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150.内職

 10日ほど滞在したギルバートとドラゴン騎士団は北の砦に戻って行った。

「ジークの子供の頃は今度こっそり教えてやる」

 帰る直前にギルバートが約束してくれたので次回会えるのが楽しみだ。


 竜結石の鑑定書第1号はリリアーナの指輪、第2号はイヤーカフになった。

 婚約発表の知らせと共に世界へ知らせる事により、鑑定書の存在をアピールできると宰相が言っていた。


「ドラゴンの密猟が減ってくれると良いけれど」

「鱗も貴重だからすぐは減らないだろうが、効果はあるだろう」

 ジークハルトはリリアーナに食後のフルーツを食べさせながら微笑んだ。


「リナはオレンジが好きか?」

 前世はネーブルオレンジが好きだった。

 この世界のオレンジはネーブルオレンジに味が似ている。


「好き。果物の中で1番好きかも」

 その顔で、その笑顔で、『俺の事が好き』だと言われたい。

 酔っ払いではなく、ギルバートを助けるためでもなく、本心で。

 ジークハルトは切なそうに笑う。


「魔術は順調か?」

「浄化でしょ、あと反射と吐出を教えてもらった」

 反射はなんとなくできるけど、吐出はまだ練習中とリリアーナが言うと、ジークハルトは首を傾げた。


「何に使うんだ? 何を吐き出す?」

「身体から不要な物を出すんだって」

 どういう場面で使うのかよくわからないけれど。

 猫みたいに毛玉でも吐くのかな? とリリアーナは肩をすくめた。


 エスト国の魔術演習でも、帝立学園の魔術実践でも、浄化も反射も吐出も使っているのを見た事がない。

 みんなが使っていたのは火や水など見える魔術だった。

 ヴィンセントに教わる魔術は見えないものばかりで難しい。


「そういえば、夜会の、えーっと何とか公爵の娘? 捕まった人。あの人はどうなったの?」

 今なら反射で跳ね返すことができるのかもしれない。

 あ、でも後ろからだったから無理かな。


「北の砦で労働だ。2度と帝都には戻れない」

 親の公爵位は2階級落ちの伯爵位になったと言う。


「ヴィン先生のお陰で当たらなかったのに?」

「もし当たっていたら一族全員処刑だ」

 リリアーナは驚いて目を見開いた。

 前世の歴史で一族郎党根絶やしって残酷だと思ったが、この世界でもそうなのか。


「北の砦って?」

「北の果てにある施設だ。そこの管理者がギル」

 北の果て。

 確か金色のドラゴンの本で、仲間を探して北にどんどん進んで辿り着いた最果ての地だ。

 本当の地名だったんだ。


「野生のドラゴンが生息している所だ。だから密猟も多い」

 ケガをしたドラゴンを保護したり、密猟者を捕まえたり、北は荒地のため食料問題もあり、結構ギルバートは忙しいのだとジークハルトは説明した。


 時計はまもなく夜の9時。

「そろそろメラスの所に行かないと腹が減ったと怒るな」

 ジークハルトはリリアーナを抱き上げると、寝室のベッドに座らせた。

 口づけをすると、おやすみと頭を撫でる。

 リリアーナもおやすみなさいと答えた。


 0時までジークハルトは戻ってこない。


 この隙に剣帯の刺繍だ。

 剣帯はジークハルトに内緒でクリスに買ってもらった。

 デザインは侍女のミナと考えたので、あとは黙々と作るだけだ。

 毎日少しずつだが3週間近く刺繍しているので、完成まであと少し。


 刺繍糸が減っていても不審に思われないように、昼間は定番のハンカチに刺繍をしている。

 こちらはミナに教わっているフリをしながら、ほんのちょっとだけ進めるだけなのでハンカチは半分も完成していない。


 喜んでくれるかな……?


 リリアーナは0時より少し前にベッドに入り、あっという間に眠りについてしまった。


    ◇


「ねぇ、ユージ。絶対おかしいわ」

 安い宿の固いベッドに寝ころんだユイは、剣の手入れをしているユージに声をかけた。


 Eランク冒険者の割にはいい剣を使用している方だが、手入れをしないと切れ味が悪い。

 できるだけ傷をつけずに小型生物を狩らないと買取金額が悪くなるのだ。


「あのなぁ、そもそもこんな世界に来てる事がもうおかしいだろ」

 ユージは剣を磨きながら、溜息をついた。


「ねぇ、どうして治癒が使えないの? 聖女なのに」

 ユイは1度も光魔術が使えたことはない。

 属性も調べたが「闇属性」しかも初級だ。

 このゲームの主人公は光魔術が使える聖女なのに。


 闇は珍しいからとフレディリックの婚約者に選ばれたところまでは、まぁギリギリなんとかシナリオ通りだったはずだが、突然の婚約破棄。しかもこちらの国から。

 王太子妃が処女じゃないといけないなんて聞いていないし。


 フレディリックの婚約者としてエスト国の王立学園に留学し、ノアール、エドワード、アルバートとイベントがあったはずなのに何も無し。


 ノアールと光魔術の研究をするはずだったのに。

 光属性を調節する腕輪を私のために作ってくれて、毎日2人で研究するイベントだ。


 模擬戦で折れたエドワードの剣を治すはずだったのに。

 模擬戦で負けてしまったエドワードを励まし、お父さんが買ってくれた大事な剣を治して好感度を上げるイベント。


 生き返ったトリのせいで怪我をして、フレディリックにお詫びの腕輪をもらうはずだったのに。

 もともと婚約者だが、怪我の責任を取り一生大切にすると言ってもらえるイベントだった。


 怖い夢を見てアルバートがずっと側にいてくれるはずだったのに。

 学校の中庭のベンチで話を聞いてくれて、抱きしめてくれるイベントだったはず。


 無理矢理侵入したエスト国の建国祭でも、やっぱりシナリオは変だった。

 

 ジークハルトに助けられるのは私のはずだったのに。


 ノアール、エドワード、フレディリックはシナリオ通りに近かったけれど、アルバートには会うことすらできなかった。


「私がジークと結婚するのに、悪役令嬢を連れて行ったのよ?」

 おかしいでしょ? とユイが言う。


 このままではエスト国と同じで、何もイベントが発生しないまま悪役令嬢リリアーナの断罪イベントを迎えてしまう。

 好感度が低かったら最後に好きな男とハッピーエンドにならないではないか。


「早くドラゴニアス行きの船に乗りたい」

 ドラゴニアス帝国側の攻略対象者と早く出会って好感度を上げなくては。


「金が足りねーよ」

 結構、船は高いんだぞとユージが苦笑する。


「ユイも働けよ」

 冒険者登録して、簡単な依頼だけでいいからとユージが言うとユイは「嫌よ」と言った。


 皇太子妃が働くなんてアリエナイでしょ。


「あー、早く治癒が使えるようにならないかな」

 そうすれば教会が聖女認定してくれるのに。


 聖女になったら、きっとジークハルトが迎えに来てくれる。

 皇太子妃はお前だって。

 悪役令嬢を白いセカイに閉じ込めようって言ってくれるはずだ。


 ユイは狭いベッドに大の字になりながら眠りについた。


「急に使えるわけねぇだろ」

 何もしないで治癒能力に目覚めるなんてねぇだろ。

 ユージは剣の柄についた汚れを濡れた布で丁寧に拭き取った。


 あの時、悪役令嬢リリアーナの泣き顔が莉奈に見えた。

 モノクルの男は『悪役令嬢リリアーナに捕えられている』と言っていたが。


 あの子が莉奈なのか?

 それとも侍女や使用人として働かされているのか?

 もっとわかりやすく教えろよ。


 莉奈を見つけて一緒に元の世界に帰る。

 絶対に。


 ユージは剣を鞘にしまいながら溜息をついた。


 もうそろそろDランクに上がれるだろう。

 Dランクになれば今よりも、もう少し高額な依頼が受けられる。

 冒険者で稼いでもユイと2人分の宿泊費と食費はキツイ。

 船代はなかなか貯まらないし、そろそろ新しい防具も必要だ。


 生活するだけで精一杯。


 莉奈、無事か?

 ちゃんと食事はできているのか?


 ユージも固いベッドに横になると疲れているせいかすぐに眠ってしまった。

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