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160.終結

 皇帝陛下・宰相が去ったリビングは急に静かになった。


「ありがとうございます」

 ジェフリーは目を潤ませながら頭を下げた。


「リリー、良かったですね」

 クリスが微笑むと、ジークハルトはドラゴンのように唸った。

 有能な人材を失わずに済んだが、リリアーナの側に置くのは嫌だ。

 ジークハルトの心の葛藤が見える。


「……どうしてギルを頼った?」

 なぜ直接俺に頼まない? とジークハルトは少し不機嫌そうに言った。


「ジークが護衛を用意したら、私に何かあったと思う人がいるかもと思って」

 ギルバート殿下がジークを説得したなら、何も起こらないように予防だと思うでしょ? とリリアーナは肩をすくめた。


「あの、妃殿下。なぜ私が騎士だと思われたのですか?」

 ジェフリーは騎士コースだった事をリリアーナには伝えていない。

 白衣を着た医師としてしか接していないはずなのに。


「片膝で座った時に、すぐ立てるようにつま先が外側に開いているでしょう?」

 リリアーナが首をコテンと傾ける。

 当たり前のように言うリリアーナに3人は驚いた。


 言われてみれば確かに騎士はつま先が外に向いているかもしれない。

 立ちやすいし、そのまま踏み込めるからだ。

 大臣が挨拶する時、つま先は真っ直ぐか、若干の内向き。

 そんな所まで見ていたとは。


 ジークハルトはリリアーナを抱き上げた。

 金の眼がリリアーナをじっと見つめる。


「勝手な事してごめんなさい」

 リリアーナが謝ると、ゆっくりと口が塞がれた。

 クリスとジェフリーは静かに部屋から退室する。


「頼りにならない男で悪いな」

 隣にいたのに毒を防げなかった。

 飲んだ後も何もしてやれなかった。

 ジェフリーが有能な事もわかっていたが救う手段はなかった。

 申し訳なさそうな顔をするジークハルトの頬を両手で挟むと、今度はリリアーナからキスをした。


「ずっと側にいてくれてありがとう」

 ドラゴンフラワーもすごく嬉しかったとリリアーナが笑うと、ジークハルトはそうかと微笑んだ。



「……確かに、困った時は助けてやるって言った」

 ギルバートは眉間にシワを寄せながら頭をボリボリと掻いた。


「だが、このタイミングで俺は必要だったか?」

 北の砦は遠いんだぞとギルバートは抗議した。

 ドラゴンで6時間、往復で12時間だ。


「ごめんなさい」

 リリアーナはジークハルトの膝の上で謝る。


「で? えーっと、コイツ? を護衛兼医師として嬢ちゃんの側に置いてやれ?」

 棒読みで、言わされた感が満載の言葉をギルバートが言うと、ジークハルトは溜息をつきながら、わかったと答えた。


「では雇用手続きを進めます」

 クリスが眼鏡の鼻当てを押さえながら手帳にメモをすると、ジェフリーは騎士の礼をした。


「生涯お仕え致します」

 ジークハルトとリリアーナの前に跪いて礼をするとゆっくりと立ち上がる。

 薄い茶髪に豹の耳と尻尾、しなやかな身体。

 細めだが筋肉はありそうだ。


「本当に騎士みたいだな。見た目も悪くない。嬢ちゃんはこういうのが好みか?」

 軽い感じの質問なのにジークハルトの殺気が一気に広がった。

 やっぱり手合わせかとジークハルトの目が座る。


「じ、冗談に決まってるだろ!」

 ギルバートは全力で手を横に振った。


「ところで嬢ちゃんはもう大丈夫なのか?」

「大丈夫です! 冒険者はお休み中ですけど」

 冒険者スズはまだ病気中だ。

 ちょっと残念だけれど仕方がない。


「犯人は?」

 どうするつもりかとギルバートが尋ねるとジークハルトは処罰を悩んでいると答えた。


 リリアーナが死ぬかもしれなかったのだ。

 犯人にも同じ毒を飲ませたい。

 だが冒険者ギルドではできないと溜息をついた。


 執務室からキッチンに追い出されたリリアーナは、クリスとジェフリーに紅茶を入れる。


「妃殿下がそのような事!」

 私が準備しますと言うジェフリーに、自分でやりたいと言うと驚かれてしまった。


「ここはジーク様がリリーのために作ったキッチンなのです」

 クリスが説明すると、公爵令嬢ですよね? と確認される。


 やっぱり変なのかな? 

 リリアーナは首を傾げた。


「クリス様、30年も怠けていたので妃殿下の学園が始まるまで騎士団と一緒にトレーニングさせてもらえないでしょうか?」

 ジェフリーが騎士コースを卒業してから30年程経つと聞いてリリアーナは驚いた。

 豹族の寿命は400歳。

 人族の4倍だった。


「人族で言うと18歳で卒業し医師になって現在25歳という感じですね」

 クリスのわかりやすい説明にリリアーナは納得する。


「しばらくは毎日夕方に診察させてください」

 ジェフリーの言葉にリリアーナは頷いた。


「冒険者のパーティ登録を申請しておきます。あ、ジーク様がハルなのですが、名前くらいは聞いた事がありますか?」

 クリスが微笑むとジェフリーは驚いて目を見開いた。


「Sランクの?」

「はい。そして先程のギルバート殿下も元Sランクのギルです」

 クリスが紹介すると、護衛は必要ないのでは? とジェフリーに突っ込まれた。


「ですが、冒険者の時に毒を飲んでしまいましたので」

 クリスの言葉にリリアーナが苦笑する。


「私は冒険者の時はスズです。Fランクです」

「F? SとFがパーティ? あり得ない!」

 ジェフリーは驚きすぎて敬語では無くなっている。

 リリアーナは上機嫌にふふふっと笑った。


 ジークハルトとギルバートが相談した結果、彼らの罰が決まった。


 リリアーナに飴を渡したキャロライン・ドロス男爵令嬢は、冒険者登録を剥奪。

 キャロラインは最後までスズに謝りたいと訴え続けたが叶うことはなかった。


 ドロス男爵は特に罰はなかったが、自身の領地に現れた迷宮をスズに譲渡したいと申し出た。


「男爵家はあまり裕福ではないため金銭でのお詫びが難しく、迷宮で申し訳ありません」

 ドロス男爵は何度もギルド長とSランク冒険者ハルに謝ると夫人とキャロラインを連れて領地へ帰って行った。

 キャロラインは学園も辞め、帝都を離れて領地で過ごすそうだ。


 犯人であるシンディ・デヴォン伯爵令嬢は最後まで動機などを話す事はなく、スズに謝罪の言葉も一切なかった。


 冒険者登録の剥奪。

 スズへの接触禁止。

 ドッグタグの預金はお詫びのためスズヘ強制譲渡となった。


 毒殺未遂をしたにも関わらず、冒険者同士はたったこれだけの罰だ。


 だが、シンディはデヴォン家の料理人を死に追いやった罪が別で存在する。

 貴族が平民を殺害した罪により、豹族の国であるウエスト大陸のパンテラ国へ強制送還される事となった。


 当然だが伯爵令嬢という身分もない。

 所持金もない。


 別名で冒険者の新規登録は可能だが、再びGランクからのスタートとなる。

 知らない国で頼る者もおらず、その日の食べるものを手に入れるだけで大変だろう。

 デヴォン家の手助けはもちろん禁止だ。


 犯人シンディの父であるデヴォン伯爵には罰はなかったが、ドロス男爵がスズに迷宮を譲ったと聞き、迷宮の近くに冒険者用の宿泊所を建てると約束した。

 亡くなった料理人の妻と子供は、宿泊所の管理人としてデヴォン伯爵が支援する事に。


 デヴォン伯爵夫人と兄ジェフリーにも何も罰は下されず、この事件は終結を迎えた。



「これで良かったか?」

 ジークハルトは膝の上に座るリリアーナを抱きしめながら確認した。


「ありがとう、ジーク」

「迷宮を持っている冒険者はスズだけだろうな」

 さすがにSランクでも持っていないとジークハルトは笑った。


「持っているとどうなるの?」

「入場料が取れる」

 単純な理由にリリアーナも笑ってしまった。


「まずは安全性の調査だが、一緒に行くか?」

「いいの?」

 リリアーナが嬉しそうに振り返るとジークハルトは驚いた顔をした。


 まさか迷宮にそんなに興味があるとは思わなかった。

 ただの暗い敵の出る洞窟だと知っているのだろうか?

 次の火曜日に行こうと約束するとリリアーナは嬉しそうに笑った。



 その夜、リリアーナは変な夢を見た。

 真っ白なセカイで迷宮を作る夢。


 真っ白な少女が階層の作り方の見本を見せてくれた。


「50階層!」

 夢だと思って自由に決める。


 最初の5階までがGランク、10階までがFランク。

 段々レベルが高くなって、15までE、25までD、35までCにしよう。

 45までB、最後の5階はAランク!


「誰も死なない迷宮がいいな」

 大怪我をしたら強制的に入口に戻っちゃうとか。


「あとは、いい人は良いものが貰えて、悪い人は変なものが貰えるとか」

 貰えるものがランダムだったら楽しいよね。


「洞窟だけど、湖とか、空とか、星空もいいなぁ」

 迷宮なんて行った事もないし、ゲームもユージのやっているのをちょっと横から見た程度だ。

 どんな所か知らないので言いたい放題だ。


「あと、続きからできるといいよね」

 ゲームみたいにセーブ機能は必須!


 各階に入り口に戻るドアを完備するとか?

 あ、パーティメンバーだったら誰か1人でも行った階からできるとか。

 うーん、中ボスとか秘密の抜け道とかいるのかな?

 最後までクリアしたら、あなたは何番目の達成者ですみたいな証明書とか!


 リリアーナが楽しくあれこれ考えていると、真っ白な少女は微笑んだ。


『 あ さ 』


 真っ白な少女がジオラマの黒い布を慣れた手つきで外すとリリアーナの視界が急に真っ白になる。

 眩しさにリリアーナは思わず目を閉じた。



「リナ、朝だぞ」

 暖かくていい匂い。

 リリアーナはジークハルトに擦り寄った。


「起きないなら襲うぞ」

 クスクス笑いながらジークハルトがリリアーナの頬を優しく撫でる。


「お、起きてる! 起きてる!」

 全力で逃げるリリアーナの腰はあっさりと捕まってしまった。

 ワタワタと暴れても、竜族であるジークハルトに力では全くかなわない。


「起きても襲うけどな」

 リリアーナが無事で本当に良かった。

 ジークハルトは金の眼を細め、リリアーナの首に赤い痕をつけながら微笑んだ。

第3章 ドラゴニアス帝国はこれで完結です。

次話より第4章 愛される娘 に入ります。

自由にのびのびと無双する(今までも散々やってきたけれど!?)リリアーナの応援よろしくお願いします。


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