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191.相談役

 ジェフリーの薬のおかげでおじいちゃんが助かったという感謝の手紙、おばあさんの腰痛の薬も販売して欲しいという依頼の手紙、まだ字があまり書けない小さい子からの絵手紙。

 薬の注文書と一緒にたくさんの手紙が同封され、ジェフリーの元に届けられた。


 評判を聞きつけた医師がいない他の地域からも商業ギルドに問い合わせがあり、レオンハルトは対応に追われている。


 最近、レオンハルトの補佐にラインハルトがついた。

 少しずつ公務を覚えるためだという。


「だからさー、大きい街から田舎街に薬を買いに来る人がいて困ってるんだって~」

「なんで困るの?」

 そしてなぜかラインハルトの補佐がリリアーナだ。

 まだうまく公務が出来ないラインハルトが「俺たち友達だろ」とリリアーナを巻き込むようになり、頻繁にジークハルトの執務室へやってくるようになったのだ。


「ライ、リナを使うな」

 ジークハルトが溜息をつくと、ラインハルトは友達だからいいじゃんと笑った。


「大きい街の医師が薬のせいで仕事が減ったって商業ギルドに苦情を言ってきたんだ」

「それで?」

 何か問題? とリリアーナが首を傾げると、ラインハルトはえっ? という顔をした。


「高い店のクッキーと、安い店のクッキー。同じ味だったら安い方に買いに行くし、高くてもすっごくおいしいなら買いに行くよ?」

 欲しい人が好きな方を選べばいいんじゃないの? とリリアーナが言う。


「安い店のせいでうちのクッキーが売れないんだって苦情は変じゃない?」

 リリアーナがコテンと首を傾ける。

 ラインハルトは目を丸くした。


「……確かにそうかも」

 ラインハルトが納得する。


「じゃぁさ、安く買った薬を違う地域で高い値段で売る冒険者ってどうしたらいいと思う?」

 もう転売する人もいるくらいジェフリーの薬は人気のようだ。


「普通の値段で買える場所が増えるといいよね」

 気軽に安い値段で買えるのなら、わざわざ高い値段では買わない。

 高くてもいいからどうしても欲しい人は冒険者から買えばいいと思う。とリリアーナが言うと、ラインハルトはまた目を丸くした。


「1人1日1袋でしょ。誰が買ったかメモしたら?」

 街の人はギルドの人なら名前も知っているだろうし、冒険者はドッグタグを見せてもらって日にちと名前を書いておく。

 違う受付の人に頼んでも買ったかどうかがわかるので1日1袋しか買えなくなるはずだ。


「メモはA、B、C別で書いておくと誰が買ったか探しやすいと思うよ」

 イメージは電話帳だ。

 あ行、か行みたいに分かれていれば同じ名前が見つけやすいだろう。


「ありがとリリー! またくるねー!」

 バタバタと足音をたてて走り去るラインハルトにリリアーナは手を振る。


「まるで相談役ですね」

 クリスが重鎮に相談しているようだと笑う。


「相談しすぎだろう」

 リナは俺のだ。とジークハルトは溜息をついた。

 手に持っていた書類を机に置くと立ち上がり、リリアーナを後ろから捕まえる。

 振り返りながらどうしたの? と首を傾げるリリアーナにジークハルトは微笑んだ。


「あー、あともう一個!」

 思い出したラインハルトがジークハルトの執務室を勢いよく開ける。

 リリアーナを後ろから抱きしめるジークハルトの姿にラインハルトも、うっかり中が見えてしまった護衛も驚いた。


「なんでもうイチャイチャしてんのさ」

 クリスもいるのにさーとブツブツ独り言をつぶやきながら部屋へ入り扉を閉める。


「他の人も薬を販売したいっていうんだけど」

 やっぱさ、それはダメだよね? というラインハルトに、リリアーナは首を傾げた。


「たくさんの医師が作ってくれたら、たくさんの人が助かるよ?」

 どうしてダメなの? とリリアーナが言う。


「えっ、だって売れなくなっちゃうかもしれないじゃん」

 たくさんの種類があったら、ジェフリーの薬を買わないかもしれないとラインハルトが言うと、またリリアーナは首を傾げた。


「ライ、薬販売の目的は何だ?」

「えっ?」

 ジークハルトの問いにラインハルトが固まる。


「ライ、聞いてばかりではダメだ。考えてみろ。リナも教えてばかりではライが成長しないぞ」

「ジーク兄はリリーとイチャイチャしたいだけじゃん!」

 リリアーナを抱きしめながら言う言葉には説得力がなかったのだろう。

 ラインハルトはまた勢いよく扉を開けるとバタバタと音を立てながら廊下を走っていった。


「……子供か!」

 眉間にシワを寄せながらジークハルトがつぶやくと、リリアーナはクスクスと笑う。


「早くラインハルト殿下も公務に慣れると良いですね」

 一生懸命頑張っているようですが。とクリスも微笑んだ。


 ラインハルトが元気よく走り去った後、ジークハルトの執務室には難しい顔をした宰相が訪れた。


 宰相はジークハルトとリリアーナ、そしてクリスに皇后が流産してしまった事を告げた。

 高齢出産のため無事に産まれる可能性はもともと低かったのだと。


 しばらく皇后に寄り添いたいと皇帝陛下が言っているため、一部の公務をジークハルトに任せられないかと宰相は相談に訪れたのだった。


「もちろん構わない」

 皇帝陛下でなければダメなもの以外は回してもらっていいとジークハルトは言う。


「すまないな」

 宰相は申し訳なさそうな顔をしながらクリスへ予定を引き継いだ。

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