076.ユージ
フォード邸の庭で素振りをしていたエドワードの茶髪の友人アルバートは王宮の異常に驚いた。
「あれは何だ?」
突然発動した巨大な黒い魔法陣。
王宮を取り囲んでいるように見える。
「おいおい、大丈夫か?」
思い当たる原因はエドワードの妹、リリアーナだ。
彼女を守るための特殊部隊。
何から守れとは言われていなかった。
こういう事かよ!
馬車はエドワードが乗って行ってしまった。
ここから王宮まで走れば20分程度。
「行くしかねぇよな」
アルバートは剣を握り王宮へと走り出した。
ドラゴニアス帝国魔術師団の応接室では、5分ほど黙り込んでいた魔術師団長ヴィンセントがようやく口を開いた。
「少し大変な事態に」
ヴィンセントはゆっくりと目を開ける。
「大変な事態とは?」
ウィンチェスタ侯爵とスライゴ侯爵は顔を見合わせた。
魔術師団長という立場なので忙しいのは承知だ。
貴重な対談時間をもらっている自覚はある。
今日はもうここまでかもしれない。
スライゴ侯爵の伝承がわかっただけでもかなり有難い。
では、そろそろ、と切り上げようとしたスライゴ侯爵をヴィンセントが止めた。
「皇太子の近くに魔力が溢れている。あの子だな」
ヴィンセントがウィンチェスタ侯爵に告げると、ウィンチェスタ侯爵は立ち上がった。
「エストに戻ります! 今日はありがとうございました!」
今すぐここを出たとしても船と馬車で10日以上だ。
ノアールもエドワードもフレディリック殿下も、そして特殊部隊もいるので大丈夫だと油断していた。
こんな遠くまで旅行に来てしまってすまないリリアーナ。
どうか無事でいておくれ。
ウィンチェスタ侯爵は荷物を抱え、急いで戻ろうとした。
「待て。送ってやる」
ヴィンセントはウィンチェスタ侯爵を呼び止めた。
もう少しだけ待てと言い、ヴィンセントは再び目を閉じてしまった。
◇
目の前にいる黒髪の小さな少女。
彼女の魔力を知っている。
ジークハルトは国賓席から立ち上がり、少女へ近づいた。
茶髪の姫に何かを手渡した後、急に魔力が溢れだしたように感じた。
こんなに膨大な魔力を隠していたとは。
「ジーク様! 戻ってください」
補佐官クリスが必死に説得するが、ジークハルトは無視して少女に近づいた。
「……動けないのか?」
頭に響く低い声。
威圧を感じ、リリアーナは身震いした。
この感じは夢と同じ。
黒い靴。
黒いズボン。
黒いタキシードには金の刺繍。
背が高く、だいぶ見上げないと顔が見えない。
黒髪、金眼の知らない人。
だが、なぜか会ったことがあるような錯覚を覚えた。
仕立ての良い真っ黒なタキシードがよく似合っている。
あぁ、そうだ。この人は夢の中の。
「黒いドラゴン……?」
リリアーナの言葉にジークハルトは驚いた。
2人を取り囲むように魔法陣が展開する。
金の線で描かれた魔法陣は夢の中と一緒だ。
「やはりお前か」
随分と容姿が違う。
魔法陣は一瞬展開したがすぐに消えてしまった。
「近づかない方がいいわよ、ジーク。もうすぐその子が暴走するから私を助けてね」
明らかにジークハルトの方が身分が上なのに勝手に話しかける非常識な茶髪の姫に補佐官クリスは驚いた。
しかも愛称呼び。
不敬罪に問われてもおかしくない。
手には少女から奪ったネックレスと腕輪。
視線はジークハルトにうっとりしている。
「お前に名を呼ぶことを許した覚えはない」
ジークハルトが冷たく茶髪の姫に告げても、まぁ今はいいわ。と姫は開き直った。
茶髪の姫はリリアーナの腕輪をシャンデリアにかざして宝石の輝きを確認する。
「ふふっ。フレッドの眼の色と同じ」
角度を変え、茶色の宝石が光ると満足そうにニヤリと笑った。
茶髪の姫が扉付近の騎士に合図を送る。
騎士は迷わず会場の中へ足を踏み入れた。
「おい!」
招待客ではない騎士は扉の外で待機がルール。
剣を持ったまま、会場内に入ることは絶対に許されない。
ドラゴニアス帝国騎士団長が慌てて声をかけたが、他国の騎士は忠告を無視しそのまま中へ歩いて行ってしまった。
他国の騎士は真っ直ぐリリアーナに向かうと、剣を鞘から抜く。
「お前がリリアーナだな!」
ドラゴニアス帝国騎士団長は慌てて会場内に入ろうとしたが、ジークハルトに手で止められた。
護衛よりも強い皇太子。
そうはいっても剣をもった騎士が近くにいるのならば護衛としては駆けつけなくてはならない。
しかし会場内は剣を持ち込む事はもちろん、招待客以外が入る事は許されない。
お前たちは規則を破るなと止められたのだ。
同時に補佐官も近づくなと止められた。
補佐官は剣を持ったことすらない戦えない男。
足手纏いになるため近くに来るなということだろう。
「この悪役令嬢め! 莉奈はどこだ!」
……莉奈……?
聞き覚えのある声にリリアーナは顔を向けた。
そこには騎士姿のユージ。
なぜユージ?
そっくりさん?
リリアーナは目を見開き、ユージにそっくりな騎士の顔を見つめた。




