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聖女の娘  作者: 相月志月
6/8

 それから一週間後の午後。

 オフィーリアは朝の内に声をかけ、グレイスとローザ、マーサ達にダイニングへ集まってもらっていた。


 基本的にノークス家での過ごし方は何時もグレイスの提案に乗っている。そのため、オフィーリアから何か希望を口にするのはこれが初めてだった。

 主張の少ないオフィーリアの初めての頼みとあって、隣に座るグレイスはどこか嬉しそうに問いかける。



「オフィーリア、今日は何をするんですか?」



 グレイスの言葉で全員の視線が集まる。

 期待と好奇心で満ちた視線にドキドキしながら、オフィーリアは心に決めていたことを口にした。



「実は、試してみたいことがあるんです」

「試したい事?」

「はい。その、初めてで確証がないのですが……上手くいけば少しでも御恩をお返し出来るかと思って」

「まあ! そんなこと、気にしなくていいと言っているのに……」

「そうですよ。貴女が目覚めてくれただけで十分報われていますから」



 親子の優しさにオフィーリアの涙腺がつい緩む。


 長らく人の温かさに触れていなかった影響で、心などとうに凍りついたものと思っていたが……自分は案外泣き虫だったのだなとオフィーリアは思う。

 そんなささやかな発見も、この島に行き着いたからこそ。ノークス家の人々に出会えたからこそだ。


 だから、既に覚悟は決めていた。



「ありがとうございます、ローザ様。グレイス様。……ですが、私に出来ることがあるのならやってみたいんです」

「ふふ、オフィーリアは本当に律儀ですね。……分かりました。ただし無理はしないでください」



 グレイスの言葉にローザも頷く。



「ありがとうございます……!」



 二人の了承を得られたオフィーリアは、早速ローザへ特別な治癒魔法を使ってみたいのだと説明をする。

 正確に言えば魔法ではないのだが、成功するか分からない現状ではその説明で十分だろう。

 治癒魔法という言葉にローザ達は少しばかり複雑な表情を見せたが、オフィーリアの表情から本気を感じ取ったのか、特に何も言うことはなかった。



「それではローザ様、失礼します」

「ええ。お願いします」



 オフィーリアは車椅子に座るローザの前へ膝を突くと、目を閉じて胸の前で祈るように手を組む。


 ローザが夫の他界後に発症したという病は、特に魔力量が多い者が発症する【魔石症】というものだ。

 何らかの理由により体内で生成される魔力の発散が上手く出来なくなり、蓄積された魔力が体内で魔石化するらしい。魔石化する部位は基本無作為で、場所によっては命にかかわる難病とされている。


 そもそも魔力が体内にこもってしまう原因が分からず治療法も確立されていないが、魔法を使用することによる定期的な魔力の消費と薬によって魔石化の進行を止めることは出来るため、定期的に投薬しているローザは命が危ぶまれるほどの状態ではない。


 ただ、ローザの場合は魔石化した部位が下肢に集中していたため、自力で歩くことがほとんど出来なかった。


 一応、高度な治癒魔法なら魔石化した個所を治すこともできるらしい。

 が、その高度のレベルが時代に一人いるかいないかの聖女のみが扱える魔法に限った話なのだから、不治の病といっても過言ではなかった。


 オフィーリアは一つ深呼吸をすると、体内を巡る神力に意識を向ける。

 魔力と似て非なるその力は、この一週間夜な夜なラディウスに習ったことで自在に操れるようになっていた。

 体内で生成することが主である魔力と違い、神力は世界中――いや、【愛】の存在するあらゆる世界からオフィーリアへ集まってくる。


 愛の神であるオフィーリアにとって、神力の源とは信仰心ではなく、人が誰かを、何かを愛する想いそのものであるらしい。

 この神力さえあれば、神であるオフィーリアはどんな奇跡でも起こせるのだという。それこそ、浄化や癒し、豊穣といった力を持つ聖女ですら目ではないほどの奇跡を。


 そんな膨大な力を自在に操れることが恐ろしくもあり、ありがたくもある。

 神としては特定の世界、どころか一個人に神力を使うことなどもっての外かも知れない。


 しかし、今の自分は神であると同時に人間でもあるのだ。


 たったの一月だが、ここで過ごしてみてオフィーリアの決意は固まっていた。

 神としての力を使うとしたら、過酷な環境にもめげず前向きに生きるこの地の人々のために使おうと。創造神様の言う通り、練習と思って好きに使わせてもらうと。


 魔力の訓練なら嫌というほど積んだオフィーリアにとって、感覚の近い神力を操ることなど造作もない。瞬く間に神力を練り上げると、支援魔法を使う要領でローザに狙いを定め、放つ。


 瞬間、金色に輝く光の粒子がローザを包んだ。



「!」

「まあっ……!!」

「何と、美しい……」



 金色の粒子が粉雪のように舞う。


 魔力とは明らかに違うその力に驚きつつも、美しい光景にみなが目を奪われる。

 暫しローザを包み込むように輝いていた神力は、ゆっくりと溶けるように消えていき――完全に輝きが失せると同時に、オフィーリアは確かな手応えを感じた。



「なんて美しいのかしら!! とっても綺麗だったわ……! でも、今の力は一体……?」



 頬を染め興奮したように言い募るローザはまるで少女のように愛らしく、オフィーリアは自然と微笑みながら告げる。



「ローザ様。少し、脚を動かしてみていただけませんか?」

「! そうだったわね。……ええ、ええ。こんなに素晴らしい光景を見せてもらった今なら、何だって出来そうな気がするわ! 見ていて頂戴ね!」



 車椅子に座ったまま、ローザが拳を握り込み意気込んだ、次の瞬間。



「そぉ〜れ――きゃあっ!?」



 そんなに動くとは思いもしなかったのだろう。



「母さん!?」

「奥様!?」

「おっと……!」



 ローザが右脚を大きく蹴り上げたことで、素肌が見えるほど勢い良くスカートが捲れ上がった。


 驚愕に固まる本人をよそに、目にも止まらぬ速さでスカートを整えたマーサとグレイスが勢い良く振り返る。

 すると、室内にいた男性陣――セバスチャンとヘクターは素知らぬ顔で明後日の方向を見ていた。


 衝撃で一瞬固まっていたオフィーリアも、紳士達の流石の対応力に思わず感心をする。果たしてその反応が正解なのかどうかは分からないが……。



「ええと……」

「母さん、脚が……!」

「え、ええ……動くわ……普通に、動く……」



 呆けたように呟きながら、ローザは再び脚を動かす。それも、左右を交互に動かしたり、同時に動かしたりと自由自在に。

 その様子に、完全に病を取り除けた安堵からオフィーリアはホッと胸を撫で下ろした。


 神力の扱い方を教えてもらったラディウスから神力は万能だと聞いてはいたものの、やはり不安だったのだ。

 治すなどと息巻いておきながら不発に終わったら、期待させた分以上に落胆させてしまうだろうと。それはどれだけ辛いことだろう、と。


 そのため、力を明かさずこっそり治してみようかと思ったりもした。

 しかし、神力をこの島のために使うと決めたオフィーリアには、まだまだ成したいことがある。結局、隠すだけ無駄だとノークス家の人々には自身の力を伝えることにした。


 故にこうして集まってもらったのだ。

 ローザの治療を見せ物にしてしまったようで少し心苦しくもあるが……。


 ローザは暫し感覚を取り戻すように脚を動かしていたが、ふと意を決したように表情を引き締める。そして、



「っ……た、てた……。歩けるわ……!!」



 自らの力で車椅子から立ち上がり、室内をゆっくりと、それでいて確かな足取りで歩き始める。まるで、この十年間脚が動かなかったことなど嘘だったかのように。


 その衝撃的な光景に暫し唖然としていたグレイスとマーサは、やがて口元を押さえるとポロポロと静かに涙を零し始める。

 セバスチャンは感慨深げに目を細めながらローザを見守り、ヘクターは眼鏡越しの目をまん丸に見開いて、もはや口癖のように「奇跡だ……」と零していた。


 みなに見守られながら室内をぐるりと一周したローザは、戻って来るや否やオフィーリアに飛びつく。そして、強く強くオフィーリアを抱き締めて言った。



「オフィーリアちゃん、ありがとう……ありがとう!! 嘘みたいに脚が軽くてスイスイ歩けるのよ! まるで十代の頃に戻ったみたい! また自分の脚で歩けるなんて、夢のようだわ……!」

「っ……!」



 ローザの弾けるような笑顔を見たオフィーリアは、瞬間、これまでの努力が全て報われたかのような――心が満たされる感覚を覚えた。


 王族として膨大な量の教育に加え、日に何度も魔力が枯渇するほどの訓練に文句も言わず耐えてきたのは、聖女の称号が欲しかったからではない。

 ただ、いつの日からか消えてしまった母の笑顔が見たかった。それだけだった。


 目覚めてからはたったの数週間で、グレイスやローザとの付き合いは短い。

 それでも、眠り続ける自分の命を諦めることなく看護してくれたノークス家の人々は、オフィーリアにとって恩人以上――家族も同然だ。

 そんなローザの晴れ晴れとした笑顔は、久しく母に貰えなかったものを全て与えてくれたような気がした。



「良かった、ローザ様のお役に立てて……」



 オフィーリアがおずおずと抱き締め返すと、ローザはそれ以上の力で再び抱き締め返してくれる。

 人の温もりに包まれることが嬉しくて、くすぐったくて。オフィーリアは零れそうになる涙を誤魔化すため、ローザの肩へ顔を埋める。

 鼻腔をくすぐる甘く柔らかな香りは、奇しくも幼い頃大好きだった母の香りとよく似ていた。



「お嬢さんは、」

「!」

「お嬢さんは、まさか……聖女様・・・なのですか?」



 力を使うと決めた以上、隠し通すことは出来ない。

 ヘクターの静かな、それでいて迷いのない問いに、オフィーリアはローザから離れると緩く首を振って答えた。



「いいえ、私は……聖女ではありません。聖女の娘でありながら、その力を継ぐことは出来ませんでした」

「! それは……」

「では、貴女様は……!」



 その言葉にグレイス達は目を見張る。


 ノークス領は本土から離れた島とは言え、定期的な交易があるため最低限の情報は入る。

 オフィーリアはこの一月で、ノークス領の人々が聖女を認知していること――そして、現王族に関する最低限の知識があることを知っていた。

 故に、領主であるノークス家の人々が第一王女の存在を知っていることを踏まえた上での発言だった。


 家族のことを思い出すと、やはり酷く胸が苦しくなる。今のオフィーリアが口に出来る精一杯の言葉だった。



「……ですが、今の私はただのオフィーリアです。聖女の力を継ぐことの出来なかった私は、母にとって汚点でしたから……」

「? しかし、お嬢さんには力が……」

「ローザ様に使った力は、聖女としてのものではありません。眠っている間に目覚めた力なんです」

「それは、一体どんな……」



 ヘクターが首を傾げた、その時。



『――【神子】としての力です』



 突然、オフィーリアの肩に現れた小さな白い竜が答えた。

 神力で姿を隠し、一部始終を見守っていたラディウスだった。



「っ!? ドラゴン!?」

「まあ!」



 その姿にグレイス達は再三目を丸める。


 オフィーリアの細い肩に乗るほど小さな竜とは言え、竜は竜。魔物に分類される生き物であり、警戒するのも当然のことだ。

 この島には魔物が生息しない上、竜も滅多に見かけることがないらしいので、きっとグレイス達の驚きはオフィーリアの初見と同等だろう。



「驚かせてしまってごめんなさい。ドラゴンのお姿ではありますが、この方はこの世界の神であり、私の先生(・・)であるラディウス様です」

地神ちしんのラディウスと申します。オフィーリア様を救ってくださった皆様には、心より感謝を申し上げます』

「は、はあ……」



 礼儀正しく頭を下げる小竜に、グレイス達は困惑しつつもつられて頭を下げる。その様子に満足気な鼻息を鳴らして、ラディウスは続けた。



『オフィーリア様は数多ある世界で現在唯一、神子の称号をお持ちの方。神子とは即ち神の子――主神であらせられる創造神様が選ばれた尊きお方なのですよ』

「神の子……?」

『ええ。故にオフィーリア様も神の力――神力を扱うことが出来るのです。聖女の力など取るに足りぬ、森羅万象を統べる唯一絶対の力なのですよ』



 一週間前、ラディウスが訪ねて来た日。

 罰を求めるラディウスにオフィーリアが提案したのは、神の力についての師事だった。


 長い眠りより目覚めてからというもの、体内に魔力とはまた違う力が満ちていることには気付いていたものの、正しい扱い方が分からず使用に躊躇いがあった。

 魔法の訓練でも、うっかり力加減を間違えて大惨事――なんてことは多々ある。それがどんな奇跡をも起こす神力ともなると、桁違いの事故を起こしかねない。


 そのため、師事してもらえば安全に使えるようになる上に、ラディウスにとっても人間(こうはい)一人にかかりきりになることは面倒なことであるはずなので、罪滅ぼしになるのではと思ったのだ。


 まあ、結局その程度では罰にもならないとゴネられたため、オフィーリアが満足ゆくまで師事してもらう(死ぬまでかかるかもと脅した)ことでどうにか妥協してもらったのだが……。


 ラディウスが生真面目すぎてビックリしたオフィーリアだった。


 結果、この一週間でオフィーリアはメキメキと成長。

 ラディウスからお墨付きを貰えるほど神力の扱いが上達し、この世に存在するありとあらゆる病を治すことも出来るようになった。


 それだけではない。

 ラディウスのお陰で、オフィーリアは自分の現状――【神子】の称号を得ていることを知った。


 本来、自分が称号や術技を持つかは特定の魔道具を使用しなければ分からないのだが、ラディウスはもっとも格が低いとは言え神。

 他者のステータスも神力を使うことで見ることが出来るらしく、神力の扱いを教えてもらうよりも先にその事実を聞くこととなった。


 ラディウスいわく、【神】という称号は存在しないので、人である間はオフィーリアの力に最も相応しい称号が与えられたのだろうとのことだった。

 オフィーリアを人神へと昇格させたのは創造神であるため、神としての親――と考えればあながち間違いでもないのだろう。


 それでも、神子とは聖女より格の高い称号である。人の身に与えられる最高位の称号と言っていい。

 もしも、オフィーリアが十八才になったあの日に称号が現れていたら。

 きっと母は大いに喜び、待遇を一変させていたことだろう。自慢の娘として後生大切に軟禁されたに違いない。


 しかし、ノークス家の人々は違う。

 ラディウスの説明を聞いて等しく呆けていた。

 当然かつ予想通りの反応ではあるのだが、この後の反応を考えるとオフィーリアの胸は不安でどくどくと嫌に脈を打つ。



「今までお伝えする機会はいくらでもあったのに……黙っていてごめんなさい」

「あ、いえ、驚きはしましたが……謝る事ではありませんよ。そのような力があれば慎重を期して当然です」

「そうよ。それに、こうして打ち明けてくれたということは私達を信用してくれた証だもの! 嬉しくは思っても責めることなど何一つないのだから、そんな顔をしないで?」

「ありがとう、ございます……」



 親子の優しさに涙を堪えて深々と頭を下げるオフィーリアを、みな優しい眼差しで見守ってくれる。


 真実を打ち明けることで、もしもノークス家の人々に――グレイスに拒絶をされたら。オフィーリアはやるべきことをやった後で、密かに島を去ろうと思っていた。


 神子の称号を得た今なら家族の元へ戻ることも可能だとは思う。

 とは言え、国へ、家族の元へ戻るつもりは一切ないため、ラディウスと共に何処か遠くへ行こうと考えていた。あてはないけれど。


 しかし同時に、この人達ならばきっと打算を抜きに受け入れてくれるという予感もあった。

 例え神としての力があっても、なかったとしても、ただのオフィーリアとして迎え入れてくれる。この一月の日々が素直にそう思わせてくれた。


 実際は、そう簡単に受け入れられる話ではないだろう。


 王女でありながら捨てられた身で。

 しかも【神子】という過去に例を見ない称号持ち。


 それでも、こうして一時的にであっても受け入れてくれたことはもちろん、王女だから、神子だからと目の色を変えることのないノークス家の人々は本当に得難き宝だと、オフィーリアは改めて思った。


 そんな時だ。



「――あの、」



 不意に言葉を発したグレイスの表情が、何処か悲しげで。

 不安気に揺れる浅葱色の瞳を見た途端、オフィーリアの心は大きくざわめいて苦しくなった。


 やはり、受け入れ難かっただろうか……。

 理由の見えないグレイスの憂いに、早とちりから耳を塞ぎたくなったオフィーリアはしかし、



「神子……神の子という事は、オフィーリアはいずれ神の元へ戻る事になるのでしょうか……?」



 予想外の問いに呆気に取られてしまう。

 そんなオフィーリアに代わって、冷静に耳を傾けていたラディウスが口を開いた。



『そのことで、皆様に一つ提案があります』

「? 何でしょうか」

『オフィーリア様を、この島の正式な住人として迎え入れて頂きたいのです』

「!!」

「ラディウス様?」



 ラディウスの提案にオフィーリアは目を丸め、グレイスは息を呑んだ。



『詳しくは省きますが、創造神様はオフィーリア様が人としての生を全うすることをお望みなのです』

「そう、なのですか?」

『ええ。ですから、オフィーリア様が創造神様の元へ戻ることはありません。まあ、たまに呼び出しくらいはあるかも知れませんが……これまで通り、この世界で過ごすことになります』



 その言葉にオフィーリアは目を丸めてラディウスを見る。呼び出しがあるかもとか聞いていない。いや、別に嫌ではないのだが……。



『オフィーリア様はこの島での穏やかな暮らしを気に入っておられるご様子ですし、島にとっても神子の存在は吉事となりましょう。私奴わたくしめも今後はオフィーリア様のお側に侍るつもりですので、御身の安全は勿論、島の安全も保証します。どうです? 悪い話ではないと思うのですが』


 ラディウスという何でも話せる相談役を得てから、オフィーリアは色んなことを相談していた。

この島で暮らしたいという希望や、それを伝えることへの緊張や不安も口にしていたため、気を遣って言ってくれたのだろう。

 たぶん、そういった雑事をこなすことも含めて贖罪だとか思っているに違いない。


 しかし、これは例えどれだけ怖くても自分の口から言うべきことだったなとオフィーリアは密かに反省をする。

 二年もの間眠りこけていたため実感はないが、オフィーリアは二十歳になっている。

 とうに独り立ちしなければならない年齢なのだ。しっかりしなければ。



「それは勿論、大歓迎です。私達としても、オフィーリアが此処に居たいと思ってくれるのならとても嬉しいです」

「私も賛成だわ! オフィーリアちゃんと過ごしてみて、そろそろ本格的に新しい家族が欲しいな〜と思っていたところだったもの」

「! グレイス様、ローザ様……!」



 二人の言葉に感動するオフィーリアをよそに、ローザはチラチラと息子(グレイス)を見る。

 その意味深な視線に、グレイスは露骨に顔を背けると大きな咳払いをした。



「ん゛ん゛ッ! ……し、島の家族(なかま)が増えることは喜ばしいことですからね。それに、私達はとうにオフィーリアを家族だと思っていますから」

『では、交渉成立ですね』



 話がまとまった安堵と喜びからオフィーリアが笑みを零せば、マーサやヘクターも「良かったですね」と笑顔で頷いてくれる。

 表情の変わらぬセバスチャンもこの時ばかりは僅かに口角が上がっていて、オフィーリアは益々嬉しくなった。



「ありがとうございます……! みな様、どうかこれからもよろしくお願いします……!」

「こちらこそ。これからもよろしくお願いします、オフィーリア」



 グレイスが差し出した手を握り返せば、優しい温もりが芯までみ入る気がした。

 今日この日から、オフィーリアの人生は再び始まった。


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[気になる点] 社会的な身分も神格の点でもオフィーリアが上なのに なんでこの親子は平気でオフィーリアに自分達を「様」付け呼びさせて、自分達はオフィーリアを敬称なしで呼んでるんだ? 特に呼び捨てにしてる…
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