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114/259

114.年齢差

 何歳だったか覚えがない。

 父と叔父に連れられて初めてドラゴン厩舎に行った日だ。


 1番大きな岩の横にその黒竜は座っていた。


 まだ若く獰猛(どうもう)で、誰も触れることができない孤高(ここう)の黒竜。


 黒く威厳のあるその姿を綺麗だと思った。

 触れてみたいと。


 叔父の静止も聞かずに黒竜へ近づいた。

 数秒だろうか、数分だろうか。

 金の眼で見つめ合うと、黒竜が頭を触らせてくれた。


 その頃から周りが自分に対して怯えている雰囲気を感じ始めた。

 宰相の息子クリスだけは今までと変わらず、一緒に本を読んだり絵を描いたりしたが、他の者は段々離れていった。


 ジークハルトを怒らせてはいけない。

 竜の血が濃く、黒髪の先祖返りだ。

 ドラゴンを操り攻撃される。


 黒竜に合わせて、その場にいたすべてのドラゴンが頭を下げたのだと聞かされたのは学園へ入る頃だった。

 みんなが避けていったが、叔父は気にするなと言った。

 いつかわかってくれるからと。


 冒険者をしていた強くてたくましい叔父に憧れ、剣を教わる様になった。

 その叔父を追い越したのは何歳だったか。


『……普通じゃないから』

 リリアーナは泣きながらそう言った。


 『普通』とは?


 みんなと一緒?

 目立たない事?

 普通であることに何か意味があるのか?


 普通だとか普通じゃないとか、そんなものはどうでもいい。

 俺の『つがい』は1人だけだ。


 ジークハルトは隣で眠るリリアーナの頭に口づけを落とす。

 おでこに、まぶたに、頬に、口に。

 抱きしめて耳元で愛の言葉を囁いた。


 明日は笑ってくれるだろうか。

 泣かずに過ごせるだろうか。


 ジークハルトはリリアーナを抱きしめながらゆっくりと目を閉じた。



 暖かくて良い匂い。

 まぶたをゆっくり開けると、目の前には引き締まった腹筋。

 今日はいつもよりだいぶ下の方にしがみついて眠ってしまったようだ。


 良かった。

 隣に居てくれた。

 リリアーナは安心して再び目を閉じた。


「リナ、遅刻するぞ」

 低いけれど心地よい声で一気に目が覚める。


「え? ち、遅刻? 嘘!」

 時計を見るといつもより30分も遅い。

 朝の30分は大ピンチだ。


 急いで顔を洗い、身支度を整える。

 ボサボサの髪は最低限の櫛のみ。

 あとで馬車の中で三つ編みにでもして誤魔化そう。

 慌てて準備している途中で、ベッドの上のジークハルトと目が合った。


 ジークハルトはズボンは履いているがシャツは羽織っただけ。

 前がはだけた状態だ。

 ベッドの上で立たせた片膝に肘を突きながらリリアーナを見ている。

 朝から色気ダダ漏れのジークハルトに思わずリリアーナの顔が赤くなった。


 白いローブを羽織り、カバンを持つ。

 急いで出ようとした所でジークハルトに抱き上げられた。


「おはようございます。お嬢様」

 隣の部屋では侍女のミナが朝食を馬車で食べられるように準備してくれていた。

 包みを手渡され、ジークハルトの抱っこのまま廊下を進む。

 階段を降り、馬車へ乗せられると触れるだけの口づけが降りてきた。


「朝からイチャイチャやめろよ」

 先に馬車に乗っていたラインハルトが真っ赤な顔を横へ背けた。


「おはようライ」

 ごめんねと言いながらリリアーナは椅子に座る。

 走り出した馬車の中でリリアーナは朝ごはんを広げた。

 ミナが食べやすいように具をパンに挟んでくれたのだ。


「イチャイチャしていたから朝ごはんも食べれなかったって事?」

 ラインハルトがニヤニヤと揶揄(からか)ってくる。


「ちっ、違っ、寝坊して」

 パンが喉に詰まりそうになったリリアーナが胸をボンボンと叩く。


「じゃあ夜にイチャイチャしてたから寝坊したって事?」

 はぁー、ヤダヤダ。とラインハルトがまた揶揄(からか)う。


「ちっ、違っ、夜はメラスの所に行っちゃうから、寝るときは」

「メラスはジーク兄しか触れないもんね~」

 夜に世話してるの知ってるよ。と会話を被せるようにラインハルトが言う。


「え? メラス触らせてくれたよ? 目の下? ほっぺの辺り」

 リリアーナが自分の頬でこの辺~と説明するとラインハルトはマジかよと小声で呟いた。


「そういえばライは何色のドラゴン?」

 リリアーナはパンを頬張りながら気軽に尋ねる。


「100歳まで乗れるわけないじゃん」

 再び喉にパンが詰まりそうになったリリアーナはドンドンと胸を叩いて必死で飲み込んだ。


「ひゃ、100歳?」

 ちょっと待って。

 100歳って何?

 一生乗れないよって皮肉?

 え? どういう事?


「ねぇ、ライって、今、何歳?」

 リリアーナは恐る恐るラインハルトに質問した。


「82歳だけど?」

 あっさりと答えられるあり得ない年齢にリリアーナは目を見開く。


「82……?」

 82歳って? え? ちょっと待って。

 ラインハルトの事、年下だと思っていたけど82って?

 数え方が違う? 82年?


 確かに『金色のドラゴン』の本ではドラゴンの寿命は1000年って。

 いや大人になってから1000年だったからもっと長いって事?

 でも竜族もドラゴンと同じ寿命なの?


「……ごめんライ。年下だと思ってた」

「え? 今さら?」

 顔面蒼白のリリアーナを見たラインハルトの笑い声が馬車の中に響き渡った。


 竜族は100歳でドラゴンに乗る練習を始め、150歳の成人する頃にはパートナーとなるドラゴンを決めるそうだ。

 すぐに見つかる場合もあれば、なかなか巡り会えない事もあるのだとか。


 見つからない場合やドラゴンを必要としない生活の人は、優しい灰竜に乗せてもらうのが一般的だと言う。


「ジーク兄とメラスはかなり異例で、5歳頃にはパートナーだったらしいよ」

 すっごい珍しいんだから! とラインハルトが教えてくれた。


 ジークハルトは208歳。

 レオンハルトは143歳。

 クリスは207歳だそうだ。


 ジークハルトとは身長差だけでなく、年齢差もありすぎる。

 結局、驚きすぎて馬車ではほとんど食べる事ができないまま学園へ到着してしまった。


「じゃねー。リリー」

「あ、うん。またねライ」

 手を振ってラインハルトと別れる。


 ジークハルトは大人だと思っていたが、まさか年齢が190歳以上離れているなんて。

 それよりもジークハルトはずっと若いのに、私だけあっという間におばあちゃん!


 嘘でしょ……。

 リリアーナはギュッとカバンの紐を握りしめて真っ白な空を見上げた。

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