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190/259

190.薬

 5分程度で馬車は到着し、茶髪の護衛が扉を開ける。


「商業ギルド?」

 ジェフリーが建物を見て首を傾げた。


 クリスが1番に馬車から降りる。

 商業ギルド長と、おそらく従業員であろう数人が建物の前で待ち構え、街は異様な雰囲気だった。


「ジェフリー、降りろ。クリスに従え」

「はい」

 訳が分からないままジェフリーが馬車から降りると、見慣れた街の人々が歓喜の声を上げた。


「ジェフリー先生!」

 名前を呼ぶ子供の声にジェフリーが振り返ると、よく熱を出すパン屋の子が手を振ってくれた。

 微笑みながら手を振り返す。

 クリスの隣に行くと、クリスから白い袋が手渡された。


「今日から販売です」

 にっこりと告げられる言葉。


 ジェフリーは慌てて白い袋を見た。


『解熱剤』

 5歳まで1個/日

 15歳まで2個/日

 16歳から3個/日

 消費期限:ドラゴニアス歴9998年5月まで

 医師:ジェフリー 


 リリアーナのアドバイスで子供用を目安に量を決めた解熱剤。

 大人は1日3個と面倒だが、子供用と大人用を分けなくてよいのでロスが少ない。

 消費期限も記載した方が良いと言われ、5月にしようと思ったら年も書くべきだと言われた。

 1袋6個入りで製造から半年の消費期限だ。


「この街が販売第1号なので、本日は皇太子殿下が視察に参りました」

 商業ギルドはレオンハルト殿下の管轄ですが、本日はご予定があるので代わりに皇太子殿下がとクリスはギルド長に微笑んだ。

 商業ギルド関係者にクリスが合図を送ると全員がお辞儀をする。


 ジークハルトは馬車を降りるとリリアーナに手を差し伸べた。

 公務に慣れていないリリアーナの顔が強張る。

 心の準備もまだですー。

 緊張で手と足が一緒に出そうなリリアーナの肩をジークハルトはグイッと引き寄せた。

 商業ギルドの中へゆっくりと歩く。


 大国の皇太子殿下を近くで見る機会など田舎では一生ないと思っていた街の人々の歓喜の声が狭い道に響いた。

 婚約発表の絵姿通りの2人。ホンモノだ。

 拝みだすおばあちゃん、キラキラのドレスにうっとりの小さな女の子、イケメン皇太子に釘付けのお姉様、2人をうっとり眺めるマダム。

 みんなの反応は様々だ。


 商業ギルドへ2人が入ると、クリスとジェフリーが後から続く。

 ギルド長が棚へと案内し、説明を始めた。


 薬は診療所で診察していた時の価格と同じ。

 ギルド受付で薬が欲しいと言えば誰でも購入可能。

 ただし1人1日1袋まで。


 期限切れになった場合は帝都の商業ギルドへ返却、在庫がなくなる前に発注を行います。と説明を受ける。

 今、棚に置いてあるものは10袋。


「在庫はこれで全てか?」

「本日50袋納品されました」

 ジークハルトが尋ねると、ギルド長は引き出しを開けて残りの在庫を見せた。

 納品したのはクリスだ。

 護衛に持たせていた大きな袋の中身はコレだった。


「50袋がなくなる目安は?」

「これから少し寒くなると風邪が流行します。遅くても3月にはなくなるでしょう」

 ジェフリーが回答すると、ジークハルトはそうか。と頷いた。


 ジークハルトは向きを変え、扉の方へ向かう。

 もう視察終了?

 驚いたリリアーナが見上げると、なぜか金の眼で微笑まれた。


 扉の前には多くの街の人々。

 護衛2名が少し広がるように指示を出す。


 ジークハルトはゆっくりと外へ出ると、立ち止まり手をかざした。

 急にシンと静まり返る街の人々。


「この街の医師だったジェフリーは薬草に詳しく有能で、帝宮へ引き抜いた。急に医師がいなくなり皆には迷惑をかけた。今後は商業ギルドで解熱剤の販売を行う」

 クリスが解熱剤の白い袋を街の人々へ見せると街の人々がワッと声をあげた。

 やはり医師がいなくなって困っていたのだ。


「他にもほしい薬がそれぞれあるだろう。ジェフリー、販売可能なものは商品化を」

 振り返りながらジークハルトがジェフリーに告げる。


「はい。殿下」

 ジェフリーは頭を下げた。


 第1騎士団長が馬車の扉を開け、ジークハルトがリリアーナをエスコートする。

 馬車に乗せると自身も乗り込んだ。


「ジェフリーはこちらで街の人々の話を聞いてあげてください。3時までに診療所に戻ってくださいね」

 クリスに微笑まれ、茶色の袋を渡される。

 それはジェフリーの分のお昼ご飯。

 初めからそのつもりだったという事だ。


「ありがとうございます」

 商業ギルドの入口で頭をさげ、ジェフリーは馬車を見送った。

 馬車が走り去ると、街の人々は一気にジェフリーへ押し寄せる。


「ジェフリー先生おかえり!」

「急にいなくなってびっくりしたよ」

「すげぇな帝宮医師かよ」

 みんなが一度に話すためよく聞き取れない。

 ジェフリーは抱きついてきた小さな男の子を抱き上げながら微笑んだ。



「先に教えてくれればいいのに~」

 馬車の中でリリアーナがすごく緊張したと大きく息を吐いた。


「視察だと教えなかったか?」

 ジークハルトが金の眼を細めて微笑む。


「視察した事なかったし」

「無理矢理予定を入れたので火曜の冒険者の日になってしまい申し訳ありませんでした」

 今日販売開始で薬だけギルドに並べて終わりの予定だったが、急に来ることに決めたのだとクリスが説明する。


 ジェフリー本人が来た方が薬の信頼度が増す事、街の人がジェフリーを心配していたであろう事、ジェフリーもこの街の人々を気にしていた事など総合的に考えてこうなったのだと教えてくれる。


 薬を販売したらどう? と気軽に言ってしまったが、ジェフリーが試作を作り、レオンハルトが商品化、そしてジークハルトが宣伝してくれたのだ。


 すごいな。


 別邸に閉じこもっている時には全く縁のなかった世界。


「……カッコよかったな……」

 心の声が漏れていることにリリアーナはおそらく気づいていない。

 ジークハルトとクリスは顔を見合わせた。


 さすが大国の皇太子だと思った。

 手を前に出すだけで、街の人々が黙ったのには驚いた。

 街の人がジークハルトが話す事を聞きたいと耳をすましていたのだ。

 5歳くらいの小さな子まで。


 オーラが違いすぎる。

 明らかに庶民の自分とは全然違う。

 綺麗なドレスを着せてもらっても中身が釣り合わない。


 伏し目がちで視線が合わないリリアーナのアゴをジークハルトは手で上げた。


「……何を考えている?」

 綺麗な金の眼がリリアーナを捕らえた。


「ほわ?」

 間近にある整った顔に思わず変な声が出る。


「診療所に着いたらドレスを脱がせてやるからな」

 にっこりと告げられた言葉にリリアーナは遠慮したいですと呟いた。

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