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140.和食

「クリス兄様、今日夕飯いらないです。ごはん食べたいので」

 リリアーナが白米が入った箱を指差すとジークハルトが笑った。


「クリス、俺もいらん。リナの料理を食べる。食材を買いに行くか!」

 冒険者の姿なら自由に出かけ放題だ。

 どうせ帝宮内には着飾った国賓の王女達がウロウロしているのだ。

 会談に行くジークハルトに偶然会うために。


「白いごはんと味噌汁、魚? 玉子? ノリはどこかで買えるのか?」

 ジークハルトはリリアーナが食べたい物を覚えていてくれた。

 リリアーナが嬉しそうに微笑む。


「いってらっしゃいませ」

 クリスは諦めたように頭を下げた。


 選ばれなかった贈り物は皇帝陛下の元へ。

 食事は不要と料理長へ連絡。

 護衛の手配。

 クリスは溜息をついた。 


 Sランク冒険者ハルとスズになって帝宮の廊下を進む。


 帝宮内は異様な雰囲気だ。

 1人目の妃を決めたということは、2人目、3人目の妃もあり得るかもしれない。

 目に留まり、1人目よりも自分の方が良ければまだ正妃になるチャンスもある。

 着飾った王女達、その護衛。

 廊下はいつもよりも人が多く、狭くて歩きにくい。


 王女が茶髪のイケメン冒険者のハルを見て声をかけて来るが冒険者に礼儀は必要ない。

 適当にあしらって街へ出た。


「皇太子よりハルの方がカッコいいって言ってた」

 1人ではない。

 何人もの王女が冒険者ハルに群がり、その度に何! このちっちゃい女! という目で見られた。


 昨日はジークハルトの隣で、こんな色気がない女が? という視線が突き刺さり、今日はSランク冒険者ハルの隣で、こんな子のどこがいいの? と上から下まで確認される。

 昨日も今日も見下されているのだ。


「誰でもいいんだろう。金があれば」

 違いまーす。

 イケメンだからです!

 金も権力もあって顔がいい。

 独り占めでズルいですよ。

 リリアーナは心の中でツッコんだ。


「まずは魚か?」

 鮭は無かったのでアジっぽい魚を買い、卵も買った。

 豆腐やワカメはないので、味噌のけんちん汁にしよう。


 自分は足りるけれど、ジークハルトは足りないだろう。

 肉じゃがにする? トリと里芋? カボチャも煮る?


「どうしよう。いっぱい作りたい」

 和食祭りだ。

 リリアーナが呟くと、ジークハルトは好きなだけ作れと笑った。


「どれだけ作っても全部食べてやる」

 ジークハルトの言葉に、リリアーナは嬉しそうに笑った。


 ダン古書店から執務室へ戻り、急いで湯浴みをする。

 冒険者スズからリリアーナの姿に戻ると、髪も乾かさずにまず計量カップを魔術で作った。


 お米は2合。洗って水を測ってお鍋へ。

 お鍋でご飯を炊くのは初めてだけれど大丈夫だろうか。

 炊飯器以外は、キャンプの飯盒(はんごう)しか経験がない。

 うまく炊けると良いけれど。


 鰹節はカンナみたいな、箱っぽい物で削っているのをテレビで見たことがある。

 リリアーナは鰹節削り器も魔術で作った。


 見よう見真似で鰹節を削ると、ふわふわとした鰹節が出きた。

 お鍋で煮て綺麗な色の出汁を作る。

 煮物とけんちん汁は十分出来そうだ。


 出汁巻玉子は四角いフライパンが欲しい。

 でも今日はもう2つも魔術で作ってしまったので魔力不足になるかもしれない。

 仕方がないので丸いフライパンで頑張る。


 リリアーナは筋肉痛も忘れ、キッチンで楽しそうに料理を続けた。


 楽しそうなリリアーナを見てジークハルトもホッとする。


 昨日狙われた事はあまり気にしていないようだ。

 専属護衛は嫌だが、危険よりはマシだとはわかっている。

 でも自分より長い時間一緒にいる男など作りたくない。

 ずっと自分が隣にいたいが学園はさすがに無理だ。


「ほら、イヤーカフをつけ忘れている」

 冒険者の時は竜結石のイヤーカフは外すルール。

 あとの2つは湯浴みもつけっぱなしだ。

 鏡台に置きっぱなしだったイヤーカフをジークハルトがつけてくれた。


「髪くらい乾かせ。熱が出るぞ」

 優しく髪を拭かれ、新婚のような甘々な雰囲気にリリアーナは真っ赤になった。


「はい、アイスティー」

 煮物を作りながらリリアーナは2人分のアイスティーを入れた。

 キッチンの椅子に座ると、アイスティーからカランという音が響く。


「……リナ、護衛をつけるか?」

「どうして?」

 リリアーナは首を傾げた。


「昨日狙われただろう?」

 ジークハルトの言葉にリリアーナは驚いた。

 あれはやっぱり自分が狙われたのか。


「昨日はヴィンセントが弾いた」

 魔術が途中で弾けたので、どこも怪我をしなかった。


 ちょっと困らせてやろう程度のイタズラだと思っていたが、ヴィンセント魔術師団長が護ってくれていたのか。

 犯人も捕まえてくれて、浄化はよくわからないけれど何かしてくれた。

 転移も使えるし、やっぱりすごい人なんだ。


「私……魔術を習いたい。自分で弾くのは無理かな?」

 護られているだけではダメだ。

 今回はたまたまフォード侯爵ではなかった。

 いつか来るあの人に怯えて生活するよりも、自分にできる事をやりたい。


「自分で……か」

 ジークハルトは少し考えてから、わかったと言ってくれた。


「護られるのではなく一緒に戦う女だったな」

 ジークハルトはニヤリと笑うと髪をかきあげ、頬杖をついた。

 その仕草にドキッとしてリリアーナは顔が赤くなる。

 慌てて立ち上がり鍋の煮物をかき混ぜた。


 アジっぽい魚は塩を振って焼く。

 ごはんは少し焦げたが、土鍋のおこげだと思えばセーフ。

 初めてにしては上出来だ。


 見事な和食にリリアーナは嬉しくなった。


 そうだ! 箸!


 でも今日はもう魔術は使えない。

 欲しいものがいっぱい出来てしまった。

 しゃもじ、箸、四角いフライパンだ。


「不思議な味だ」

 粘りも少しあって食感も変わっているとジークハルトが米を食べながら首を傾げた。


「パンよりも、こっちの方をよく食べていて」

 リリアーナが前世の話をサラッとしてもジークハルトは普通に聞いてくれる。


「これがミソシルか?」

「これは味噌のけんちん汁」

 難しいなと言いながらジークハルトは食べてくれる。


「これはどうやって食べる?」

 骨のある魚を食べたことがないジークハルトが魚を前に悩んだ。

 箸ではないので魚は食べにくい。


「えーっと、本当は箸で食べるんだけど、フォークだし、どうしよう?」

 リリアーナは皮を外し、フォークで器用に上の身をすくった。

 真ん中とお腹に骨があって、と説明するとジークハルトは器用に食べていく。


「味は塩だけか。さっぱりだな」

 そう言いながら綺麗に食べてくれた。


「リナは油が少ない食べ物が好きみたいだな」

 昼もサラダを喜んでいたとジークハルトは言う。


「竜族は肉が多い。リナには食べにくかったな、すまない」

 普段あまり食べないと思っていたが、これほど味に差があるのなら帝宮の料理は食べにくかっただろう。

 学園のランチで魚を喜んだのも納得だ。


「お肉も好きだよ。唐揚げとか」

 だから大丈夫と言うと、ジークハルトは優しく微笑んだ。

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