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193.黄竜

 帝都を抜け、安定飛行に入った黒竜メラスの背中の上でジークハルトは魔術の球を割った。

 髪を茶色にするものと、長さを短くするものだ。

 Sランク冒険者ハルとFランク冒険者スズの姿に変わると、スズのボブの長さの髪をそっと撫でた。


「……大丈夫か?」

 優しく囁かれ、リリアーナは頷いた。

 魔術のおかげで頭は落ち着いている。


「……無理矢理ついてきてごめんなさい」

 離れたくなかったのだと、置いていかないで欲しいと言ったらジークハルトを困らせるだろうか?

 リリアーナはジークハルトに擦り寄ると、一緒に居たいとつぶやいた。


 2時間ほど黒竜メラスで飛ぶとステア伯爵領だ。

 2つの川の合流地点を見つけ、そこから山の方へ飛ぶ。


「……あれか」

 リリアーナにはまだ見えない。

 竜族の方が視力も良いようだ。


 少し進むと血で染まった黄竜の姿がようやくリリアーナも確認できた。


「ひどい……」

 黄竜は逃げているのだろう。

 少しずつ上流へ移動している。

 川は血で赤い。


「冒険者……いないね?」

「あぁ、もうすぐ暗くなる。宿泊所へ帰ったのだろう」

 明日の朝またやってきてドラゴンに攻撃するつもりだろうとジークハルトは眉間にシワを寄せながら言った。


 ジークハルトは黒竜メラスを黄竜が行こうとしている方向へ旋回させる。

 ゆっくりと着地すると、黄竜が顔を上げた。


 黄竜は体長6~7m。

 血で汚れているが、キラキラと輝く身体が綺麗だった。

 目は優しい。

 リリアーナはなんとなくこのドラゴンがメスだと思った。


 ジークハルトはリリアーナを黒竜メラスから河川敷へ降ろすと、1人で黄竜の近くへ歩いていく。

 黄竜はジークハルトに頭を下げた。

 ドラゴンは上下関係がはっきりしているのだと本に書いてあった。

 黒竜の方が上位種だ。

 夢の中のジークハルトは大きな黒竜。


「よく頑張ったな」

 ジークハルトが黄竜の頬を撫でると、黄竜の目が揺れた。


「暗くなる前に火を焚きたい。リナ、大きめの石を集められるか?」

 ジークハルトの問いにリリアーナは頷いた。


 火のまわりを石で囲むのだろうか?

 風がこちらから吹いているから、こっち向き?

 キャンプはした事がないがテレビでは見た事がある。

 山の中のソロキャンプのテレビを思い出しながらリリアーナは石で丸く壁を作った。


 川のすぐ横の林からジークハルトが燃えそうな枝を持って来る。

 リリアーナの積んだ石に驚き、目を見開いた。


「エストでは騎士コース以外にも野営の仕方を教えるのか?」

「やった事ないからこれで良いのかわからない」

 リリアーナが首を横に振ると、ジークハルトは枝を置き完璧だと笑う。


 ジークハルトが持ってきた魔道具で火をつけると、すぐにパチパチと音を立てながら枝が燃え出した。


「よし、これで暗くなっても居場所がわかるだろう」

 黒竜メラスでここまで2時間。


 ジェフリーが乗る灰竜では身体が小さいため2時間ではつかない。

 護衛達の青竜でも2時間では無理だろう。

 黒竜メラスに追いつける者はいない。


「明るいうちに傷を確認したいが……血まみれだな」

 ジークハルトが眉間にシワを寄せる。

 黄竜の左の翼はボロボロだ。

 身体にもたくさんの刀傷。

 血が滲み、痛そうだ。


「……かわいそう」

 冒険者がこんなことをするなんて。


 リリアーナは持っていたハンカチを川の水で濡らすと、黄竜の顔についた血を拭いた。

 嫌がりもせず大人しく拭かれる黄竜。


「女の子だもんね。顔は1番に綺麗にしないとね」

 リリアーナは黄竜に微笑むと、ジークハルトが驚いた顔をした。


「なぜこいつがメスだとわかった?」

「……え? なんとなく?」

 違った? 男の子だった? と焦るリリアーナを見たジークハルトは声をあげて笑った。


「いや、あっている。メスだ」

 ドラゴン同士はもちろん性別がわかるが、竜族では今のところジークハルトしかドラゴンの性別を顔を見てわかるものはいないのだと教えてくれる。


 もちろん専門家もいるのでしっかり身体を調べれば雄雌の判別はできるのだが。

 今のドラゴンの態勢では目視で雄雌を確認できない。


「あぁ、ようやく来た」

 ジークハルトが空を見上げ護衛とジェフリーが来たと言う。


 リリアーナには全く見えない。

 真っ白な空のどこだろうか?

 やっぱり竜族の方が視力が良いのだ。


 むぅー。と空を見つめていると、ようやく3頭のドラゴンが見えた。

 青竜2頭と灰竜が1頭だ。


 1頭の青竜はそのまま上空を旋回し、降りることなくまたどこかへ。

 2頭は黒竜メラスとは反対側、川下の方へ着陸した。


「早すぎ~」

 全然追いつかないよと狼族の護衛が青竜から降りる。


「遅くなり申し訳ありません」

 もう灰竜からはジェフリーが降りてきた。


 2人は荷物を降ろすと火の側へと運ぶ。

 食事も持ってきましたとジェフリーが言った。


「うわぁ、ひどっ」

 これではもう飛べないかもしれない。


 傷は相当ひどそうだと、狼族の護衛の耳が垂れ下がった。

 荷物から肉を取り出すと、黄竜の前に置く。

 少し匂いを嗅いだ後、黄竜はパクっと口に含んだ。


 ジークハルトは荷物から入れ物を出し、川の水を汲む。

 黄竜の身体に勢いよくかけたが、乾いてこびりついた血はなかなかとれない。

 翼の傷にかけると、痛かったのだろう、黄竜がうめき声をあげた。


「……だいぶひどいな」

 翼は思ったよりもダメージがひどい。

 飛べないドラゴンは生きていけないのだ。


「……どうしますか?」

 狼族の護衛が小声で尋ねる。

 ここで楽にしてやるか、傷を手当するか。


 この傷の酷さでは、飛べるようにはならない。

 冒険者に苦しめられながら死ぬくらいならばここで一思いに。

 苦しみ魔物化してしまう事が1番問題だ。

 それを防ぐために、ジークハルトはここへ来たのだ。


「……できる限りの事はしてやりたい」

 ジークハルトが唸るようにつぶやくと、護衛はわかりましたと答えた。


「リナ」

 ジークハルトは黄竜の顔の血を拭いてあげているリリアーナに声をかけた。


「意見を聞かせてくれ」

「意見?」

 真剣なジークハルトの声にリリアーナは首を傾げた。

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