長は問題ないですと答えた。

 ラインハルトが通れてリリアーナが通れなかった窓の事だ。

 ゲートと呼ぶらしい。


 属性は言わなくても大丈夫。

 ゲートも通れるから大丈夫。

 宰相の優しさをリリアーナは感じとった。


「……ありがとうございます」

 リリアーナはジークハルトの胸に顔を埋めたままお礼を言った。


 学園長は1年生から12年生までの全ての時間割と白のローブをテーブルに置いた。

 受けたい授業を選んで持ってくる事。

 それが来週までのリリアーナの宿題だ。


「大きすぎるな」

 ジークハルトがリリアーナに学園のローブを羽織らせたが、ぶかぶかだった。


「これが1番小さいサイズです」

 学園長はスライゴからリリアーナは小さいと聞き、1番小さいサイズと2番目に小さいサイズを持ってきてくれていた。

 それでも下を引きずってしまう。

 皇帝陛下が特注で作ろうと言ってくれたがリリアーナは首を横に振った。

 下を縫えばなんとかなりそうだし、特注なんて申し訳ない。


「リリアーナ、入学おめでとう」

 皇帝陛下の言葉にリリアーナは顔を上げ、泣き顔のまま嬉しそうに微笑んだ。

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