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185/259

185.おかしい

 リリアーナの結界は木も関係なく四角く魔物を覆った。

 狭い箱に閉じ込められた凶暴なクマはお怒りだ。


「リリー、そのまましばらく維持できますか?」

 維持するのはとても疲れる。

 大技の魔術を撃つよりも地味に魔力を削っていくのだ。


 みんなに見える箱型結界のお陰で、転んだ生徒や怪我をした生徒も次々に救助されていく。

 

 よかった。

 まだ魔物は倒せていないが、リリアーナは少しホッとした。


「リリー!」

 レオンハルトと友人、ジェフリーもリリアーナの元へ合流する。


 ジェフリーは怪我をしたレオンハルトの友人に傷薬を渡してくれたようだ。

 友人の手に青い傷薬がある。


「あの魔物の弱点は?」

 ノアールがジェフリーに尋ねた。


「おそらく火です。ビックベアは火に弱い。魔物化しても同じだと思います」

 ジェフリーのわかりやすい説明にノアールは頷いた。


「リリー、結界の上だけ開ける事はできますか? ショコラの箱を開けるイメージです」

 失敗しても大丈夫、一方向ならシールドで防ぎますとノアールが言ってくれる。


「やってみる」

 リリアーナはショコラの箱を思い浮かべた。

 水色の結界の箱の蓋がイメージ通りに開いていく。


「いやいや、絶対おかしいよね?」

 レオンハルトが兄エドワードのようなツッコミを入れると、やっぱり似てるとリリアーナは笑った。

 その様子を見たノアールも微笑む。


「うわぁお、すごいね」

 スライゴもその不思議な様子に思わず声を出した。


「ではレオンハルト殿下、あの中に火を」

「いやいやいや、おかしいって」

 アリエナイと言いながらもレオンハルトが火魔術を上から入れ、同時にノアールが風魔術で竜巻を起こす。


「リリー、結界の蓋を閉めましょう」

「いやいや、だからおかしいって」

 普通に閉じてしまう蓋に再びレオンハルトがツッコんだ。


 結界の中は炎の竜巻。


 あっという間に凶暴なクマは丸焦げに。

 そして黒焦げは塵のように細かくなりビックベアの姿は消えた。


「……消えるのですか」

 不思議な光景にノアールが驚く。


「へぇ、不思議だね」

 スライゴも初めて見る光景に驚き、ビックベアがいたはずの場所をじっと見つめた。

 ビックベアがいたなど嘘のように、何もない。


 ジェフリーはその場所から小さな魔石を拾った。


「Aランク以上の魔物を倒すと魔石が取れます」

 ジェフリーの手には5mmもない黒い石。


「魔石を買ったことはあるけれど、こんな風に取れるんだね」

 スライゴが買った魔石は、リリアーナが冷蔵庫に使った冷たい魔石の事だ。

 冒険者から購入したが、あんなに凶暴な魔物を倒さないと取れないのであれば、価格が安すぎたかもしれない。


 魔石がリリアーナの手に乗せられる。

 温かくもない。

 冷たくもない。

 何かわからない石だ。


 リリアーナはもう片方の手をかざす。

 ヴィンセント魔術師団長に習った鑑定はうまくできた事はまだないけれど。


「ノア先生が側にいたらできそうな気がする」

 リリアーナが手を添えてほしいと頼むと、いいですよと手を包み込んでくれた。


「……鑑定」

 じわっと手が熱くなる。


 鑑定は吸い取るイメージだ。

 石の力を手に吸い取る感じ。

 火? 風?

 炎の竜巻?

 熱風。


「ドライヤー!」

 リリアーナの頭にドライヤーが浮かぶ。


「ノア先生、これで魔道具を作りたい。髪を乾かすやつ!」

 急に振り向き、またよくわからない事を言い出したリリアーナに、ノアールは微笑んだ。


「おそらく証拠品としてしばらくは預かられてしまうと思いますが……」

 魔石はノアールが預かり、ハンカチに大切に挟んで内ポケットへしまう。


「リリーの欲しいものは何でも作ります」

 緑の眼を細めて告げられた言葉にリリアーナも微笑んだ。



「おかしいって!」

 怪我人の治療をしていたレオンハルトの友人が叫ぶと、治療中の人々が何事だ? と振り返った。


 レオンハルトの友人は頭を抱えた。

 結構深い傷だったはずの爪痕は全く残っていない。

 背中をかなり深く抉られた友人の背中も綺麗に治ってしまった。


「レオ、あり得ない、おかしい、信じられない」

 レオンハルトの友人が爪痕がない腕を見せた。

 服は破れている。

 血も服に付いている。

 でも怪我はない。


「は?」

 レオンハルトが驚いてリリアーナを見た。


 ジェフリーも彼の傷は見た。

 傷薬では気休めにもならないと思いながらリリアーナがどうしても渡して欲しいと言うので渡したが。

 まさか治るなんて。


「リリー? まさか……!」

 ダメじゃないですかとノアールがリリアーナを叱る。

 中級で効果がありすぎて配布を中止にした光魔術の傷薬だ。


「いくつのものを?」

 ノアールに聞かれたリリアーナは首を横に振った。


「わからない。治りますようにってしただけ」

 腕輪も指輪もなかったしとリリアーナはスカートをギュッと握った。


 おそらくレベル10。

 ノアールは目を見開いた。


「他には?」

「あれ1個だけ」

 泣きそうな顔で俯くリリアーナの頬をノアールは優しく包み込んだ。


「怒ってすみません。リリーが心配なのです」

 ね? と優しく覗き込まれる。


 リリアーナは小さな声でごめんなさいと言った。


「リリー、アレは兄上にもらった迷宮品だよね」

 レオンハルトが空気を読み、聞かれたらそう答えようと提案する。


「兄上は冒険者ギルドの管理者だからSランク冒険者から迷宮品をもらう事もあるよね」

 レオンハルトがジェフリーに話を合わせろと言う。


「そうですね。よく執務室に出入りされているSランク冒険者がおりますので」

 ジークハルトだろうか、ギルバートだろうか。

 リリアーナはうん? と悩みながら、ジークハルトにもらったと言う事にした。


 学園長が到着し、状況説明はノアールがしてくれる事になった。

 生徒は全員授業中止。

 緊急下校だ。

 現場と安全確認のため明日も休講。


「ノア先生ありがとう」

「リリーと魔術が使えて楽しかったです。こんな事を言っている場合ではないのですが」

「……私もね、別邸みたいで楽しかった」

 リリアーナの言葉を聞いたノアールは緑の眼を細めて微笑んだ。

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