年越しの瞬間にジャンプして、「俺、年越す瞬間この世界にいなかった~」ってやつ。
良いお年を!!
「おいおい、どうする!
もうすぐ年明けちゃうぞ!」
「やべー。まじやべー」
「すげー! あと三十分だぞ!」
男子大学生三人。
一人暮らしをしている一人のもとに集った同士。
初めての家族以外との年越し。
彼らのテンションはすでにマックスフィーバーパーリーナイだった。
二十歳になってお酒も入り、彼らを止めるものは何もなかった。
「どうする! 年越しの瞬間どうする!」
「やべー。まじやべー」
「すげー! 何か記録に、そして記憶に残すことしよーぜ!」
「「それな!」」
一人の提案に他の二人も賛同する。
酒とツマミで散らかった部屋。彼らだけのユートピア。
ノリとテンションが全てを支配する部屋で彼らは世界の主人公になっていた。
「え、どーするー? どーするよー?」
「やべー。まじやべー」
「そうだな~。カウントダウンなんかじゃ普通だしな~。それにプラスしてなんかしたいよな~」
「「それな!」」
実質的に提案者は一人だけのように思えるが、そんなことは彼らにとって些末な出来事に過ぎなかった。
「うわ! 悩んでるうちに歌合戦終わっちまったぞ!」
「やべー。まじやべー」
「すげー! 時間どんどん過ぎてくじゃん! 今年が去年になるじゃん!」
「「それな!」」
中身のない会話というものはかくも時間を食らうもので。
彼らの謎テンションによって今年というものがどんどん減っていっていた。
「おいおい、まじでどーするよ。
このままダラッと年越すのだけは勘弁な」
「やべー。それはまじやべー」
「そうだな~。皆で滅びの呪文を呟くとかどーよ?」
「やべー。まじやべー」
「……いや、待て。それをやると男三人で寂しく一緒に年越してるのがバレるぞ」
「……それはツラいな」
「……やべー。まじやべー」
現実に引き戻され、少しだけ平静を取り戻した三人であった。
「……どうするか。もう十分しかないぞ」
「……ここはあれだな」
「……おまえ、やべー以外を話す理性あったんだな」
事ここに至り、無駄に冷静になった三人が出した結論は……
「年越しの瞬間にジャンプして、年を越した瞬間に俺たちこの世界にいなかったムーヴだな」
「「それだ!!」」
かくして三人の命運は決定した。
「よし。あと五分だ。
いいな。抜け駆けなしだぞ」
「やべー。まじやべー」
「時間揃えるんだから抜け駆けも何もないだろ」
まだ五分あるが、彼らはすでに前傾姿勢で全力ジャンプの体勢に入っていた。
「あと三分」
「やべー。まじやべー」
「……どうする、せーので跳ぶか?」
「……それは「せーの」の、「の!」で跳ぶのか?
それとも「せーのっ」「はい!」で跳ぶのか?
それとも「はい!」はなしで「せーのっ」で一拍置いてから跳ぶやつか?」
そこまできて、一人が永遠のテーゼを提唱してきた。
「……いやいや、普通は「せーの」の「の!」で跳ぶだろ」
「まじか。俺は「せーのっ」で一拍置いてから跳ぶ派なんだが」
「やべー。まじやべー」
「いやいや、その一拍が合わないから「の!」で跳ぶんだろ!」
「いやいやいやいや、そもそも「せ」から「の」にいくときの伸ばし棒の長さが人それぞれ違うから「のっ」で皆の呼吸を確認して、んっ、ぱ! ってなるやつだろ!」
「もうなに言ってるかわかんねーよ」
「俺もわかってねーよ」
「やべー。まじやべー」
そんな不毛なやり取りをしている間に、ついに今年が残すところあと一分となっていた。
「やべー! やべーって! もう年越すって!」
「おまえセリフ楽そうだな!」
「どーする! の! なのか、のっ、はい! なのか、のっ、んっぱ! なのか!」
「微妙にさっきと違うぞ!」
そして、テレビの向こう側でとうとうカウントダウンが始まった。
「うおっ! あと十秒しかないやん!」
「やべー。まじやべー」
「ど、どうする! もう適当に各自で跳ぶか!?」
「いやいや、せっかくなら足並み揃えたいじゃん! 俺らずっ友じゃん!」
「やべー。まじやべー」
「そういう奴が一番最初に彼女つくって抜け駆けすんだよ!」
「いや、なんの話!?」
スリー、ツー、ワン! ゼロ!!
「あ、やべっ!」
「え? やべー」
「あ、うおっ!」
明けましておめでとうございまーーす!!
「と、とうっ!」
「やべー」
「え、あ……」
かくして年は明け、一人は年が明けてからジャンプし、一人はテレビに映った可愛らしいアイドルに見惚れ、一人は完全にタイミングを逸したのだった。
「……初詣でも行くか」
「そうしよう」
「そ、そうだな」
なんだか変な感じで年を越してしまった彼らは、なんだか変な感じで三人で初詣に出掛け、振り袖姿の可愛い女子たちを眺めて再びテンションを上げるのだった。