序章 この星は過ちを繰り返さない
―これが宇宙だ―
夜空一面に満天の星空が一望できるこの圧倒的な景観に、何度となく酔いしれる瞬間を堪能できることを、ただひたすらに脳裏で嚙みしめるこの感覚に、「最期」という二文字がよぎることは決してなかった。
少なくとも今までのジョゼフには。
だがその直後に、瞬く間にその言葉の意味を実現させてしまう巨大な出来事が頭上の星空から降臨―いや、それとも究極の闖入者と呼ぶべきか―してくることになろうとは誰が予想できただろう。
それも………この景色を眺める度に内心で呟いてきたその台詞が、まさか大破局をもたらす意味合いにたちまちにして変容させてしまうとは、一体この世の摂理は何と非業な宿命を背負っているのだろうか………。
そう、これが宇宙なのだ。
一見すると脅威には思えなかった何の変哲もない美しい夜景の片隅から、突如として"それ"が墜落してくるなどという場面に我々人類が直面することになる、などいう阿鼻叫喚の世界に貶めることをいとも簡単に実現してしまう、壮大な景観の全く裏の顔を見せることが容易にできてしまうのが、この宇宙なのだ。
"それ"が意味するもの。
そんなことはこの地球上に住む生命、あるいは人類ならば、誰一人として、何一つも受け入れたくはなかった。
………巨大な隕石によってこの星もろとも全地球生命が滅亡してしまうという、地球史上最悪の運命の一途を辿ることになろうなどとは。
大気を焼き尽くすような業火と世界の終焉を描くような轟音に視界一面が覆い尽くされていく。
恐ろしい速度で大地に迫りくるこの神の鉄槌なる使者は、もう地上に衝突するのかと思いきや、彼の予想を大きく上回ってその頭上を激しい炸裂音と共に勢いよく横切っていった。
「………神よ」
ただ、それだけを独白するのが精一杯のこの老人にとって、その命が長らえることになるであろうという恐らくの憶測すらも脳裏をかすめることすらなかった。恐怖のあまり、ひたすらにこの破壊と破滅の申し子を眼前から消し去りたい、とそれだけを無意識に天に懇願していた。
だが、頭上をかすめたことで自身の生存の実感を遅まきながらに察知し、隕石が落下する方向とは逆方向へと一目散に駆け出した。
それまでは浮世離れしていたぼうっとした意識を瞬時に木端微塵に破壊された挙げ句に続いて、その老朽化した命の灯火が跡形もなく消滅してしまうかもしれない、という巨大な危機感が彼の生存本能を強く突き動かしていた。
背の高い草原をかき分ける余裕すらもない様相で持てる限りの体力を振り絞って、丘の手前までやって来た。
ゴゴオオオッッッ………!!!
地獄の底から聞こえてきそうな大気を震わす振動の余韻が、今も耳に入ってくる。その音は墜落までのリミットを感じさせることを著しくかき立てているようにも思えた。
不意に、空気が一瞬、静まり返った。
その一瞬の感覚に、遥かに大きく上乗せするようにしてけたたましい爆発音がジョゼフのいる世界を轟かした。同時にこの世の終わりを思わせる凄まじい振動があたりを揺さぶった。