054.うふふ、素敵な世界で妖精さんとスローライフですわ-04
いいですか? ここは妖精さんたちの暮らす、ハッピーでラブリーな世界です。
なんでも魔法で思いのままで、イヤなことなんてひとつもない、素敵な素敵な世界なんです。
喧嘩もなければ、いじわるをする人もいませんし、みんなが妖精の束ね役のイミューちゃんのことが大好きなのです。
さあ、あなたも一緒にケーキを作りましょう!
「ウシ搾りはあたしがやるの!」「ダメだ! ぼくがやるの!」
青い妖精のロロくんが、白い妖精のイミューちゃんを突き飛ばしました。
「ダメだよふたりとも、喧嘩をしたら」
イデアくんがやってきて、イミューちゃんをなでなでします。
「この隙に、わたしが搾っちゃおう!」
赤い妖精のララちゃんが勝手に入ってきて、ウシのお腹の下にたくさんぶら下がっている乳首のひとつをつかみました。
「触るんじゃねえ、殺すぞ!」ウシが怒鳴ります。
あまりの剣幕にララちゃんはびっくりして、尻もちをつきました。
ロロくんはそうなるのを知っていたようで、涙目のララちゃんを見て笑います。
「やーい、びびってやんの!」
「びびってなんてない! ただ、ウシが生温かったから驚いたの!」
「生温かい!?」ロロくんが声をあげます。
彼は生温かいのが苦手なのです。じっさい、握って確かめてみると、どうやら生温かったらしく、歯の隙間からぶくぶくと泡を吹いて気絶してしまいました。
それを見た妖精たちはみんな怖がってしまい、ウシから離れていきます。
逆にウシは気が変わって搾られるつもりになっていたらしく、「早く搾れぁ! 出したくてたまらねぁ!」と、喉から血を吐かんばかりに叫んでいます。
「喧嘩、喧嘩はイヤよ!」
イミューちゃんは耳を塞いで、イデアくんにおうちに連れていってと頼みました。
抱っこをして貰い、イミューちゃんは小屋の中へと帰っていきます。
残された妖精たちは、乳とよだれを垂れ散らかすウシに追い回されました。
興奮したウシを見て、ほかのウシ仲間たちも同じようになり、こぞって妖精たちを追い立てます。
「こんなときは牧羊犬の出番だわん! ぼくは牧羊犬のリーダーなんだわん!」
そう言ったのは、大きなイヌです。言ったけど、彼は動きませんでした。
だって、彼の背中の上にいる紫の妖精のリリちゃんが、幸せそうな顔でもふもふしている真っ最中でしたから、動けるはずがありません。
「やれやれ、ですわね」
ここでお嬢さまの登場です。フロルちゃんは自領の農民といっしょに、ウシを搾り倒したことがあり、おっぱいに関して経験アリなのです。
「家畜はお並びになって」
お嬢さまはどこからともなく鞭を取り出して、原っぱを景気よく叩きました。
乳房をはち切れそうなほどぱんぱんにしたウシたちは、素直に整列をします。
お嬢さまはピンク色の突起物に手を添え、親指と人差し指で根元をきゅっと締め、指を閉じつつ下へ向かって優しく引きます。
「ぎゅっ、ぎゅっ、ぎゅーっ」
すると、先端から白い液体が、じゃーっと出ました。
お嬢さまは思います。生温かくなんてない。熱いくらいだわ。
乳首も乳房も、燃えるように熱い。
「あの、乳まみれなんですけど……」
草が苦情を言いました。彼女はべちゃべちゃでした。
ついさっきまで置いてあったはずの、バケツが見当たりません。
バケツを探して見回すと、緑色の妖精ルルちゃんが、バケツを被った黄色い妖精のレレくんを追い回している最中でした。
「待ちなさーい! そのバケツは、ミルクを入れるためのものよ!」
「これは、おいらの帽子にすることにしたのさ!」
「ダメだよレレくん! バケツがないと、ケーキが作れないよ!」
「そんなにミルクを入れたいなら、ルルがバケツになればいーじゃん!」
ふざけるな! ルルちゃんは空を高速で飛んで追いつき、両脚をレレくんの首に巻きつかせて肩に乗っかり、両腕を力いっぱいに振り回してバケツ頭をタコ殴りにし始めました。
ウシたちは野次馬になり「いいぞ、殺せ!」と前足を突きあげ応援します。
がんがんぼこぼこと、拍子をとった連打は小気味がよく、思わず歌詞をつけて歌いたくなります。フロルちゃんはお友達のなんとかちゃんなら、芸術的なことが得意なのでいい歌詞を書いてくれるだろうなあ、と思いました。
そうして、いたずら坊主のレレくんはやっつけられて、倒れてしまいました。
「ぼこぼこになっちゃったけど、バケツに穴は開いてないよ。さあ、フロルちゃん、バケツを取り外してミルクを入れて」
ルルちゃんは血塗れのこぶしを草で、ぐいっと拭くと、草原に倒れこみ、あとを託しました。
ところが、フロルちゃんがどんなに引っぱっても、バケツはレレくんから離れません。どうやら、バケツだけでなく、その下もでこぼこになりすぎて、引っ掛かってしまうようです。
「だったら、わたしがバケツになるわ!」
ウシの下でララちゃんが仰向けに寝転んでいます。
「さあ、やって! ひと思いにやって! 生温かくても、いいから!」
「言ったな! 血よりも赤い妖精め、くたばれ!」
大コーフンしたウシが、全部の乳首からミルクを噴射しました。
「代わりのバケツを探してきましょう」
お嬢さまは冷静でした。
乳を垂らしたウシたちのうらめしそうな視線を背に受けながら、農具のしまってある納屋へと足を向けます。
「あら? 納屋ってどこかしら?」
場所を知りませんでした。でもまあ、その辺にあるでしょう。
うろうろしていると、ぷんと土の香りを感じました。
柵に囲まれた土地に、柔らかそうな黒土がたっぷりと広がっています。
そこには、何やら白いウサギ……チョッキを着たウサギ人間がいました。
どっこいしょとクワを打ちこんで、腰に結わえた袋から種を撒いています。
「あら、あなた、インファさん?」
声を掛けると、ウサギさんは、びくりと肩を震わせ、クワを落としました。
「お、俺はいったい何を……」
「そういえばあなたは、スローライフをしたいっておっしゃってましたわね」
「鞭女か。……って、ちょっと待て! あんたがいるってことは、この世界に穴が開いたのか!?」
「ええ、ゲートを通ってまいりましたけど」
「助かった! 俺の時計を巻いても、ちっともここから出られなかったんだ!
ボッコーのアホを見なかったか? あいつが変なガキに騙されたせいなんだ。
きっと、酷い目に遭わされてるに違いねえ。助けてやらねーと!
つーか、俺はなんでニンジンの種なんて持ってんだ!?
ウサギってのは、畑からガメてなんぼだろうがよ!
……って、俺は野ウサギじゃねえ!」
ウサギさんはセルフツッコミと共に、手にしていた袋を乱暴に地面に叩きつけました。
「ちぇっ、人間のころでも、こんなクソ真面目に畑仕事をしたことはなかったぜ」
「インファさん。わたくし、バケツを探してますの。ケーキを作るミルクが欲しくて」
「ケーキだぁ?」
インファさんは怪訝そうにこちらを覗きこみます。
すると、ニワトリ小屋のほうから「フロル、ミルクはまだー?」とイミューちゃんの声が聞こえました。
「……キャロットケーキってのもオツだぞ」
ウサギさんは「にたぁ」と笑うと、納屋の場所を教えてやるよと歩き出しました。
こうしてフロルちゃんは、優しいウサギさんのおかげで新しいバケツを手に入れ、ミルクを搾ることに成功しました。
ですが、バケツは普通の大きさのバケツなので、多くのウシの欲求は満たされませんでした。
ミルクの次は、卵です。
フロルちゃんは妖精さんたちと、ニワトリ小屋へと行きました。
「じゃあ、始めるね!」
イミューちゃんが、きらきらと魔法の光を散らしながら、くるりと一回転。
すると、ニワトリ小屋が木っ端みじんに吹き飛んで、中で休んでいた白や茶色のニワトリたちがあらわになりました。
そこに、牧羊犬(大きなイヌではありません。彼は忙しいので)がやってきて、ニワトリを追い回して、どこかへと逃がしてしまいました。
「たーいへーん! コッコちゃんたちが逃げちゃったわ! 捕まえてきて!」
白い妖精はたいへんしらじらしいです。
フロルちゃんはため息をついてから、どうして逃がしたのかと訊きます。
「ニワトリを捕まえるイベントはお約束だって、キルシュが言ってたの」
「ああそう」お嬢さまは、こころの中でキルシュくんに唾を吐きました。
「ほら、いっしょにニワトリを捕まえましょう」
イミューちゃんが急かします。
「あのかごに入れてね」
お嬢さまは手近なところにいたニワトリを抱きあげます。
温かくてふわふわで、ずっと撫でていたくなります。
「ねえ、フロル。キルシュにフラれちゃったの。あなたは、ずっと一緒よね?」
ニワトリが、こっこっこと鳴きました。
「ずっと? ずっとは無理よ」
フロルちゃんは、懐かしい出来事を思い出していました。
領地の農場で、逃げたニワトリを飼い主や召使いたちと夕暮れまで掛かって捕まえたことを。
それから、お礼にもらったニワトリをヨシノが絞めて、羽をむしるのを見て可哀想だと思ったことを。だけど、食卓に上がったそれは、とても美味しかったことを。
「わたくし、帰るわ」
「ダメよ。少なくとも、ニワトリを捕まえるまでは、帰れない」
イミューちゃんは、なんだか不機嫌そうです。
彼女は抱きあげていたニワトリを逃がすと、おうちに向かって駆けて、イデアくんの名前を呼びました。
扉が開いて、優しくて素敵な少年が出てきて妖精さんを抱き止めます。
お嬢さまは、ふたりが引っこむのを見届けて、脱走者の捕獲に取りかかります。
ニワトリはそれほど遠くへは逃げていませんが、二、三十羽はいます。
妖精たちは卵やニワトリを投げつけ合って遊んでいます。
お嬢さまは「やれやれ、ですわ」と言ってニワトリを抱きあげてはかごに入れ、抱きあげてはかごに入れと頑張ります。
「こんなところにニワトリがたくさん!」
ララちゃんが集められたニワトリのかごを指差します。
「よくやったララ二等兵! 全員に武器を配れ!」
ロロくんが命じると、ララちゃんはかごからニワトリを取り出して、妖精たちそれぞれに配りました。
みんなはニワトリの足と首根っこをつかんで、「だだだだだだだっ!」と銃声のまねをしながら、ニワトリの首を引っぱったり縮めたりします。
「ぎょええええっ!」
ニワトリがこの世の終わりのような喉からしぼり出します。当たり前です。
「可哀想だからやめなさい!」
フロルちゃんは妖精たちからニワトリを取りあげて、かごに返してあげました。
妖精たちは、くちびるを震わせてぶーっ! と唾を飛ばします。
フロルちゃんはほっぺたを拭うと、気を取り直して捕獲作業に戻りました。
「おいら、目玉焼きになっちゃった」
黄色い妖精のレレくんが、白い水たまりのまんなかに仰向けで寝ています。
そのそばには、せっかく溜めたミルクバケツが哀れに転がっていました。
ルルちゃんはそれを見て、「目玉焼きにはソース? 醤油?」と訊ねます。
レレくんは「おいらは」と言いかけましたが、ルルちゃんが「塩に決まってんだろお!」と怒鳴りながらレレくんの顔面に生卵を叩きつけたので、レレくんがどっち派なのかは分からずじまいです。
フロルちゃんは、引っくり返ったバケツを見て悲しくなりました。
どんなに頑張ろうとしても、何もかもが台無しなのです。
「おでが、手伝ってやる」
誰かがバケツをひょいと持ち上げました。大きな大きなネズミさんです。
彼の隣には、ウサギさんもいます。
「ボッコーの野郎、馬小屋にいねえと思ったら、回し車で遊んでやがった」
「遊んでねえ。イミューがウマの気持ちが知りたかったら、走れっていうから」
「おまえは言いなりかよ!」
ウサギさんがジャンプをして、ネズミさんの頭にげんこつを喰らわせました。
「いでで。兄貴が助けてくれなきゃ、おでは溶けてバターになってたところだ」
「俺だって危うくニンジン農家だ」
「つまりだ、逆さまに言って、おではお嬢ちゃんに助けてもらったってわけだ」
「どこが逆さまなんだよ!」
ウサギさんがもう一度ジャンピングアタックをかまします。
それから彼は「ミルクなら、俺たちが汲んできてやるよ」と、言ってくれました。
フロルちゃんは遠慮をして、自分で行くと言います。
ふたりはかたくなにそれを押しとどめ、牧場へと消えていきました。
「ありがとう、ございますわ」
小さな声でお礼を言います。聞こえなくても、言わなくては。
ですが、かえってきたのは、ミルクの噴射音と彼らの悲鳴だけでした。
さて、ニワトリをおおかたしまい終わったころには、夕暮れになっていました。
見上げれば、赤い空に太陽が溶けています。
フロルちゃんは無性に悲しくなって、目を背けようと反対側を振り返ります。
夜です。まっくろな夜が、追いかけてきたように思えます。
「こっこっこ」
ニワトリが目の前を横切りました。
一羽、二羽、三羽……。
目で追うと、ニワトリをしまっておくかごの扉が、開いていました。
クソ妖精どものいたずらかと思って彼らの姿を探すと、みんな、大きなイヌに寄りかかって寝ています。
どうやら、自分で閉め忘れてしまっていたようです。
「フロル、ニワトリはまだー?」
イミューちゃんの声が遠くで小さく聞こえます。
フロルちゃんは声と夜に急き立てられるように、ニワトリを片付け直します。
なんでこんなことをしているのだろうと、どうしてここに来たのだろうと、それから、自分はどこから来たのだろうかと思いました。
「あーあ、よく寝た!」
赤い妖精のララちゃんが起きやがりました。
彼女が背伸びをすると、さっきよりも深くなった夕陽の光が翅に反射しました。
「お片付けはまだ済まないの? ケーキ、作れないよ?」
「だって、ニワトリがあまりにも多いから……」
「みんなでやれば、すぐに終わるのに。手伝ってって、言えばいいのに」
ララちゃんはきらきらの翅ときらきらの笑顔で言いました。
フロルちゃんは、イラっとしました。
「あなたがたが邪魔をするからでしょう?」
「どうして邪魔をしたらダメなの? みんなで遊んで、楽しいよ」
こぶしが固く握られていくのが分かります。
ララちゃんは泣きそうな顔になって、「怖い顔はやめて!」と非難しました。
「間違ってるのは、フロルちゃんだよ。だって、ここは妖精の世界だよ。自由で何をしてもいいのに、フロルちゃんは、お手伝いやケーキのことばかり」
ララちゃんは逃げるように、ふかふかの大きなイヌに飛びこみました。
リリちゃんが下敷きになって「ぐええ」と悲鳴をあげると、ほかのみんなが起きだしてきました。
「おはよう! 卵のぶつけ合いっこしようぜ!」
「ケーキはまだ? お腹すいちゃったよ」
「ケーキなんてもういいから、おうちに帰ろうよお」
「わんわん! ニワトリ美味しいわん!」
みんなはさっそく暴れはじめます。
フロルちゃんは、「ぷっつん」という音を聞いた気がしました。
「フロル、バター用のネズミが逃げちゃったのだけど知らない?」
イデアに抱っこされたイミューがやってきました。
イミューは「まあいっか」と言うと、指をくるくるっと回して、魔法でちょちょいとニワトリを片付け、バケツたっぷりのミルクを用意して、透明なパックに十玉(Lサイズです)入った卵も用意します。それからレレが高速回転を始めて溶けて、バターの代わりになりました。
「次はみんなでケーキ作りよ。鼻の頭にクリームをくっつけてね。
そうだ! イチゴみたいなお鼻のおばさんも用意しましょう。
スポンジを作ってる途中でパイ投げみたいにぶつけ合うのもいいわね」
「全然よくない!」フロルは怒鳴った。
「わたくし、帰りますわ」
「ダメよ!」
イミューがイデアの腕から飛び降り、フロルの腕をつかむ。
「何が気に入らないの? 分かった! ケーキが食べたいのね?」
イミューが魔法をやると、世界がフルール邸の食堂に塗り替わり、切り分けられたケーキを前に妖精たちが着席した。
フロルは黙って席を立つ。
「待って、待って! 行かないで!」
フロルの腕を揺する白い妖精。
「わたくし、ナンセンスやシュールは苦手ですの」
「どういうこと?」
「あなたとは、仲良くできませんってこと。わたくし抜きでおやりになって」
「どうして!? 喧嘩はイヤよ。仲直りしましょう?」
「仲直り? 今からするのは絶交よ」
「なんで、そんな酷いこと言うの!?」
「当然でしょう? 邪魔ばっかりして、人のことを散々振り回して」
「だって、あなたたちはいつもそうやって遊んでるでしょう? 壊したり、作ったりして! だからあたしも」
フロルは腕を振り払った。
「独りにしないで!」しつこくすがりつく妖精。
「独り? お気に入りの男の子とでも、いちゃいちゃしてればいいでしょう」
……テーブルには紫の妖精以外、誰もいなかった。
彼女も椅子から降りると、寝そべっていたイヌに寄り添ってあくびをした。
「ねえ、お願い! あたしと一緒にいて! そうだ! あなたのお友達も呼びましょうよ。そしたら、きっと楽しくなる。ヨシノを呼んで、キルシュを呼んで、セリ……」
セリシール。そう聞いた瞬間。
「せいっ!」
全力でこぶしを振り抜いていた。
「……ナイスパンチです。お嬢さま」
いつの間にやら、フロルの眼前には鼻血を垂らしたヨシノがいた。
伸びきったフロルの腕が可愛いメイド長の顔面にめり込んでいる。
ここは離れの客室のベッドの上だ。
「多少は元気になられたようですね。領民のみなさまが、フロルお嬢さまのために、パーティーを開いてくれたそうですよ」
メイドは鼻血をナプキンでぬぐいながら言う。
「へ? パーティーならさっきしたでしょう?」
「何をおっしゃってるのですか?」
「音楽も聞いたし、料理も食べたし、劇だって観たわ。三人の芸術家の劇よ」
フロルが首をかしげると、ヨシノは片眉を上げて、「さてはキルシュさんがバラしましたね」と言った。
何が何やら分からない。さっきまでの異世界での体験は、夢だったのだろうか。
「お嬢さま、何かついてますよ」
ヨシノが髪に触れる。彼女の手の中には、鳥の羽毛。
「枕に穴でも開いてたのでしょうか。あとで見ておきます」
――夢じゃ、ない?
フロルはベッドから出ると、しかと足裏で絨毯を感じた。
――ここは草原じゃない。確かにわたくしの、家。
窓へと近づくと、領民や子どもたちの楽しげな声が聞こえてきた。
「服はちゃんと着替えてくださいね」「もちろんよ」
それからフロル・フルールはパーティーに出席し、談笑をし、ケーキを食べ、合唱に混じり、演劇の締めくくりには飛び入り参加をしたのであった。
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