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180.大叔父

 新しい道路を作る事に反対する者はいなかったが、自分の領地を通らなかった貴族の中に1人厄介な人物がいた。

 皇帝陛下の叔父にあたる人物だ。

 元皇族という事もあり、叔父という立場もあり、彼の声は大きい。

 宰相が頭を抱えているとクリスがジークハルトに報告する。

 リリアーナは首を傾げた。


 皇帝陛下の叔父。

 ジークハルトからは祖父の弟。大叔父だ。

 きっと婚約発表の夜会で会ったはずだが思い出せない。


「明日、遊びに行くか」

 明日は火曜日。

 冒険者の日なので公務はない。


「リナの体調が悪くなって、たまたま立ち寄る」

 ジークハルトは悪戯っ子のようにニヤリと笑った。


 領地まではドラゴンで30分程度。

 ジークハルトは震えるリリアーナを抱えて黒竜メラスで飛んだ。

 可哀想だが今日は黒竜メラスに乗る時に魔術は禁止。

 本当に顔色が悪いリリアーナを乗せ、クリス、第1騎士団長、騎士姿のジェフリーを連れて領地へ向かった。


「リナ、頑張れ」

 口づけしながら励ますが、リリアーナは真っ青で今すぐにでも気絶しそうだ。


 領地へ入るとすぐにクリスとジェフリーが領主邸へ向かい、休憩させてもらえないかとお願いする。

 どうせ道路の件で来たのだろう? と疑っていた大叔父は、今にも倒れそうな顔で黒竜メラスに乗るリリアーナを見て慌てた。


「狭いですが客室をご用意しました」

 家具は少なめだが、綺麗な緑色の壁紙に天蓋付きベッドの綺麗な部屋へ案内される。

 ジークハルトはリリアーナをゆっくりとベッドへ寝かせた。


「大叔父殿、突然ですまない」

 ジークハルトが謝罪すると、大叔父は気にするなと笑った。

 年配だが笑った顔は皇帝陛下に似ている。

 金髪、金眼、ひげのおじいちゃんだ。


 夜会では会っていないかもしれない。

 会場のどこかにいたのかもしれないが、挨拶した記憶はない。


「ドロス領の噂の迷宮を視察に行こうと思ったのだが、気分が悪くなった。大叔父の領地があって助かった」

 クリスは明日のドロス領の視察は中止という伝令を騎士のジェフリーへ頼んだ。

 これも打ち合わせ済みだ。

 ジェフリーは疑われないように本当にドロス領の隣のデヴォン領へドラゴンで飛ぶ。


「迷宮はすごいそうですな」

「あぁ。冒険者ギルドの管理者としては1度見たいと思ったが」

 侍女が持ってきた水を受け取り、口移しでリリアーナへ。

 その溺愛っぷりに大叔父は呆気に取られた。


「夜会でも随分とご執心でしたが」

 宰相の娘だったので政略結婚だと思ったと言いながら大叔父がひげを触る。


「あぁ。(つがい)なんだ。ドロスの公務は2日かかるだろう? 離れたくなくて連れてきたが長距離はまだ無理だった」

 無理させて悪かったな。とジークハルトはリリアーナの頭を優しく撫でた。


「たいしたものはありませんが、昼ご飯でも用意させましょう」

 大叔父が部屋からでると、ジークハルトはニヤリと笑った。


 ここまでは作戦通り。

 昼食を取りながらきっと道路についての話題になるだろう。

 そこから大叔父の不満を聞き、解決策を探す。

 そのためにクリスも連れてきた。

 リリアーナは可哀想だったが、あの青い顔だからこそ警戒されなかった。


 空にいなければリリアーナに恐怖心は出ない。

 すぐに顔色は良くなったがジークハルトが添い寝して離さなかった。

 食事の支度ができたと呼びにきた大叔父が添い寝を見て驚く。


「ご存じだとは思いますが、ジークハルト殿下は竜の血が濃いため(つがい)への執着が凄く、食事も給餌されますが驚かないでください」

 クリスが小声で伝え困った顔で微笑むと大叔父はわかったと告げた。


 抱き上げて移動し、膝の上で求愛給餌。

 先程はわかったと返事をしたが、わかった上でも呆気に取られる。

 仲睦まじいのは良いが、これでは従者は大変だと大叔父は肩をすくめた。


「体調はいかがかな?」

「ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」

 見た目よりもしっかりしたリリアーナの返事に大叔父は驚いた。


 もっと幼い子供かと思っていたが、どうやら違うようだ。

 ギルバートをやっつけたと皇帝陛下から笑い話として聞いたが、本当なのだろうか。


「ここは山が近く、景色が良い。気分が良ければ見て行くといい」

 大叔父の言葉にリリアーナはありがとうございますと微笑んだ。


「大叔父様、あの煙は何ですか?」

 窓の外はまるで別荘地のような景色。

 そこにモクモクと白い煙が上がっている。


「あぁ、あれはなぜか熱い水が出ているのです」

 大叔父はひげを触りながら窓の外を見た。

 あそこだけだと教えてくれる。


「温泉ですか?」

 リリアーナの目が輝いたが『温泉』という言葉に聞き覚えがない。


「……温泉とは?」

「えっと、お風呂? 湯浴み? 入浴施設?」

 説明が苦手なリリアーナのイメージは誰にも全く伝わらなかった。

 とりあえず食事の後、みんなで見に行く事に。


 モクモクと上がる煙は湯気。

 そこだけ温泉街のような熱気だった。


「熱いかな?」

 あの水を触りたいと言うと、全員に驚かれた。


「姫、私が見て来ますのでご指示を」

 第1騎士団長が代わりに様子を見てくれると言う。


「温度が知りたいけど……。それ借りてもいいですか?」

 ちょうど第1騎士団長の腰についている水筒が目に入る。

 紐も付いているし水も汲める。

 完璧だ。


「これに汲めば良いですか?」

 うんうんと頷くと第1騎士団長は湯気の方へ。

 水筒に入っていた水を捨て、穴から湯を汲んでくれた。


 色は乳白色。

 匂いはそんなにない。

 湯気も出ていて熱そう。

 指は突っ込まない方が良さそうだ。


「大叔父様、アレは?」

「山の湧水です」

 チョロチョロと岩の間から出ている水。


 お湯+水!

 岩で囲ったら温泉!


「この辺りの土地は大叔父様のですか? あの湯気の所と湧水も」

 またよくわからない事を言い出したリリアーナをジークハルトは止めた。


「リナ?」

 じっと金の眼で見つめると、リリアーナの黒い眼が泳ぐ。

 何か企んでいると言う事だ。


「……温泉……」

 ぼそっとリリアーナが呟くと、だから温泉とはなんだ? と聞かれてしまった。


 リリアーナは温泉をうまく説明できない。

 相変わらず説明は下手だ。

 ショボンとすると、見かねたクリスが声をかけた。


「何をしたいのですか? 何か作りますか?」

 手帳と羽ペンを差し出してくれる。


 さすがクリス兄様!

 リリアーナはジークハルトに降ろしてもらい、手帳を受け取るとニッコリ微笑んだ。

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