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199.一族

 軽いノックの音が響き、執務室の扉が開いた。

 魔術師団の黒いローブを被ったヴィンセントは礼をしながら入室すると一人ずつ顔を見ながら、確認していく。


「闇の一族、風の一族」

 スライゴとノアールが頷く。


「土の一族」

 あぁ。とフレディリックが頷いた。


「水の一族」

 金髪キラキラなエドワードが「はい」と返事をした。


「火の一族」

「いや、俺は違う。一族じゃない」

 悪りぃなとアルバートがニヤッと笑う。

 ヴィンセントはしばらく黙ると、いや、合っていると呟いた。


「土の一族と火の一族は親戚だな。お前には土の精霊が、お前には火の精霊がついている」

 ヴィンセントはフレディリックとアルバートを順番に見ると、遥か昔に火の一族の娘が土の一族に嫁いでいると告げた。


 火の一族は昔、精霊の失敗により途絶えているが、嫁いだ娘がいたのだ。


「俺に火属性はない」

 土が少し使えるだけだとアルバートは頭をボリボリ掻いた。


「手を」

 ヴィンセントに言われるがままアルバートは右手を出した。

 手のひらを上に向けるように促される。


 ヴィンセントがアルバートの上に手をかざすと、小さな炎が灯った。


「そのまま火でシールドを作れ」

 あり得ない要望にアルバートが困惑する。

 土だってシールドは作った事がない。


「アル、詠唱、詠唱! 火の精霊はθ(シータ)だよ」

 エドワードが助け舟を出すと、アルバートは半信半疑で詠唱を行った。

 見事に壁になる炎。


「マジかよ」

 自分がやっているのに1番信じられないとアルバートが首を横に振った。


「全員、シールドはできるな? 何かあれば全属性のシールドでリリアーナを護る」

 ヴィンセントが読み進めているエルフの書籍。


 そこには一族全てのシールドを合わせると何者にも干渉できない特別な空間が出来ると記載があった。

 何を意味するのかはわからないが、おそらく何かの最終手段だろう。

 必要になれば精霊が教えてくれるはずだ。


「光の一族は?」

 4属性なら闇の自分は不要だとスライゴが尋ねると、ヴィンセントはしっかり被っていた黒いフードを取った。

 綺麗なストレートの長い金髪に尖った耳、中性的な美しい顔が出る。


「光の一族も途絶えてしまった。私が代わりを務める」

 エルフなど伝説の人だと思っていたフレディリック、ノアール、エドワード、アルバートの4人は目を見開きヴィンセントを見た。


 まさかエルフが実在するなんて。

 では世界も裏側も本当に存在するという事だろうか?


 スライゴだけはあまり驚かず、ヴィンセントを見る。

 スライゴはクリスに前魔術師団長と会えるように頼み、前任は難しいのでとヴィンセントを紹介してもらった。

 そしてヴィンセントと父であるスライゴ侯爵、そして父の友人ウィンチェスタ侯爵の会談を設定し、建国祭での事件が起きた。


 父スライゴ侯爵から話は聞いていたが、実際に自分も会える日が来るとは正直思っていなかった。


「全属性のシールド?」

 私も作れるかな? とリリアーナは首を傾げる。


「1人では魔力の消費が激しいだろう。何が起こるかわからない。やめておけ」

 ヴィンセントの忠告にリリアーナは素直に頷いた。


「ではそろそろお時間です」

 クリスが時計を確認し、護衛にフレディリック達の案内を頼む。

 ヴィンセントは一礼し立ち去り、急に部屋は静かになった。


「あいつらは待てもできんのか」

 勝手に乱入してとジークハルトが溜息をつく。

 クリスはそうですねと笑いながら、でもリリーは嬉しかったでしょう? と微笑んだ。


「どうしてフレッド殿下達が?」

 ノア先生はこの国にいるからまだわかるけれど。とリリアーナがジークハルトを見上げる。


「ギルバートに『使わないと勿体無い』と言われたからだ」

「……ありがとうジーク」

 勿体ないはよくわからないけれど。

 会えて嬉しかったとリリアーナが微笑むと、婚約者は俺だと釘を刺された。

 完全に2人の世界だった空間をクリスが咳払いで邪魔をする。


「お時間です。お願いします」


 いつものように抱き上げられ控え室へ。

 移動中も愛の言葉を囁くジークハルトにリリアーナが微笑むと、幸せそうな2人の様子に周りのピリピリした雰囲気が少し和らいだ。


「ねー、イチャイチャすんなよー。事件が起こるんだろー?」

 耐えられなくなったラインハルトが口を尖らせると、ギルバートがラインハルトの頭をぐちゃぐちゃに混ぜた。


「わっ! せっかく髪型セットしたのにー」

「今日は大臣ばっかりで令嬢はいないから気にするな」

 いるのはニセモノ聖女だけだとギルバートが笑う。


「さっき見たけど好みじゃなかったなー。だいぶ年上っぽいし性格キツそう」

 レオンハルトはすでにチェックしてきたそうだ。


「遊び相手なら良さそうか?」

 ギルバートも会話に乗っかると、皇帝陛下が片方の眉を上げた。


「冗談に決まってるだろ」

 慌てて否定するギルバート。

 宰相は時計を見ながら溜息をついた。


 今日の流れについて最終確認があり、ニセモノ聖女とユージはこちら側から見て左の真ん中、教会関係者の辺りにいると説明があった。

 皇帝陛下と皇后、ギルバート、レオンハルト、ラインハルトはエルフ長ダンベルドが守り、ジークハルト、リリアーナはヴィンセントが守るので、何かあれば別行動で構わないと宰相は言う。


「記念式典なのに迷惑をかけてごめんなさい」

 リリアーナがみんなに頭を下げる。


 今日は即位50周年記念の式典なのに。

 自分がいるせいでユイとユージが来てしまったとリリアーナが言う。


「リリアーナはジークハルトの嫁。私の娘になるのだ。守るのは当然だ」

 皇帝陛下がジークハルトに似た金の眼で優しく微笑む。


「ありがとうございます」

 リリアーナは真っ黒な大きい目を潤ませながら微笑んだ。

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