メッセージ占い
以前、自分でもタロットカードをやっていました。
「裕典~、フニャニャンが居なっちゃたの~」
教室に飛び込んできた光子は半泣き状態でオカルト小説を読んでいる幼馴染の裕典に縋り付いた。
「フニャニャンって、光子の飼っている猫だよな」
子猫の頃に捨てられていたのを拾いフニャニャンと名付け、それはそれは可愛がって育てて、今や家族も同然。
今の光子は彼氏を見失った少女のよう。かくいう裕典もフニャニャンを可愛がっているが。
「裕典、タロットカード持っていたよね。フニャニャンのどこにいるか占ってちょうだい」
「そんなこと言われても趣味で持っているだけだし、プロ並みの占いなんて出来ないよ」
光子の気持ちは解るが、こればかりは仕方がない。遊び程度の占いならまだしも、迷い猫探しの占いの結果に自信も責任も持てない。もし占いで出た場所にフニャニャンがいなかったら、光子を尚更悲しませてしまう。
「解った、それならばプロに頼むまでよ」
光子はスマホを取り出し、何やら検索を始める。
「これよ!」
見つけ出したのは占い師のサイト。
「失せ物専門のメッセージ占い師千喜院、その発見率は100%! SNSの評判もいいい。しかも、お店は近所じゃない」
画面を見せてくる。
「……」
確かに評価も高いし、いいねの数も多い。画面をじっと見て、何やら考えている裕典。
「この人に頼んでみようよ、裕典」
しきりに誘ってくる。放ってはほけないので、
「でも、行く時には僕も一緒に行くから」
「最初から、そのつもりよ」
放課後に予約を入れておく。
放課後、店に向かいながら裕典はスマホでメッセージ占い師千喜院のことを調べてみる。
『メッセージ占い。祈ることにより、体にお告げの文字が浮かび上る』
光子は、どうかフニャニャンが見つかってくれますように祈っている。どれだけ期待しているのか、見ているだけでも伝わってくる。
千喜院がどんな奴なのか、直接見て判断してみる。
店の前に来た裕典と光子、看板には書いてある文字はメッセージ占い千喜院。
裕典と光子が店に入ろうとすると、
「おじきの形見の品が見つかった。感謝するぜ、占い師の先生」
二人の子分を連れた、見ただけでその筋の人と解る男が店から出てきた。迎えに来た車はセンチュリー。
光子はびびり、裕典は少しびびりながらも女の子の手前、平然を装い店に入る。
「予約していた光子です」
とりあえずは挨拶。無言で裕典は千喜院を観察。
黒いローブ姿のいかにも占い師と言った出で立ちちの初老の女性。
「今日、ここへ来たのは―」
来店の目的を話そうとしたところ、千喜院は右手を前に出して制する。
「言わなくも解っております」
この時、裕典の視線はローブの袖の中に向けられていた。
「あなたの大切な家族である猫の居場所を知りたいのですね」
話す前に来店の目的を言い当てられ、素直に光子は凄いと感心。
「少し、お待ちください」
部屋の奥に行き、三分ほどで戻ってきた。
「では始めます」
と言うなり千喜院は蹲り、何か呪文を唱え始め、小刻みに震えだす。
ドキドキしながら見ている光子、黙って見ている裕典。
突然、起き上がった千喜院に光子はビビる、少々だけど。
ローブの裾を捲る千喜院、その太ももには蚯蚓腫れの文字が浮かび上がっているではないか。
蚯蚓腫れの文字を読む。
「そこ、お父さんの会社の倉庫だ」
蚯蚓腫れの文字は光子の良く知る場所。
「早く行こうよ、裕典」
いてもたってもいらない様子の光子、それほどにフニャニャンのことが心配なんだろう。
「うん、解った」
即決で了承する。
「ありがとうございます」
お礼を言って料金を光子は払う。学生の懐には痛い額だが、会社経営者の娘には出せる額。
フニャニャンを見つけるまでは、黙っていることにした裕典。何より優先するのはフニャニャンが無事なこと。
歩いても行ける距離なので、裕典と光子は急ぐ。
社長の娘であることから、すぐに管理者は倉庫の鍵を開けてくれた。
「フニャニャン、フニャニャン」
管理者と一緒に倉庫に入った光子は名前を呼ぶ。
入り口のところで立ち止まった裕典は鍵穴を調べていた。
「ふにゃん~ふにゃん~」
荷物の影から、ふらふらと猫が出てくる。
「フニャニャン!」
光子は駆け寄り、フニャニャンを抱き上げた。
「ふにゃふにゃ~ん」
力はないが、嬉しそうに鳴くフニャニャン。
裕典も傍に来て、フニャニャンの様子を見る。
「少し元気がないみたいだ」
確かに元気がない、まずは動物病院に連れていることにする。
動物病院に駆け込み、緊急でフニャニャンを診てもらう。
「衰弱していますが、命には別状ありません。程よく栄養を摂取させ、十分に休息させてください」
命には別状がないと聞いて、光子はほっと胸を撫でおろす。何日も心配した分、安心の度合いも高い。
待合室でスマホで何かを調べている裕典にフニャニャンの命には別状がないことを告げると、我がことのように喜ぶ。
「本当に千喜院は凄いよね、お父さんにも話しておこう」
光子の父は朝のテレビでやっている星占いを気にするタイプ。
「そうだね。でも、その前に明日にでも千喜院のところへお礼を言いに行こう」
画面が見られないように、こっそりと消してことに光子は気か付かず。
医者に言われた通りに程よい栄養を摂取させ、十分に休息させると翌日にはフニャニャンは元気を取り戻した。
フニャニャンの回復を見届けた後、菓子折りを持って裕典と光子は千喜院の店へお礼に向かう。
「ありがとうございました。無事にフニャニャンが見つかりました。これはお礼です」
と菓子折りを差し出す。
「気にする必要はありませんよ、私は私の持っている力でやれることをやったまでですから」
と言いながら菓子折りを受け取る。
「うっ!」
突然、裕典が蹲る。
「どうしたの、裕典」
蹲り震えている裕典を心配して、オロオロ。いきなりの事態に千喜院も戸惑っている。
そんな最中、蹲った時と同じように突然、裕典は立ち上がり、
「実は僕も出来るんですよ、メッセージ占い」
袖を捲って見せる。左手首には“アンタハインチキ”と蚯蚓腫れで文字が浮き上がっていた。
「えっ、どうして裕典の手首に文字が? どうしてどうして」
裕典の手首を見て不思議がっている光子に、ばつが悪そうな顔をしている千喜院。
「そう、あんたの占いはインチキだよ」
どーんと言い放つ。
裕典の話した蚯蚓腫れの文字の絡繰り。それはつまようじのような尖った物で肌に文字を書き、その後に摩擦すると書いた文字が蚯蚓腫れになって浮き上がるというもの。
実際に裕典は“アンタハインチキ”の下に“ホラバレタ”の蚯蚓腫れ文字を浮かび上がらせて見せた。
「でも占い通りにお父さんの倉庫にフニャニャンがいたよ」
確かに倉庫にフニャニャンがいた。裕典も一緒に行ったから知っているはず。
「それはフニャニャンを盗んだんだよ。自分で盗んで倉庫に隠したんだ。倉庫の鍵穴を調べればピッキングの形跡が見つかると思うよ」
千喜院のローブに隠された右手を指さす。
「初めて来たとき、チラッと包帯が見えたんだ。もしかして、猫の引っかき傷があるんじゃないのかな? 無いというなら見せられるでしょ」
無意識に右手を隠した千喜院の仕草が裕典の指摘が正しいことを示す。
「私、高校生だよ。大した金は巻き上げられないよ」
光子の支払払った額は高校生にしては高い方だけど、詐欺師が騙し取る額にしてはそれほど高くはない。
「多分、本命は光子のお父さんだよ。まずは娘に信頼してもらい、繋ぎを取ってもらう。うまく行かなかった場合も考慮して、他の資産家の関係者にも同じようなことをしているんじゃないかな」
つまり資産家の関係者の大切なものを盗んで隠し、SNSで自分の評判を流して店に来させる。随分、回りくどいが詐欺は詐欺。
「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるてとこかな」
汗をかいているのに千喜院の顔色は悪い。汗は汗でも冷や汗。
素直に感心する光子。裕典は大好きなオカルト関連の事柄はあっさりと信じると思っていたのに。
嘘がバレた千喜院がニヤリと笑う。
「私にそんな口きいていいと思っているのかしら」
今更、何を言っているんだと光子は困惑。
「私には暴力団と繋がりがある。あいつらは私に恩があるから、頼めば聞いてくれるわよ」
そう言えば昨日、暴力団員が店に来ていた。やけに感謝していたと光子は記録している。
「なるほど、自分で盗んで見つけて恩を売ったわけですか」
あくまで冷静に話す裕典、怯えている様子は見えない。
「それが本当だとしても証拠は無いわよ」
さっきまでの青ざめた顔は何処へやら、今は勝ち誇った顔になっている。
暴力団と言った段階で脅迫罪になるのだが、光子は怯えいることには変わらない。
フニャニャンを拉致して閉じ込めたこと。最悪、死んでいた可能性だってある。そうなっていたら、どれ程光子が悲しんだことか。
今も、ここまで怯えさせている。きついお灸をすえる必要がある。自らの行った行為を後悔させるぐらいの。
「この間、ここに来ていた暴力団って〇△□組でしょ。地元の暴力団と言ったらあそこぐらいだだからね」
そうですと言わなくても目は口ほどに物を言う。目がそうですと言っている。
「そうだとしてどうなるのかしら。奴らが私に恩があることには変わらない。地元なのよ、呼べばすぐにでも駆けつけてくるわ」
その口調、自身の優勢は変わらなとの自信の表れ。
裕典はスマホを取り出した。
「あら、警察ても呼ぶつもり。呼んだところで証拠は無いわよ」
証拠は残していない。詐欺師だけあり、そんなところは抜かりなし。馬鹿にしたように鼻を鳴らす千喜院。
「実はこの店に入った時から、繋がっていたんだ〇△□組と。つまり、今までのやり取りはまる聞こえだったんだよ」
一瞬にして、再び顔が真っ青に。
「調べたら、すぐに電話番号が解ったんだ」
動物病院の待合室でスマホで調べていたのはこのため。
店の前に数台の車が止まる音がした。
「本当にすぐに来たね」
次々と熊のドアが開く音がして、沢山の人の足音が近づいてくる。
勢いよくドアが開き、見ただけでその筋の人と解る男が同じ職業と解る男たちと一緒に店に入って来る。
「よくも舐めた真似してくれたな」
開口一番、ドスの聞いた声。ドアは塞がれている、巻き込まれないように裕典と光子は部屋の隅へ。
「わわわ私の占いは、ほほ、本物で、子供がででデタラメをい言っているだけよよ」
震えながら、絞り出すように弁明するも、
「全部、聞かせてもらったんだよ。今更、騙されやしねぇんだよ」
前は騙されたよねとは裕典も光子も言えない、怖いから。
千喜院は捕まり、外へと連れ出されていく。裕典と光子に助けを求めるが応じず。これ以上は関わりたくないし、何よりも自業自得。
「世話になった、猫ちゃんを大切にしてやりなよ」
そう言い残し、店を出ようとした。
怖い顔の口から出た猫ちゃんと言うフレーズに、少しは優しいところもあるのかなと思いもしたが、
「ここで見て聞いたことは誰にも言うんじゃねぇぞ」
千喜院の時ほどドスは聞いていないが、パンチ力のある声で言い残して店から出て行く。
やはり、とっても怖い人だと再認識。
占いの店の一件の翌日。どこの街中でも見かけるバーガーバーガーショップ。
向かい合ってハンバーガーを食べる裕典と光子。
「裕典はオカルト好きだから、占いはすぐに信じると思っていたのだけど」
「オカルト好きだから、トリックの知識もあるんだよ」
千喜院が消えた。彼女がどこへ連れて行かれたのか詮索するほど、命知らずではない、裕典も光子も。
そのうち千喜院が消えたことが多少なりとも話題になるかもしれないが、いろんな噂が飛び回っているSNS。噂が流れたとしても、遠からず話題は別のものに変わるであろう。
「光子、そろそろ出ようか」
「うん」
ハンバーガーを食べ終えた裕典と光子はトレーを持って立ち上がり、ゴミ箱に包み紙や紙コップを捨ててトレーを重ね置き、バーガーショップを出て行く。
小学校の頃、腕が痒くなったのでつい鉛筆で掻いてしまい、黒くなったので慌ててて消しゴムで擦ったら、蚯蚓腫れになった。
そこでこのトリックに気が付き、悪戯でクラスメイトを脅かしたとこも。