092.帝立学園
「ライ、リナを頼んだぞ」
ジークハルトが馬車にリリアーナを乗せラインハルトの顔を見ると、ラインハルトは任せてくださいと良い返事をした。
今日は帝立学園の初登校日。
宰相が準備してくれた派手過ぎず地味過ぎないワンピースに、学園の指定カバンと羽ペン・インクを持って出発した。
ラインハルトは紺色っぽいローブを羽織っている。
学年によってローブの色が違うそうだ。
1年生が黒。15年生が白。その間はグラデーションのように濃い色から薄い色になるそうだ。
よく汚す小さい子が黒なのだとクリスが教えてくれた。
先ほど良い返事をしていたラインハルトだが、2人きりになるとイヤそうな顔をした。
別に好かれようとは思っていないが、ジークハルトがいるときとかなり態度が違う。
リリアーナは学園についていろいろ聞きたかったが、話しかけるのはやめて馬車の窓から外を眺めた。
エスト国よりも建物が大きくて、道も広くて、人も多い。
さすが大国。
道路も整備されているのだろう。
馬車も全然揺れない。
30分ほど馬車に揺られると、丘の上に大きな建物が見えた。
あれが帝立学園。
エスト国の王立学園も大きいと思っていたが、規模が違う。
道を歩いているたくさんの生徒達。
「すごい」
リリアーナは思わず感嘆の声を上げた。
帝立学園に着くと、ラインハルトはスタスタと進んでいく。
とりあえずついていくしかない。
リリアーナは何も言わないラインハルトを追いかけた。
教室へ到着するとラインハルトはすぐに友人達と話しに行ってしまったので、リリアーナはとりあえず1番後ろの席に座ることに。
嫌いかもしれないけど……。
でも放置すぎない!?
こっちは初めて来るんですけど!
1時間目の授業は初等科の内容に近かった。
計算なので問題なし。
教科書がなくても大丈夫だ。
3年生はもしかしたら初等科3年なのかもしれない。
高等科1年になる予定だったので、単純計算をすると7年生くらいになる。
テストで6、7年生くらいの学年に入れれば良いのかもしれない。
時々ラインハルトがこちらの様子をチラ見する。
一応、気にしてくれているのだろうか。
目が合うと不機嫌そうな顔をして前を向かれてしまった。
授業が終わると、みんながどこかへ行ってしまう。
よくわからないがリリアーナもラインハルトを追いかけた。
広い!
必死でラインハルトを追いかけているが、絶対に迷子決定だ。
廊下を進み、渡り廊下のような所へ着くと、扉ではない部分からみんなが出て行く。
窓?
見た目はガラスの窓のようだ。
透明な窓を開けることなくみんなが通っていく。
某ネコ型ロボットの秘密道具、通り抜けできる輪みたい!
どういう魔術なのだろうか。
リリアーナも真似して通ろうと手を伸ばす。
透明な窓は固く、リリアーナはそこを通ることができなかった。
窓の向こう側にいるラインハルトがニヤリと笑う。
通れないって知っていてわざとだ!
ひどくないだろうか。
こっちは初めて学園に来るのに。
小学生のクソガキか!
リリアーナはぎゅっと拳を握った。
ラインハルトはニヤニヤしながら横を指差す。
向こうから回ってこいということだろう。
リリアーナはラインハルトを睨むと、指を刺された方へ進んだ。
かなり長い廊下を進むとようやく玄関に出る。
また同じ距離を戻らなくてはならない。
もう授業は始まっているだろう。
テストをがんばって、絶対同じ学年にはならない!
演習場にたどり着き、1時間目にいた先生と目が合ったが、どうしたの? とも聞かれることもなく、そのまま途中参加となる。
エスト国の担任の先生の方が親切で好きだ。
演習場にはもう1人、黒髪・黒眼の男の人が立っていた。
ローブではなく白衣を着ているので、先生なのか校医なのかよくわからない。
でも自分以外で黒髪・黒眼の人はこの世界に来てから初めてだ。
リリアーナと目が合うと、黒髪の男の人は優しく微笑んだ。
「では、実践を始めます。全員、演習場の中に入って」
説明聞いていませんけど!
よくわからないまま、きょろきょろしながらリリアーナも演習場へ入った。
「グループ内の誰か1人が残っていれば勝ちとします」
グループ? 勝ち?
ちょっと待ってください、先生。
私は誰のグループですか?
周りを見ると、なんとなくグループに分かれているっぽい。
何これ、ぼっち?
普通は転入生には優しくするのでは?
1番強いチームに入れるとかするんじゃないの?
先ほどのラインハルトの嫌がらせといい、担任の配慮のなさといい、リリアーナは我慢の限界だった。
演習場には40人ほどの生徒。
明らかにリリアーナを見ている。
公開リンチですか?
ありえない! ありえない! ありえない!!
私がどんな魔術を使えるか知らないのに、こんなことをさせる先生なんて!
「では、はじめ!」
担任の合図で、全員がリリアーナに向かって攻撃する準備を始めた。
詠唱する子、剣を構える子、獣人なのだろうか爪が光っている子。
ラインハルトを見ると、ニヤリと笑っている。
お~ま~え~のしわざか~~!
皇子だからってこんなことしていいと思うなよ!
フレディリック殿下はあんなに立派な方だったのに。
大国の皇子がこんなアホだとは。
ひどい、ひどすぎる!
これでケガしたらどうしてくれるのか。
あ、そのための白衣の校医か。
優しそうだったけど、助けてくれるわけではなさそうだ。
自分でなんとかするしかない。
40人を一度にやっつける方法。
落とし穴は誰かに逃げられそう。
氷で下から刺す? 死んじゃいそう。
火は燃えちゃう。
風で吹き飛ばす? 重い子いないかな。
あー! もっとちゃんと魔術を習っておけばよかった。
でもやっぱりケガをさせたらダメだ。
ケガは痛い。
リリアーナはユイに突き飛ばされた時を思い出した。
つい先日の出来事だ。
足の痛みも鮮明に思い出せる。
上手くいくかわからないけれど。
『詠唱はやめてイメージでやってみましょう』
側にいるはずがないノアールの声。
リリアーナは両手を広げた。
演習場内全ての範囲で。
「スリープ!」
リリアーナの足元に魔法陣が浮かび上がった。
目頭が熱くなって涙が溢れる。
リリアーナはゆっくりと目を閉じた。
これがダメで攻撃されたら仕方がない。
相手にケガをさせるよりはマシだ。
お願い、全員眠って!
リリアーナの足元から風が吹き、演習場内を回るのにはほとんど時間は掛からなかった。




