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168.迷宮解禁

 6月中旬。

 サウス大陸イエ国からリリアーナ宛に献上品が届いた。

 中身はピンクパールのネックレスだ。

 前が大きいパール、後ろになるにつれて段々小さくなっている。

 以前リリアーナが絵に描いたものより、遥かに美しいバランスの仕上がりだ。


「綺麗」

 1粒1粒がピカピカしており、大きさも左右で揃えてある感じだ。


 派手過ぎない淡いピンク。

 絶対高いよね!

 リリアーナが触れるのを躊躇(ためら)っていると、笑いながらジークハルトが着けてくれた。


「穴を開けると聞いて驚いたが、すごいな」

 同じ大きさよりも綺麗だとジークハルトが褒める。


「これなら小さいパールの需要も高まりますね」

 首の後ろの方はかなり小さいパールなので邪魔にならない大きさだろう。

 これも品薄になりそうですねとクリスが微笑んだ。


 ネックレスは慎重に外してまた元の箱へ。

 豪華すぎて着けられないとリリアーナは言ったが、1月の皇帝陛下即位記念の式典で着ける事がいつの間にか決まっていた。

 ドレスのデザインがそろそろ出来上がる頃だとクリスが言う。


 婚約発表の夜会のドレスだって1回しか着ていないのに。

 贅沢すぎる!

 もったいない!


「次は黒のドレスです。金の刺繍が映えますよ」

 黒に金は完全にジークハルトの色。

 前回イエ国から頂いたイヤリングとこのネックレスも似合うと思いますと微笑むクリスに、恐るべしロイヤルとリリアーナは心の中で思った。


「リナ、誕生日に欲しいものはあるか?」

 普段から十分貰いすぎている。

 キッチンもお米も味噌も何だって叶えてくれている。

 これ以上望んだらバチが当たりそうだ。

 リリアーナは首を横に振った。


 もうすぐ17歳。

 結局ずっと甘えてここにいるけれど、フォード侯爵はいつ来るのだろうか?


 まだ身体が小さいから来ないのだろうか?

 でもきっとセクシーな身体になる可能性は低い。

 マリアンヌがどんな人かは知らないけれど、兄エドワードがイケメンだからきっと美人だったのだろう。


 何かの魔術ができるようになった時だとしても、いつどのくらいできたら来るのか。


『20mしか生き返れないのなら、まだ来ないよ』

 フレディリック殿下の特別講座で生き返ったかもしれないトリ。

 今だったらどのくらい生き返るのだろうか?

 そもそもあれは生き返ったのだろうか。


 急に黙り込んでしまったリリアーナを、ジークハルトは優しく抱き上げた。

 ふわっとお日様のようないい匂いがする。

 リリアーナはジークハルトの肩に顔を埋めた。


「どうした?」

 低いけれど優しい声に安心する。


 普段甘えて来ないリリアーナが擦り寄る姿にジークハルトは驚いた。

 抱きかかえたままソファーに座り、頭を優しく撫でる。


 クリスは手帳を確認すると一礼して執務室から出ていった。


 本当に有能なやつだ。

 ジークハルトはクリスの気が利きすぎる所に苦笑した。


 リリアーナをここへ連れて来てからもうすぐ1年と3ヶ月。

 やっと甘えられるくらい信頼してくれたのだろうか。

 もっと甘やかしたい。

 側にいたいと、俺がいないと生きていけないと言わせたい。


「明日はどこへ行きたい?」

 明日は火曜日、冒険者の日だ。

 依頼を受けるか、街で買い物か、迷宮の混み具合を見に行くか? と聞くと、迷宮がいいとリリアーナは答えた。


「青い空が見たい」


 翌日はリリアーナの希望通り迷宮へ。

 馬車で10日かかる距離はドラゴンなら半日。

 でも転移なら一瞬だ。

 リリアーナとジェフリーは魔術師団長ヴィンセントの凄さを再確認し合った。


 クリスにお昼ごはんと飲み物を準備してもらったので、10階層の青い空の湖でピクニックだ。


 芝生に座ろうとするとジークハルトの膝に乗せられた。

 迷宮にはたくさんの人達が入って行ったのに10階層には誰もいない。

 さすが迷宮。不思議すぎる。


「どれが食べたい?」

 ジェフリーが手際良く並べてくれた食べ物からサラダを選ぶとジークハルトに笑われた。


「もっと肉を食え」

 大きくなれないぞと揶揄(からか)われる。


「やっぱり大きい方がいい?」

 胸は大きい方がいいよねと言うと、ジークハルトとジェフリーは驚いた顔をした。


 そういえば婚約発表の夜会でもスタイルを気にしていた。

 みんなスタイルが良くてズルいと言っていたが、随分と気にしているようだ。

 ジークハルトは冒険者スズの姿をした髪の短いリリアーナの首に吸い付くと、耳元で囁いた。


「これ以上魅力的になって誰をオトすつもりだ?」

 甘噛みされた耳から吐息が聞こえる。

 リリアーナは真っ赤になりながら否定した。


「あの赤い巨大魚を倒してきます」

 まだ倒した事がないので。とジェフリーはチキンサンドを1つ手に持つとスッと立ち上がった。

 食べながら湖の方へ歩きだす。


 あいつも気を使いすぎだ。

 クリスもジェフリーも有能すぎるとジークハルトは苦笑した。


「そのままでも十分可愛いよ」

 首に赤い痕をつけると、顔の向きを変えて口づけする。

 食事もせずにずっと口づけをしていると、少し離れた湖で大きな音が響いた。


 湖畔には赤い大きな金魚。

 6mくらいの巨大魚がビチビチと跳ねている。


「あいつ、どうやってあそこに飛ばしたんだ?」

 ジークハルトとリリアーナは顔を見合わせて笑った。


 倒した巨大魚の上でジェフリーが何かをしているけれど。


「何をしているのかな?」

 リリアーナはサラダのレタスをむぐむぐしながら首を傾げた。


「素材でも取っているのだろう?」

 そういえば、前回は何も素材を取らずにゴールを目指してしまった。

 もしかしたら貴重な素材とかあったのかもしれない。

 フレディリック殿下の特別講座も、『できるだけ多くの素材を取る』が宿題だったのに。


 リリアーナの前に柔らかく煮込んだ角煮が出された。

 これなら食べられるだろう? と言いたそうな顔でジークハルトが微笑む。

 リリアーナは口を開けて食べさせてもらった。


「~~(おいしい)」

 ほろほろと溶けてしまう柔らかさにリリアーナが満面の笑みになる。


「もっと食え」

 口の中がなくなるタイミングで差し出されていく料理。

 青空の景色と、料理のおいしさのコラボのせいでいつもよりも食べ過ぎてしまったとリリアーナは笑った。


 ジェフリーは虹色に輝く鱗を取って戻ってきた。

 ほとんど赤い鱗なのに、数枚だけあったという虹色の鱗。

 かなり固いので加工すると小型のナイフになりそうだと笑う。


「きれい。虹色だね」

 鱗を眺めながらリリアーナが微笑むと、虹色とは? と聞かれてしまった。


 この世界には太陽がないので虹も空にかかることはないのだろう。

 光の屈折と反射で見える七色の光の帯だと説明したが、よくわからなかったと思う。

 やっぱり説明は苦手だ。


「戻るか」

 この迷宮は次の階に降りてすぐの扉を出れば入口に戻れる。

 階段の方へ歩いていくと宝箱に出会った。


「ジェフリーのだね。赤い魚を倒したから」

 あの巨大魚は倒さなくても次へ進めるため、逆に倒すといい物がもらえるのだ。

 ジェフリーが宝箱を開けると、中身は古そうな1冊の小さなノートだった。


「まさか……」

 ジェフリーは震える手でノートを手に取った。


 使い込んだボロボロの表紙、バサバサに広がった紙、折れ曲がったページ。

 中を見なくてもわかる。

 これは先生、診療所の持ち主のノートだ。

 崖から落ちたときにもおそらく持っていただろう。

 人が踏み込めない場所に落ちてしまったため助けることも弔う事もできなかったのに。


「どうしてここに」

 ジェフリーの目から涙が溢れた。

 慌てて袖で涙を拭う。


「最高の贈り物です」

 ジェフリーは迷宮を作った女神のリリアーナに微笑んだ。


「この迷宮、もらえるものがおかしくないか?」

 他の迷宮を知り尽くしているジークハルトが首を傾げると、リリアーナもそうなの? と一緒に首を傾げた。


 リリアーナはこの迷宮しか知らない。

 普通は何がもらえるのだろうか。


「いい人はいい物がもらえて、悪い人は大したことがない物だから、何がもらえるかわからないね」

 リリアーナが言うと、いい物すぎますとジェフリーが突っ込んだ。


 亡くなった先生のノートには、今まで先生が調べた薬草に関する多くの事が記録されている。

 ジェフリーも多くの事を学んだが、覚えきれなかった内容や教えてもらっていない内容もすべてこのノートにあるのだ。


 ジェフリーはなぜか先生からの贈り物のように感じた。

 大切にしますとジェフリーは心の中で約束しノートを胸のポケットにしまう。


「お待たせしました。外へ行きましょう」

 階段を降り迷宮から出ると、周りにはたくさんの冒険者たちがいた。


「こんなにたくさんいたんだね」

 中では誰とも会わなかったので、迷宮は不思議すぎる。

 すぐそこの見える範囲に新しい建物。

 以前はなかったのであれが宿泊施設なのだろう。

 木々の間には冒険者たちのテントもたくさんある。


「見に行くか」

 泊まらないけれど視察だと言うジークハルトに肩を抱かれながら、3人で宿泊施設へ向かった。

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