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145.トップ会合

 俺を好きだと言った。

 軽い感じだったが。


 俺のシャツを着て誘っているのか?

 ほとんど閉めていないボタン。

 無防備にも程がある。


 はだけたシャツの隙間から見える白い肌、捲れて膝上まで見える生脚。

 これで襲うなとは苦行だろう。


 ジークハルトは溜息をつきながらリリアーナをベッドへ置いた。

 唇に軽く口づけし、首の下に赤い痕をつける。

 鎖骨にも、普段服に隠れている胸の上部にも吸い付き、いくつか痕をつけた。


 苦行の仕返しだ。

 ジークハルトは口の端を上げると、クリスの待つ執務室へ向かった。


「騎士にダンベルド前魔術師団長を呼びに行かせました」

 そろそろ騎士は古書店へついただろうか。

 クリスが時計を確認する。


「あれを襲うなとは」

 ジークハルトが長い足を組みながら頬杖をついた。

 酔うと正直になるのは良いが、まだ抱けないのに積極的なリリアーナは困るとジークハルトが溜息をついた。


「ショコラのほんの少しのお酒でダメなのですね」

 ワインやシャンパンも無理ですねとクリスは苦笑する。


 扉がノックされ、ダンベルド前魔術師団長が到着したと騎士が告げた。


「できれば皇帝陛下、宰相にもお目通り願いたい」

 ダンベルド前魔術師団長がクリスへ願い出る。

 クリスは急いで宰相の元へ走った。


「ご無沙汰しております」

 ダンベルドが魔術師団長を辞めて2年半。

 久しぶりに皇帝陛下へ挨拶すると、逆に皇帝陛下の方が畏まった。


(オサ)襲名おめでとうございます」

 皇帝陛下が立ち上がりダンベルドへお辞儀をする。

 その不思議な光景に宰相、ジークハルト、クリスが驚いた。


 ダンベルドが魔術師団長を辞めた理由は、エルフの里の長になるため。

 本当の理由は皇帝陛下のみが知らされ、世間的には高齢のため世代交代となっていた。


 世界の表側を統治するのが皇帝陛下だとすれば、世界の裏側の統治者はエルフの長だ。

 つまり2人は対等な立場。


「リリアーナの話の前に、なぜ表に来たのか、そこから話をせねばなりません」

 エルフは世界の裏側に住み、表側には姿を見せない。

 現在、表側にいるエルフはダンベルド、ヴィンセント、行方不明の1人。

 3人だけだと言う。


「行方不明?」

 宰相が思わず声を出した。


「20年ほど前、3冊の本を持ちエルフの里を出て行った女性が1人います」

 3冊のうち2冊の本はエルフの里に数冊あるもの、もう1冊はたった1冊しかない貴重な禁書だ。

 ダンベルドは溜息をついた。


「本を探し取り戻すこと。それがヴィンセントが表側に来た理由です」

「確かに、ヴィンセント魔術師団長は20年ほど前に魔術師団に入りましたね」

 宰相が記憶を呼び起こす。

 あまりにも綺麗で中性的な顔に驚いたと。


「本は見つかったのか?」

 ジークハルトが長い足を組みながら頬杖をついた。

 聞きたいのはリリアーナの話だ。

 それまでは正直どうでもいいが、禁書がおそらく関係してくるのだろう。


「2冊は、エスト国のウィンチェスタ侯爵の元に」

 意外な人物の名前に全員が驚く。


「リリアーナがこの国に来た日、ヴィンセントは風の一族であるウィンチェスタ侯爵とこの国で会っていました。引き合わせたのは闇の一族であるスライゴ侯爵。正確にはスライゴ子息。……精霊の導きです」

 彼らは2冊の本を読んだのだとヴィンセントは感じたと言っていた。

 だが禁書は持っていないと思ったと言う。


「すでにその2冊の本はウィンチェスタ侯爵から返して頂いております」

 エルフ長ダンベルドがクリスを見る。

 建国祭の帰りにクリスが預かった小包の中身だと言うとクリスは驚いた顔をした。


「私が200年ほど前にこちらに来た理由は、ジーク様、あなたが産まれたからです」

「俺?」

 ジークハルトが頬杖を辞めて顔を上げる。


 ダンベルドはジークハルトを見つめながら1冊の本を取り出した。

 その本は創世記。

 エルフが書いた、エルフ側から見た、創世記だ。

 ドラゴニアス帝国の創世記を、裏側の世界から記録したものであり、書かれている内容の大筋は同じ。


「2代目ドラゴニアス皇帝だったアースハルト・ドラゴニアスは全ての竜を治める竜王でした」

 表側の皇帝陛下、裏側のエルフ長、そして竜王の3人が対等なのだとダンベルドは説明をする。


「長年空席だった竜王がお産まれになった。世界に何か動きがあるのだと。だからお側に参りました」

 黒髪は竜王の証。


「やはりジークハルトは竜王なのだな」

 皇帝陛下は、ジークハルトが幼い頃ドラゴンが(かしず)いた時からそうではないかと思っていた。

 そのまま確認する術もなく、200年経ってしまったが。


「それで?」

 聞きたい話はリリアーナの事だ。

 ジークハルトは再び頬杖をつきながらダンベルドに早く話せと催促する。


「昔、別の世界から1人の少女がドラゴンフラワーの丘に降り立ちました。彼女の名前はシズ。創世の女神です」

「別の世界?」

 クリスが首を傾げた。


 創世の女神シズが初代皇帝ドラゴニアスと結婚したのは創世記で語られている。

 そして2人の間に産まれたのが竜王アースハルト・ドラゴニアスだ。


 アースハルトを産んだ創世の女神シズは、世界を作り替えた。

 食べるものにも困るような荒地になってしまった世界を、水があり緑豊かな大地の世界に。


 ドラゴンを従えたアースハルトは、竜族がドラゴンより上位種族だと位置付けた。

 ドラゴンが新しい世界を壊すことがないように。

 創世記に書かれたのはここまでだ。


「創世の女神シズにかけられていた術と同じ術が、リリアーナにかけられています」

 ダンベルドは全員の顔を見渡しながら、落ち着いた口調で告げた。


「それはリリアーナが次の創世の女神という事か?」

 もらった情報を組み合わせるとそうなってしまう。

 皇帝陛下が尋ねると、ダンベルドは首を横に振った。


「わかりません」

 誰かが興味本位で術を試したのか、なるべくしてなったのか、現時点では判断がつかない。


「ただ、リリアーナの父親。彼が禁書を持っているのではないかと思っております」

 世界を変えろと言った父親。

 彼の願いは世界を作り変える事だろうか。


「黒い魔法陣から(ツル)が出ていて、リナの足から離れない。それが創世の女神と同じ術か?」

 ジークハルトが尋ねると、ダンベルドは頷いた。


「白いセカイで真っ白な少女が川を作り海を作り草原を作ったと。それはその本には書かれているのか?」

 ドラゴニアス帝国の創世記には書かれていない大地が作られた順番。

 エルフ側には書かれているのだろうか。


「白い髪の少女が光の特級魔術を使える創世の女神シズ。珠のようなものから青い川を作り、水が流れて海になったと記載されています」

 どうしてジーク様がご存じなのですか? とダンベルドが肩をすくめた。


「その本を読ませてもらえないでしょうか?」

 クリスはジークハルトの指示で初代ドラゴニアス皇帝の手記を宰相に頼んで読ませてもらった。

 だが、珠から出したという記述はなかった。

 エルフの創世記の方が詳しい事は間違いない。


「私と友になりましょう。友には特別に貸す事ができます。エルフは友にならないと融通がきかないのです」

 それがエルフのルールなのだとダンベルドは言う。


「読むのはこの4人とリリアーナのみ」

 もちろん口外は禁止。それでどうかと見渡す。

 4人は頷き同意した。


「荒地だった時に比べ、今の世界は作り変える必要を感じません。悪意のある誰かが世界を作り替えようとしているのであれば阻止したい。世界を護るエルフ長としてのお願いです。皇帝陛下、そして竜王。お力をお貸しください」

 エルフ長ダンベルドが頭を下げると、もちろんですと皇帝陛下、宰相も頭を下げた。


「創世の女神は世界を作ったあとどうなった?」

 リリアーナがもし世界を変えるために利用された場合、リリアーナはどうなるのか。

 世界など別にどうでもいい。

 護りたいのはリリアーナだけだ。

 ジークハルトはその本に書いてあるのか? と聞く。


「今も……この世界を護るためにお一人で『世界の果てのセカイ』で眠っておられます」

 ダンベルドは困った顔で微笑んだ。


「だから生贄か!」

 唸るようなジークハルトの声に、部屋の空気がピリピリと揺れる。


「そうです。だからこそ阻止したい。世界最強の竜王の力で」

 ダンベルドの言葉に、ジークハルトはギュッと手を握り締めた。


「リナは必ず護る」

 ジークハルトは奥歯をギリっと鳴らしながら唸るように呟いた。

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