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130/259

130.郵便番号

 この世界には大陸が4つと世界の裏側。

 裏側はちょっと置いておいて、大陸4つをまず間違えなければいい。


「例えば、ノース大陸が1、ウエスト大陸が2、サウス大陸が3、イースト大陸が4ってするでしょ」

 宰相室の地図の前で、ジークハルトに抱き上げられながらリリアーナは指差した。


「クリス、記録!」

「書いてます」

 ジークハルトの指示の前にすでに書き始めているクリスは優秀だ。

 宰相はとりあえず椅子に座ったままジークハルト、レオンハルト、リリアーナのやり取りを眺めた。


「えーっと、1番国の多い所……」

「ウエストかな」

 レオンハルトがウエスト大陸を指差す。

 ウエスト大陸でも国は50個なさそうだ。


「じゃあ、ドラゴニアス帝国を10にして……ノース大陸のドラゴニアス帝国は1-10」

 そこまで言うと、その場の全員がリリアーナの意図を察する。


「ほう」

 宰相が片方の眉毛を上げて立ち上がった。

 ドラゴニアス帝国の最近できたばかりの地図を広げる。


「帝都を1にして、1-10-1と書けば良いのか?」

 宰相が帝宮を指差しながらリリアーナに尋ねる。


「できれば100とか3桁が良いです」

 リリアーナは、んー。と考えながら言った。


「どうして数字だ?」

 ジークハルトがリリアーナの顔を覗き込む。


「文字に自信がない人でも数字ならわかるでしょ? あとはいつか魔道具で自動読み取りする時に、数字だけの方が楽だから」

 リリアーナが首をコテンと傾けて答えると、全員が目を見開いた。


 確かに全員に最低限の教育をしているが、文字を使わない生活の者は忘れていく。

 数字であれば生活に直結しているためわからない者は少ない。

 他国の者でも数字だけならわかると言う者は多い。


 誤配送を減らし、貧しい者の雇用まで確保か。

 宰相はアゴに手を当てリリアーナを見た。

 ドラゴニアス帝国を1とせず10、帝都を100と言ったのにも理由があるはずだ。


「なぜドラゴニアス帝国を10に?」

「ほとんどの人は最初の大陸がいらないので区別がつくように2桁に。ドラゴニアス帝国の人同士は地域だけでいいので3桁だけ書けば良いと思って」


 商人以外は難しい事は覚えず、帝都に送りたければ100と書くだけであとは今まで通り。

 それだけで早く届くなら嫌がらずに書くだろう。


「すごっ」

 レオンハルトがリリアーナを見ると、どうかな? とリリアーナは微笑んだ。


「議会で提案されると良いでしょう。レオンハルト殿下の提案でよろしいですか?」

 早速、来週の議会で提案しましょうと宰相が言う。


「商業ギルドの範囲だからレオだな」

 ジークハルトもレオンハルトを見る。


「でもリリーの案なのに」

「レオにお任せ」

 リリアーナが少しおねだりする様に言うと、ジークハルトに目を塞がれてしまった。


「リナ、浮気はダメだ」

「な、なんで、浮、、、」

「甘えるのは俺にだけだ。他の男はダメだ」

 独占欲が強すぎるジークハルトに宰相もクリスも呆れて溜息をついた。


 翌週、議会であっさり承認され、荷物には地域番号が付与される事になった。

 誤配送も減り、仕分けも早くなった。

 ドラゴニアス帝国が決めた各国の番号はすぐに通知され、世界中で使用され始める。

 各国でも画期的な方法だと賞賛され、すぐに浸透して行った。


「……こんな事を考えるのはお前くらいだろう?」

 エスト国の王宮でフレディリックは、リリアーナの腕輪を眺めながらつぶやいた。


 国に番号を振るなんて、思いつくのはお前くらいだ。

 エスト国は4-25、ドラゴニアス帝国は1-10。

 ……遠いな……。


 だが、元気そうでよかった。


 ウィンチェスタはもうドラゴニアス帝国に着いただろうか。

 会うことはできただろうか。

 追いかけて行けるウィンチェスタが羨ましい。

 

 王太子の身分がなくなったら、国を出てドラゴニアス帝国へ行こうと思っていた。

 見事にリリアーナに阻止されてしまったが。


 会いたい。


 フレディリックは、リリアーナの腕輪を服の中へしまうと、ケースに飾ったドラゴンの卵の殻を眺めながら眠りについた。



 リリアーナは執務室のソファーに埋もれながらぼんやりと窓の外を眺めていた。

 ノアールにもらった腕輪は赤ライン。

 魔力を吸い取る方だ。


 今日は朝から魔力酔いで起き上がる事ができなかったが、ノアールの腕輪のお陰でようやくソファーに座れる状態になった。


 クリスが書類を仕分けしながらリリアーナを見る。

 体調はだいぶ悪そうだ。

 青白い顔でソファーにもたれかかっているが、ベッドで横になっていた方が良いのではないだろうか。


「……会いたかった……けど、会いたくなかった……」

 無意識なのだろう。

 腕輪を撫でながらリリアーナの感情が口から出ている。

 クリスはしっかり聴こえているが、聴こえていないフリをしようと決めた。


「……ジーク……」

 窓の外では騎士団が演習中だ。

 ジークハルトもメラスに乗って参加している。

 リリアーナが座っている所から見えるのだろう。


「……ごめんなさい……」

 リリアーナが小さな声でつぶやいた。


 は?

 ごめんなさい?

 クリスが慌てて振り返る。

 リリアーナはジークハルトにもらった指輪を触っていた。


 ごめんなさいとは?

 クリスがソファーへ近づく。

 リリアーナはクリスに気づき、窓から執務室の方へ顔を向けた。


「……ドラゴンのジークに会いたい」

 意味のわからない言葉にクリスが驚く。


「ジーク様のドラゴンはメラスでしょう?」

 今、外を飛んでいませんか? とクリスが言うと、リリアーナが首を横に振った。


「メラスはねツヤツヤの黒なの。ジークは漆黒。大きくてね、かっこいいの」

 リリアーナの目はぼんやりとしている。

 起きているように見えるが、体調が悪く、うわ言の状態なのかもしれない。


「暖かくて、お日様みたいで、良い匂いで、優しくて、強くて、……困る」

 言い終わると同時にリリアーナは目を閉じた。


 漆黒とは? お日様とは?

 クリスは聞き返そうと思ったが、聞くことはできなかった。


 リリアーナから規則正しい呼吸が聞こえてくる。

 クリスはソファーにもたれかかっていたリリアーナの身体をソファーに横たわらせた。

 小さな身体にブランケットを掛けると、リリアーナはうずくまりさらに小さくなる。


「リナは寝たのか」

 演習を終えたジークハルトが執務室へ戻り、書類に目を通していたクリスに声をかけた。

 ソファーの上の小さなリリアーナをブランケットごと抱き上げる。


「ドラゴンのジーク様に会いたいと」

 クリスが寝室の扉を開けながらジークハルトに伝えると、ジークハルトの足が止まった。


 夢で会いたいとは可愛い事を言う。

 ジークハルトは嬉しそうに口の端を上げた。


「……そうか」

 再び歩き、リリアーナをベッドへ寝かせる。

 前髪を横に退け、おでこへ口づけすると頭を優しく撫でた。


「俺もリナに会いたい」

 本当はこのまま一緒に眠りたいが、今日はこの後まだ公務がある。

 書類もまだ目を通していない。


「クリス、サボっていいか?」

「ダメです!」

 ダメだとわかっていながら聞いてみたが、即却下だった。


 この前、仲直りできたのもクリスのおかげだ。

 あまり困らせるのはやめておこう。


「冗談だ」

 ジークハルトは寝室の扉を静かに閉め、執務室へ戻っていった。

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