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198/259

198.集合

 別人みたい。

 黒いドレスは肩がシースルーで大人っぽく、パールのネックレスも品の良いサイズ。

 耳にはイヤーカフとパールのイヤリングをつけているが派手すぎずお互いに喧嘩しない。

 靴は歩きやすい3cmヒールだ。

 10cmじゃなくて良かった。


 髪は上の方だけ編み込み、パールの髪飾りをバランスよく挿してある。

 どこからどう見てもお嬢様だ。

 プロはすごい。


 鏡の前で感心しているリリアーナをジークハルトとクリスは笑いを堪えながら見ていた。


「……そろそろ抱きしめてもいいか?」

 ジークハルトが見ていた事にようやく気づいたリリアーナは真っ赤になってワタワタした。


「今日も綺麗だ」

「ジ、ジークも、カッコ良すぎる」

「クリス、」

「ダメです」

 今日はサボってもいいか? と聞く前にダメだと言われた。


「まだ何も言っていない」

 眉間にシワを寄せるジークハルトにクリスは腕輪を渡した。


「……腕輪?」

 リリアーナが首を傾げる。


「今日の式典の記念品だ」

「記念品まであるんだ!」

 リリアーナは腕に通された腕輪を眺めた。


 白い腕輪に金の文字で『50th Anniversary of Emperor Lewishardt’s throne(ルイスハルト皇帝即位50周年)』と書かれている。

 おぉぉぉ。すごい。

 オークションやフリマで高値になるやつだ。


「全員着けるの?」

「記念品としてお配りするので着けない方もいるかもしれませんが、皇帝陛下はもちろん宰相、大臣、護衛はつけますよ」

 皇帝陛下とお揃いだなんてレアすぎる。

 着けるか取っておくか悩むよね。


「……黙っておこうかと思ったが、一緒に戦うためにリナにも言っておく」

 急に真面目な声になったジークハルトをリリアーナは見上げた。

 金の眼がリリアーナをじっと見つめている。


「今日の招待客の中に、ユージと隣国の姫がいる」

 ジークハルトが告げた言葉にリリアーナの目が見開いた。


 ニセモノ聖女を名乗っている事、今日は教会が招待した事、ニセモノを皇太子妃に望む貴族がいる事をクリスがリリアーナに説明する。

 相変わらずわかりやすくて無駄のない説明だ。


「何かしてくる可能性が高い。一緒に戦ってくれるか?」

 ジークハルトが手を差し伸べるとリリアーナは迷わずジークハルトの手を取った。


 手はエスコートのように握られたまま寝室からリビングを通り執務室へ移動する。


 クリスが開けた執務室の扉の向こう側、そこにいるはずのない人物にリリアーナは驚いた。


「……ノア先生?」

 黒のタキシードに緑のタイ。

 隣には黒のタキシードにグレーのタイのスライゴ。

 2人ともまるで式典に参加するような服装だ。

 驚いてジークハルトを見上げると金の眼で微笑まれた。


「闇を弾く魔道具を作ってもらった」

 ジークハルトは先程記念品だと言った腕輪を指差す。


 記念品の腕輪が全て魔道具?

 むちゃくちゃ高額!


 ノアールはリリアーナの前に跪き、ジークハルトと繋いでいない方のリリアーナの手を取った。


「リリー、今度こそ護らせてください。もう2度と操られる事がないようにスライゴ先生とこの魔道具を作りました」

 建国祭では本当にすみませんでしたとノアールが謝罪する。

 手の甲にそっと口づけ、ゆっくり離れる。


「全員は無理でも半分以上、要人と護衛は全員身につける。建国祭のようにはさせない」

「おそらくほとんど、そうですね9割は身につけると思います。レオンハルト殿下とラインハルト殿下が頑張っておられますので」

 ジークハルトの言葉をクリスが補足した。



「ライ、外したらダメだって!」

「えぇ~。腕輪って普段しないからさー。イヤなんだよね~」

 ラインハルトが腕輪を指でくるくる回して遊ぶ。

 どうって事のない兄弟の会話だ。

 演技だけれど。


「ダメだよ。裏切り者を探すための目印なんだからさ。しないとライも父上をよく思っていないと勘違いされるだろ!」

 レオンハルトがラインハルトに腕輪を通すと、ラインハルトは口を尖らせた。


 ただの記念品だと思わせておきながらそんな意図が!

 周りの招待客は大慌てだ。

 着けていない者は慌てて腕に通す。

 着けている者は腕を確認し、ホッとした。


「絶対外したらダメだよ。いい? ライ」

「はぁーい」

「あ、あと護衛で着けていないやつがいたら裏切り者の仲間かもしれないから近づくなよ!」

 レオンハルトが注意すると、ラインハルトは「はいはーい」と軽く手を振る。

 レオンハルトが去っていくとラインハルトはニヤッと笑って護衛チェックを始めた。


 数人の護衛はこの演技のためにわざと身につけていないので、時間を見て護衛相手にまた演技だ。


 ラインハルトが「お前、裏切り者の仲間だな!」と言うのだ。

 慌てて護衛も周りも腕輪をする。

 数回繰り返し、会場内のほぼ全ての者が身につける事となった。



「……残りの者は後で紹介しよう。ダンベルドとヴィンセントもいる。だから安心しろ」

 ジークハルトはリリアーナの頬をそっと手で包む。


「俺はリナとしか結婚しない。リナは絶対離さない。いいな」

 金の眼がリリアーナの黒い眼を見つめる。

 リリアーナは泣きそうな顔で頷いた。


「リリーを悲しませるのは不本意ですが、個人的には婚約破棄になればいいと思っています。そうすれば私とまた婚約できるでしょう?」

 ね、リリー。とノアールが緑の眼を細めて微笑む。


「おい」

 ジークハルトが苦笑すると、リリアーナは首を傾げた。


 そんなに親しかったっけ……?

 ジークハルトとノアールの距離が近い気がする。

 いつの間に?


「いや、婚約するなら次は俺だろう」

 扉から勝手に入ってくる意外な人物にリリアーナが驚く。

 ジークハルトほどではないが長身で、胸にエスト国の紋章の入った正装を着こなす茶髪の男性。


「フレッド殿下?」

 どうしてここに? 他国でしょう?

 驚いて固まるリリアーナの手を取り、手の甲に口づけする。


「会いたかった、リリアーナ」

 切なそうなフレディリックの表情にリリアーナの黒い眼が揺れた。

 数秒の間、どちらも動かず見つめ合う。


「すまなかった」

 フレディリックの辛そうな表情にリリアーナは泣きそうな顔で微笑んだ。


「ちょ、ちょっとフレッド殿下! 一人で……」

 今度は執務室に金髪キラキラの騎士と茶髪に大剣の騎士が乱入する。


「リリー!」

「お兄様!」

 2人同時に驚いて声を上げると、「兄妹で同じ反応をするな」とフレディリックに笑われた。


「おー、37点の妹ちゃん久しぶり」

 片手を上げながら軽く挨拶し、37点を強調するアルバートにリリアーナの頬が膨らむ。


「おいクリス、ここの警備は大丈夫か?」

 勝手に入ってきたぞ? とジークハルトは苦笑する。


「申し訳ありません」

 一気に賑やかになる部屋で、クリスも困ったように微笑んだ。

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