073.禁呪
「お目にかかれて光栄です。イースト大陸エスト国で魔道大臣をしております、アルフレッド・ウィンチェスタと申します」
ウィンチェスタ侯爵は一礼すると、緑の眼を細めて友好的な笑顔で微笑んだ。
ウィンチェスタ侯爵は隣国の友人スライゴ侯爵と共にドラゴニアス帝国へ来ている。
スライゴ侯爵の息子がセッティングしてくれた貴重な機会に感謝だ。
「魔術師団長のヴィンセントです」
黒いローブのフードから綺麗な顔が見えた。
真っ直ぐで長い金髪がフードから少しだけ出ている。
美青年でも美女でも、どちらと言われても納得する中性的な顔立ち。
色白で儚ささえ感じさせる容姿だ。
ヴィンセントは、スライゴ侯爵、ウィンチェスタ侯爵に椅子を勧め、3人の会談が始まった。
「闇の一族と風の一族」
ヴィンセントが紅茶を飲みながら呟くと、驚いた2人は顔を見合わせた。
ヴィンセントは、2人には精霊がついていると言う。
自分達には見えないが、この方が言うのならそうなのだろうと不思議な納得感があった。
「それで、聞きたい事は?」
ヴィンセントの質問にスライゴ侯爵がノートを取り出した。
3代目スライゴ侯爵の手記だ。
魔法陣と世界樹のページを開く。
「この魔法陣と葉について、もし何かご存知でしたら教えて頂きたい」
スライゴ侯爵がノートを差し出すと、ヴィンセントは少し考えた後に頷いた。
ノートを確認した後、貴方は何が知りたい? と言わんばかりの顔でヴィンセントはウィンチェスタ侯爵を見る。
ウィンチェスタ侯爵はカバンから緑の魔道具を取り出すと、ノートの横に魔法陣を映し出した。
これはリリアーナの足元にあった魔法陣を写し撮ったもの。
「これをどこで?」
ヴィンセントの眉間にシワが寄る。
精霊と会話をしているのだろうか。
頷いたり、首を傾げたり誰かとの会話が続く。
「あぁ、すまない」
ヴィンセントは状況が掴めない2人に謝罪した。
「まず、このノートの魔法陣と、こちらに映した魔法陣は一緒ではない」
ヴィンセントの言葉に今度はスライゴ侯爵とウィンチェスタ侯爵が驚く。
ウィンチェスタ侯爵もスライゴ侯爵もこの2つの魔法陣は同じだと思っていた。
ノートが滲んでよく見えないだけで、元は同じなのだろうと。
ヴィンセントは魔法陣の表示を消し、ノートを指差した。
「こちらは世界樹を呼び出すもの」
世界樹の葉は万能薬として価値が高い。
闇の一族の当主だけが扱える魔術であり、闇の一族が葉を、光の一族が葉を薬に変えることで万能薬となるという。
どんな病気も治ると言われていたが、最近見なかったのでどうしたのかと思っていたとヴィンセントは言った。
まさか伝承されず闇の一族の当主が知らないとは思わなかったと言う。
「伝承?」
スライゴ侯爵は初めて魔術は伝承されるべきものだった事を知った。
一体いつ途切れてしまったのだろうか。
3代目スライゴ侯爵がノートに記載しているということは、3代目までは伝承されたという事だ。
その後は? 家の蔵書をまた確認しなくては。
「ありがとうございます」
スライゴ侯爵はヴィンセントにお礼を言った。
ヴィンセントは頷くと、緑の魔道具を手に取り、今度はウィンチェスタ侯爵の方を向いた。
「こちらは禁呪だ。表示してはならない」
「……禁呪?」
ウィンチェスタ侯爵が眉間にシワを寄せる。
「詳しくは言えない」
内容を話すのは危険すぎる。
今日知り合ったばかりの人物が善人とは限らないからだ。
ヴィンセントは緑の魔道具をウィンチェスタ侯爵に手渡した。
「世界樹と関係はありますか? お願いします。何か手がかりだけでも」
ウィンチェスタ侯爵は真剣な眼で訴えた。
全部を教えてくれとは言えない。
だが、リリアーナのために何か情報が欲しいのだ。
「その子は、今、どこに?」
ヴィンセントの問いにウィンチェスタ侯爵は驚いた。
リリアーナの事はスライゴ侯爵にも言っていない。
それなのに、その子とはおそらくリリアーナを指している。
「国に、エスト国にいます。普段は学園か別邸にいますが、今日は建国祭なので王宮に」
ウィンチェスタ侯爵が答えると、ヴィンセントは腕を組んだ。
「我が国の皇太子も出席している?」
「えぇ、そうですね」
ウィンチェスタ侯爵が答えると、ヴィンセントは何かを考え込んでしまった。




