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189.診療所

 第1騎士団長は赤竜から荷物を下ろし診療所の入口へ置いた。

 ジェフリーも灰竜から荷物をおろす。

 ジークハルトはリリアーナを大切そうに抱えながら黒竜メラスから降りると、ドラゴンたちに上空で待機するように命じた。


 すぐに飛び立つ黒竜メラス。

 追いかけるように赤竜と灰竜が飛び立った。

 先ほど別れた護衛の青竜とクリスが乗っていた灰竜も上空で合流する。


 小さな田舎街にドラゴンが5頭。

 それも異様な光景だった。


「ジーク様、お待たせしました」

 こんなキツイ坂だと思いませんでしたと、街から丘まで登ってきたクリスはつぶやいた。

 だいぶ息が上がっている。


「はい、ジェフリー」

 手に持った鍵をジェフリーへ手渡すと、クリスは疲れましたと座り込んだ。


 診療所の鍵。

 見覚えがあるどころではない。

 先生が付けていたキーホルダーがそのままついた入口の鍵だ。

 驚いたジェフリーがジークハルトを見ると、早く開けろと溜息をつかれた。


 慣れた手つきで診療所の鍵を開ける。

 扉は以前と変わらず、小さな音でキィと音を立てて開いた。


 中は少し埃っぽいが思ったよりも綺麗だ。

 誰かが掃除をしてくれていたのだろう。


 あの日急いで薬草と道具を持って行ったままの状態。

 使われた薬草の種類と重さを記録したメモを破った跡。

 使ったままのペンはインクが固まっている。


 まさかここにもう一度帰って来られるなんて。

 ジェフリーは慌てて涙を拭くと、どうぞと全員を招き入れた。


「着替えるスペースはあるか? クリス、時間は?」

「奥が薬品庫になっておりますので、着替えはそちらで」

「1時間半後に馬車が迎えに参ります」

 ジェフリー、クリスの回答に満足したジークハルトはリリアーナを床へ下した。


 ここがジェフリーのいた診療所だと告げると、リリアーナが驚いた顔をした。

 リリアーナもここへ来ることを知らなかったのだとジェフリーが知る。


 リリアーナは診療所を見渡した。

 言われてみれば病院っぽい。

 この世界の病院は行ったことがないが、棚に瓶が並ぶ様子はまるで小学校の理科準備室のようだ。

 棚を覗き込むと、ジェフリーが棚の鍵を開けてくれた。


「外に生えていた薬草を乾燥させて粉にしたものがこれです」

 瓶を振ると暗い緑色の粉が中でサラサラ揺れた。


「炎症を抑える効果があります」

 いつもは従者の顔のジェフリーが急にお医者さんに見える。

 医師なので当たり前なのだが。


 赤竜が持っていた荷物が奥の部屋へと運び終わると、クリスはリリアーナを呼んだ。


「これに着替えてください」

 着替えは一人でできますねと微笑まれる。


「これを着るの?」

 どこからどう見てもドレスだ。


「はい。小物も一式、ミナが準備したのであると思います」

 確かに今日は朝から侍女のミナが髪を編み込みにして変だと思った。

 今日はリボンもつけますね。なんて言っていたが。

 きっとドレスとお揃いのリボンがついているのだろう。

 下着もちゃんとしたのをつけるべきだと言い出した理由はコレだったのだ。


「クリス兄様、さすがにドレスの後ろのボタンは無理……」

 途中までは手が届くが、最後の1、2個は無理だ。


「あー、……最後はジーク様に」

 目を逸らして告げるクリスは確信犯だ。

 では、お願いしますと逃げて行ってしまった。


 綺麗な水色のドレスは豪華すぎず、子供過ぎないAラインのデザイン。

 きっと皇后のお友達だというあのデザイナーさんの作品。

 肌が見えすぎないように配慮されている。

 皇后のようにスタイルが良い人だと色気が出すぎてしまいそうだが、まったく心配ナシな所が逆に悲しい。


「あ、あの、ジーク。お願いが……」

 真っ赤な顔でリリアーナが奥の部屋から顔を覗かせると、くつろいでいたジークハルトがどうしたと首を傾げた。


「あの、ボタンを留めてほしくて……」

 部屋へ入ってきたジークハルトに真っ赤な顔で背中を向ける。


 長い黒髪をまとめて前へ流すと、背中がまる見えでかなり恥ずかしい。

 たとえ前世で水着が平気でも、ボタンを留めてもらうのは話が別だ。


「……これは誘われているのか?」

 ジークハルトがリリアーナを後ろから抱きしめると、リリアーナはワタワタと慌てた。


「ちっ、違っ、届かなくて」

 ジークハルトは言い訳をするリリアーナの顔を後ろに向かせ、口づけする。

 ボタンを留めてと頼んだのに、なぜかボタンが外されていくのだ。


「ち、ちょっと、ジーク、違っ」

 腰からドレスの中にジークハルトの手が入り、リリアーナは焦った。


「お取込み中、申し訳ありませんがジーク様も着替えの時間です」

 扉の向こうから冷静なクリスの声。


「……あいつ、わざとだろう」

 ジークハルトは舌打ちをするとリリアーナの腰をグイっと引き寄せた。

 耳を甘噛みしながら、続きは後で。と囁く。

 真っ赤な顔で口をパクパクさせるリリアーナの背中のボタンを見ないまま器用に止めると、首に赤い痕を残した。

 ゆっくり離れ、金の眼を細めてニヤリと笑う。


 後って? 続きって?

 バクバクする心臓は静まりそうにない。

 ジークハルトが部屋から出ていくのを確認すると、リリアーナは丸椅子に腰が抜けたように座り込んだ。


 ジークハルトも黒のジャケットを羽織り、髪を金の紐でくくる。

 クリスも公務用のジャケットがある事をリリアーナは今日初めて知った。


「街の人は、白衣の方がジェフリーってわかりますか?」

 クリスが不思議なことを尋ねると、ジェフリーは首を傾げながら白衣なら子供もわかると思いますと答えた。

 なぜか白衣を羽織らされ、クリスと一緒に馬車の中へ。


「どこに行くの?」

 馬車、ドレス、白衣。

 全く意味が分からない。

 リリアーナが首を傾げると、その可愛い仕草にジークハルトは「リナを見せたくない」と呟いた。

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