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102.ドラゴンフラワー

 人にぶつからないようにジークハルトがリリアーナの肩を引き寄せながら街を歩いていく。


「ライはタメ口なのに何で俺は敬語だ」

「だってライは子供だから……」

 背丈は同じくらいだったが、ライは子供扱いか。


「俺は?」

 ジークハルトが歩きながらリリアーナの顔を覗き込むと、一気に顔が赤くなった。


 黒髪で後ろ髪が長いジークハルトは少し怖めのお兄さん。

 茶髪の冒険者ハルはチャラい大学生。

 どちらも金眼は同じなのだがかなり印象が違う。

 別人と歩いているようでドキドキする。

 どうしよう。

 これこそ浮気しているっぽい。


 街を進み20分くらい歩くと草原へ出た。

 ここが1番近い草原らしい。

 薬草の種類によって生えている場所は違うが、Gランク程度の依頼であれば、ほとんどこの草原に生えているそうだ。

 ジークハルトが今日集める薬草の見本を1つ取ってくれる。


「オオバコ?」

 前世で道端に普通に生えていたやつ。

 名前が違うのでわからなかったが、どう見てもオオバコ。

 これなら探せそうだ。


 確か日当たりのいい所に生えているはず。

 30本集めるという依頼だったが少し多めに取ると良いと教えてくれたので結局40本集め、袋に入れた。


「どうして生えている場所がわかった?」

「日当たりのいい所に生えるので背が高い草のない所に行ったらあっただけですよ?」

 また敬語! と注意される。

 なかなか難しい。


「どうして日当たりのいい場所だと?」

「見本を取ってくれた時、葉っぱが地面の近くに広がっていたから」

 中学校の理科で確か習った気がするが、こんな所で役に立つとは。

 もっと真面目に勉強しておけばよかった!


「すごいな」

 褒められながら街を2人で歩く。

 何度もたくさんの人に2度見され、お姉様に睨まれ、かなり気まずい。

 だが、ジークハルトはリリアーナの肩から手を離さない。


 冒険者ギルドに戻り薬草とドッグタグを出すと、受付嬢は何度もジークハルトとリリアーナを見たあと完了手続きをした。


「金はここに入っている」

 ジークハルトがドッグタグを受け取りリリアーナにつける。

 つけたついでに頬にチュッと口づけをすると奥のカウンターから悲鳴が聞こえた。


「さぁ、街で遊ぶぞ」

 屋台で買い食いしたり、お店を覗いたり。

 まるでデートだ。

 人にぶつからないようにスマートに誘導され、好きそうなお店へ案内される。


 絶対モテるでしょ!

 絶対デートし慣れているでしょ!

 さりげなく扉を開けるとか! 椅子を引くとか!

 エスコートが当たり前のこの世界では普通の事なのだろうか?


「……傷薬?」

 薬局っぽいお店の入り口でリリアーナの足が止まった。

 そういえばエスト国で作った傷薬は置いて来てしまった。

 これから冒険者をするならあったほうがいいかもしれない。


「あぁ、傷薬だな。買っておくか?」

「これ、さっきの薬草のお金で買える?」

 リリアーナはドッグタグをジークハルトに見せた。


 買い物をしてみたいという気持ちを察してくれたのだろう。

 ジークハルトは傷薬を手に取るとレジへ。


「ここにドッグタグをかざして」

 言われたままやってみると、画面に何か数字が表示される。

 まさかのキャッシュレス決済!


 上の段がきっと傷薬の値段。

 下の段が残金だろう。

 真剣に画面を見ていたらジークハルトに笑われた。


 この世界で初めてお金を稼いで、自分で買い物をした。

 前の世界では当たり前だった買い物がようやくできたのだ。

 うれしい!

 リリアーナは傷薬を大事に握り締めた。


 次は古書店。

 中はあまり広くはないが上までびっしり本が入っている。

 あんなに高いところ、どうやって取るのだろうか?

 それよりもこの国には地震はないのだろうか?

 薄暗いお店をジークハルトは進み、奥の扉を勝手に開けた。


「おやおや。ジーク様」

 あれ? Sランク冒険者ハルの姿なのに、おじいさんはジークハルトだと知っているの?

 のんびりとお茶を飲んでいたおじいさんは立ち上がり、リリアーナの前へ。


「ようこそお嬢さん。お茶でも如何かな?」

 黒いフードを被ったおじいさんは古書店の店長というよりも魔術師のような雰囲気だ。


「また今度な。送れ」

 ジークハルトがリリアーナを抱き上げる。


「わっ」

 ハルの顔が近い。

 ジークハルトだとはわかっているが、髪の色も雰囲気も違うので恥ずかしい。


「年寄り使いが荒いですな」

 おじいさんは溜息をつくとダンッと足を鳴らした。


「……えっ? 何で?」

 古書店にいたはずなのに、どうして?

 リリアーナは驚いた。

 ここは寝室の隣のいつも食事をする部屋だ。


「転移だ。この姿で帝宮に入るのは無理だからな」

 ジークハルトはなんでもない事のように言う。


「て、転移!?」

 転移って、瞬間移動って事?

 一瞬だった。

 すごい、ドラゴニアス帝国。

 アニメの某ネコ型ロボットでさえドアを使うのに!

 何も道具がいらないなんて。


「さっきのジジイは前の魔術師団長だ。引退してあそこにいる」

 前魔術師団長すごい。

 引退したのにすごい。

 瞬間移動!


「洗えば元に戻るから湯浴みをしてこい」

 ジークハルトは感動しているリリアーナの頭をくしゃっと撫でた。


「それとも一緒に入るか?」

「だ、だ、大丈夫! 一人で大丈夫!」

 リリアーナは全力で否定し寝室へ逃げ込む。

 リリアーナの浴室は寝室の隣、ジークハルトの浴室は執務室の向こう側だ。


 髪は濡らすとすぐ元通りの黒い微妙なウェーブに。


 リリアーナは今日の出来事を侍女のミナに話した。

 ミナはお嬢様が働くなんて! お金を払うなんて! と大騒ぎだ。


「すっごく楽しかったの」

 リリアーナが微笑むと、ミナはお嬢様らしいですねと笑った。

 幼い頃からずっと街へも行かずお茶会にも参加せずに生活してきたお嬢様。

 自由に外を歩いたのは2、3回しかない。

 今日の出来事を一生懸命教えてくれるリリアーナの姿が、侍女のミナにはとてもうれしかった。


 買った傷薬にはジークハルトがいないうちにこっそり治癒を付与した。

 ノアールといる時は、初級や中級に分けていたが、今は調節するものがないので適当に。


『治りますように』


 ただそれだけ唱えた。

 効果はわからない。

 初級かもしれないが確認できないし、傷薬の元の効果がなくなるわけではないので気にせず学園のカバンに突っ込んだ。


「リナ、着替えたか? 出かけるぞ」

 いつもの黒髪のジークハルトだ。

 後ろ髪がちゃんとある。


「え? どこに?」

 窓の外はもう暗い。

 今から外出? とリリアーナは首を傾げた。


 ジークハルトはリリアーナを抱っこし執務室まで運ぶと、フードを被った人の前で降ろした。

 黒いローブはさっきのおじいさんの服と似ている。


 リリアーナが見上げると、黒いローブの人はゆっくりとフードを取った。

 綺麗な長いストレートの金髪がフードの中から現れる。

 中性的な顔立ちは整いすぎだ。

 美女、美青年どちらと言われても納得できる。

 耳はとがっている。

 まるでアニメのエルフのように。


 ……エルフ?


 美しく若々しい中性的な外見を持ち、耳はとがっている。

 これ以上エルフにぴったりな容姿はない。

 リリアーナは目を見開いた。


「魔術師団長のヴィンセントだ」

 今の魔術師団長さん!

 だからおじいさんと似ている服なのだろうか。


「リリアーナです」

 リリアーナは慌ててスカートを掴み、お辞儀した。


 ジークハルトはリリアーナを再び抱き上げると、ヴィンセントに顔で合図した。


「……えっ?」

 一瞬で外に移動し、リリアーナは驚いて思わず声を出した。

 また瞬間移動!


 一面に光る花が咲いている。

 下からスポットライトのように光る花は幻想的で、風に揺れた花々は現実離れした雰囲気だ。


「……きれい……」

 下に降ろされるとリリアーナはしゃがみ込んだ。


「それはドラゴンフラワーだ。夜だけ光る」

 どういう仕組みなのだろうか。

 近くで見ると青い尖った5枚の花びらだ。

 中心から光が出ていて不思議すぎる。


 リリアーナは1冊の本を思い出した。


『青白く光る花が一面に咲く丘で、金色のドラゴンはつがいと出会った』


 金色のドラゴンの第2話だ。

 きっとこの花が本に出てきた花。


「光る花……」

 リリアーナは不思議な花を触りながら呟いた。

毎日読んでくださっている方、ありがとうございますm(_ _)m

イッキ読みしてくださっている方もありがとうございます。


ドラゴンフラワーのイメージは桔梗(キキョウ)です。

花言葉は「永遠の愛」。星形の花です(^^)

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