表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/259

118.自覚

 建国祭で謎だった2人とリリアーナの関係性がようやく見えた。

 ウィンチェスタ侯爵も面識がなく、なぜリリアーナがあんな目にあったのかわからないと言っていたが。

 前の世界からの因縁か。


「他には?」

 前、話さなかった事は? と、耳元で優しく囁かれる。


 なんだかズルい。

 いつも何でも聞き出されている気がする。

 リリアーナはジークハルトの肩に顔を埋めた。


「……正直に話さないと襲うぞ」

 甘く囁かれるのに、絶対に単語がおかしい。

 リリアーナは首を横に振った。


「いつから記憶があるんだ?」

 ジークハルトはリリアーナの耳をペロリと舐めた。

 耳たぶを甘噛みされ、吐息がかかる。


「ず、ずっと」

 色気のありすぎる吐息に悩殺寸前だ。


「死んで目覚めたらこの世界だったのか?」

「前の世界とこの世界の間には『白い世界』が」

 段々降りていくジークハルトの唇がリリアーナの首筋を刺激する。


「白い世界?」

 腰をグイと引き寄せられ、鎖骨の下にも赤い痕がつけられた。

 チリッとした痛みがリリアーナを襲う。

 ジークハルトを両手で押してみるが、びくともしない。


「真っ白な所に、真っ白な女の子がいて、川とか海を作って、草が生えて、動物が出て、人が出て……ひゃっ」

 ジークハルトはリリアーナの寝間着の一番上のボタンを器用に口で外し、まだ赤い痕がない部分をペロリと舐めた。

 あと2つくらいボタンが外されたら、リリアーナのささやかな胸が見えてしまう。


「だ、ダメです!」

 リリアーナは真っ赤な顔でジークハルトを押した。


「どんな姿だった? 白い女」

「えっと、巫女さんみたいな、あ、えっと、(はかま)じゃわからないし、えっと」

「変わった服か?」

 リリアーナが頷くとジークハルトはそうか。と呟いた。


 答えたのにどうして終わらないの?

 ジークハルトはリリアーナの白い肌に吸い付いた。

 赤い痕がくっきりとつく。


「前の世界には兄妹はいたのか?」

「いないです。親も。1人でした」

 だから朝の支度も一人で出来るのか。

 令嬢が自分で準備するなどあり得ないというのに。

 父親に(ないがし)ろにされたせいでやらざるを得なかったのだと思っていたが、前の世界でやっていたから問題なくできてしまったのだ。

 ずっと。小さい頃から。


「とりあえず、敬語禁止」

 全然甘えて来ないので遠慮しているのだと思っていたが、きっと甘え方を知らないのだ。

 それならば、ドロドロに甘やかしてやるだけだ。

 ジークハルトは金の眼を細めて笑った。


「ジークだ。呼んでみろ」

 『様』も禁止だと言われ、リリアーナは困った。


「む……無理」

 そんなの無理でしょ。

 大国の皇太子にタメ口、敬称なしは無理!

 リリアーナは全力で首を左右に振った。


「呼ばないと今から抱くぞ」

 甘く囁かれる単語が絶対に! 絶対に! おかしい!


「……ジーク……さま」

 無理! リリアーナは涙目になった。


 捕食者のような金の眼がリリアーナを見つめる。

 早く呼んでみろと圧力がすごい。

 敬称なしは無理ムリむり!


 少しの沈黙の後、先に動いたのはジークハルトだった。

 リリアーナの寝間着の2つ目のボタンを口に咥えると、ニヤリと笑う。


「~~ジーク」

 リリアーナは涙目になりながら真っ赤な顔で訴える。

 その表情に満足したのか、ジークハルトはリリアーナの唇を軽くペロリと舐めるとようやくリリアーナを解放した。


 リリアーナを自分の隣に座らせ、アイスティーを手に取り、優雅に飲む。

 リリアーナは自分だけがドキドキしているようで、少し悔しかった。


「好きな食べ物は何だ? 何が食べたい?」

 この世界にないものでもいいぞとジークハルトはブドウを1粒取ると、リリアーナの口に突っ込んだ。


 ないものでも良いのなら……。

 リリアーナはチラッとジークハルトを見た。

 絶対にわからないものだと思うけど。


「白いごはんと豆腐のお味噌汁と焼き鮭と出汁巻き玉子。パリパリの海苔もついていたら嬉しい」

 この世界に来てからずっと食べたかった。

 和食の朝食。

 パンしかないので無理だけれども。


「うまいのか?」

 もう1粒ブドウを突っ込まれながらリリアーナは頷いた。


「行ってみたい所は?」

 これもきっと前世を含んで良いのだろう。

 リリアーナは行けなかったウユニ塩湖と答えた。

 この世界と違って空が青い事も説明し、空と湖の境界がない景色だと言うと不思議そうな顔をされた。


「……どんな男が好みだ?」

 食べ物、行きたい所からの飛躍。

 突然すぎてリリアーナはアイスティーを吹き出しそうになった。


「……内緒」

 リリアーナは頬をぷくっと膨らませた。

 さっきから自分だけがドキドキさせられているのだ。

 少しくらい反撃したい。


「そうか」

 もっと食らいつくかと思ったら、意外にもあっさり終わってしまった。

 冷たくてもアールグレイのいい香りがカップから広がる。

 さすが高級茶葉!


「やりたい事は?」

 これもきっと何でも良いのだろう。


「料理」

 別邸のように時々でいいので何か作りたい。


「欲しいものは?」

 リリアーナは首を横に振った。

 もう十分、たくさんいろいろもらっている。

 もらいすぎている。


「……守られるのと、一緒に戦うのはどっちがいい?」

 また変な質問が来た。


「戦う……かな」

 戦えないけれど。

 守られると言うことは自分だけは安全で、周りを危険に晒すという事だ。


「そうか」

 これもあっさりと終わってしまい、質問の意図はわからない。


「この世界の事で聞きたい事は?」

 ジークハルトはブドウを自分の口に放り込みながら長い足を組んだ。

 ソファーの背もたれに背中を付け、髪をかき上げる。

 絶対王者の雰囲気、威厳がある風貌、色気がありすぎる仕草。

 大国の皇太子がこれではズルくないだろうか。

 どんな国の王子も敵わない。

 ハーレムを作り放題だ。


「ないのか?」

 リリアーナは聞くかどうか迷ってしまった。

 『寿命』について。

 ジークハルトはどう思っているのだろうか。

 リリアーナはティーカップをじっと見つめた。


「前は……人だけでした。この世界はどうして種族が……」

 どうして寿命が違うのでしょうか。

 そこまでは辿り着けなかった。

 なんとなく答えを聞きたくなかったからだ。


 敬語! と怒られながら、ジークハルトは創世記を読めと教えてくれた。

 簡単に言ってしまえば食糧問題だが、創世記にはもう少し詳しく書かれていると言う。

 子供用ではなく最低でも12年生が読むもの、できればもっと研究者用のものが良いと。

 以前図書室で借りた本は子供用だ。

 リリアーナの持っている『金色のドラゴン』より少し詳しく書かれていたが物語の要素が強い。


 ジークハルトは組んでいた長い足を下ろし、隣に座るリリアーナの顔を下から覗き込んだ。


「愛していると、ずっと一緒だと約束したはずだが足りないか?」

 綺麗な金の眼が真っ直ぐにリリアーナの黒い眼を見つめる。

 リリアーナの右手の上にジークハルトは手を重ねた。


「何があれば安心する? どうしたら俺を好きになる?」

 その言葉にリリアーナは驚いた。

 いつも自信があって、何でもできて、強くて、威厳があって、強引で、何でも望みが叶いそうな人なのに。


『先に逝く者と、残される者。どちらも辛いね』

 ふいにスライゴの言葉を思い出す。


 ジークハルトは寿命も全てわかった上でプロポーズしてくれたのだ。

 あの日、ドラゴンフラワーの丘で。


 それなのに自分だけが不安だと、自分だけが悩んでいると思っていた。

 全部受け止めてくれるのだ。

 前世も含めて全て。


 あぁ、ダメだ。

 この人が好きだ。


 リリアーナの黒い眼から涙が流れた。


 なんとなく気づいていた。

 でも認めたくなかった。

 好きだと認めたら離れたくなくなるから。

 あまりにも違いすぎる寿命もショックだった。

 自分だけすぐに年を取って、捨てられてしまうのではないかと。

 すぐに違う女の人の所へ行ってしまうのではないかと。


 ジークハルトはリリアーナを下から覗き込んだまま触れるだけの口づけをした。

 泣くなと慰めているかのようだ。


 ジークハルトが好きだ。


 その想いは告げられないままリリアーナはジークハルトの胸に顔を埋めた。

 抱き寄せられ、いつものように膝の上へ。


 時計の針はすでにいつもの寝る時間よりも3時間ほど遅い深夜1時。

 ジークハルトのお日様のような香りに包まれながらリリアーナはいつの間にか眠ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ