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053.実技

 先日みんなで発表した宿題を試してみることになった。


 といっても大型の生物はこの国にはいないので、相手はトリ。

 食用のニワトリのような見た目で、実際にみんなが食べているものだ。

 ただ、トサカではなくて角がある。

 追いかけられたらちょっと怖そうだ。


 今日もなぜか興味津々の博士科・専門科の教授と学園長の授業参観付きだ。


「では、5年目~!」

 あ、いや、そうなんですけど。がっくりとうなだれた5年目の先輩は、チーム戦のためみんなの協力を得て実践だ。

 エドワードも水を出して手伝った。

 さすが博士科。あっさりと作戦は成功し、トリはパタンと倒れてしまった。


「あぁ~、緊張した」

 5年目の先輩がほっと胸をなでおろす。

 考えるのと、実際にやってみるのは違うのだ。

 うまくいって良かったと笑った。


「では、次」

 茶髪の友人アルバートやエドワードのように突き刺すのはやらなくてもわかるため、今日は魔術の実践だ。

 博士科、専門科の案のうち、実現可能そうなものが2つ選ばれた。

 多少の作戦変更はあったが無事にトリは倒すことができた。


「うん、今の方法だとトリでさえ傷がついているから大型ではダメだろうな」

 きっと倒すのに精いっぱいだ。

 全員が、うんうんと頷く。

 やっぱり実際にやってみないとわからない。


「じゃぁ、最後」

 リリアーナが指名されてしまった。


「えっ?」

 いや、私、魔術使えないし!

 困ったリリアーナはエドワードを見た。


「みんな魔術が混ざるところ見たいだろう?」

 ニヤリと笑い、フレディリックは青の魔道具を取り出した。


「おぉ! それが青の魔道具ですか!」

 教授たちは興味津々だ。

 4体の魔道具を1体ずつ手に取り眺めていく。


「ウィンチェスタ魔道大臣に貸せと言ったら、王宮のを使えと言われた」

 王宮の周りにこんなものが設置されているとは知らなかった。とフレディリックは笑った。

 いやいやいや、ダメでしょう。

 勝手に持ってきたら!


「大丈夫だ、ちゃんと魔術師団長に持ってこさせた」

 フレディリックは問題ないと言う。

 ごめんなさい、魔術師団長。

 リリアーナは心の中で謝った。


「なぁ、次からこういう無茶ぶり、俺たちがやらされるのか?」

「……たぶんね」

 きっと卒業後、フレディリック殿下の特殊部隊に入ったら、一番下っ端の自分たちがこういう交渉を行うのだろう。

 アルバートとエドワードは溜息をついた。


「氷と水はエドワードだな。火は5年目、土はアルバートでいいだろう」

 フレディリックが役割分担を行う。


「では、まず氷」

 合図に合わせてエドワードがトリの足を氷で固めた。

 青の魔道具を手に持っていた4人の専門科生徒がトリの周りにぞれぞれ置く。


「何も見た目に変化はありませんな」

 教授がトリの周りの青の魔道具を見るが、特に壁や何か変化があるわけではない。

 結界は見えないのだ。


「風使い、ちょっとトリに向かって風を出してみろ」

 フレディリックの指示で、博士科生徒が風を吹かせた。

 なんとなく四角く何かが邪魔しているように見えるがあまりわからない。


「よく見えないな。エドワード、水!」

 今度はエドワードが水をトリの上からかけるように指示される。


「おぉ! 箱のようなものが!」

 これが全方位のシールド!

 教授達も学園長も感嘆の声を上げた。


「次、アルバート、穴を開けろ」

「いや、……開かねぇ」

 アルバートが魔術が苦手だからではない。

 魔術が跳ね返されているのだ。


 ……そうだ。青の魔道具は物理攻撃ができない。

 リリアーナは今更重大なミスに気が付いた。


「気が付いたか?」

 フレディリックがリリアーナに向かってニヤリと笑った。


「……はい。穴は開きません。水も火も。青の魔道具の中に入りません」

「そうだな」

 フレディリックは、専門科生徒の1人に指示し4体のうち1体だけ取り除かせた。


「よし、アルバート」

 魔術は苦手だと言っていたのに、このくらいの深さか?とリリアーナに聞きながら、アルバートは器用に穴を掘ってくれた。

 その中にエドワードが水を入れ、5年目先輩が火を水より少し上に浮かせた。


 魔術の時差発動だ。

「おぉ、ノアールくんの論文の」

 5年目先輩も論文を読み、試してみたらできたとうれしそうに教授たちに報告する。


 それを聞きながら、専門科生徒がすぐに青の魔道具の残り1体を設置した。


 時差で水に落ちる火の球。

 すぐに青の魔道具の中は水蒸気でいっぱいになった。

 ごぽごぽ、じゅわじゅわと蒸発する音がする。

 トリはしばらく暴れていたが、数分でパタリと動かなくなった。


 専門科生徒が近づき、トリを見たがもう動く気配なかった。


「倒れています!」

 その声に、リリアーナはほっとした。

 きっとフレディリック殿下は発表の時点で重大な失敗に気づいたのだろう。

 それでわざわざ実践の場を作ってくれたのだ。


 やっぱり優しい。


 目が合うと、フレディリックは優しくリリアーナに笑ってくれた。

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