3
心地の良い微睡みの中で、誰かが自分を呼ぶ声が聞こえる。
「オフィーリア……、オフィーリア……」
「ん……」
起きなければ、と思う。
けれど、起きたくない。起きられない。
夢の狭間で揺蕩いながら、オフィーリアはふと、数年前にもこんな日があったなと思い出した。
あの日は確か、前日に熱の入った教師の指導により、腕を折る怪我をしてしまったのだ。
その日の内に治癒魔法で治してもらってはいたものの、治癒魔法では自然治癒力を活性化させるため体力を消耗する。
だから体がいつも以上に休息を求めていたのだと思う。
翌日、オフィーリアは侍女にどれだけ呼びかけられても、眠くて眠くて起き上がることが出来なかった。一度意識が覚醒しても、直ぐにまた泥の中へ沈んでいくような感覚。
起きなければ不味いと分かっているのに、そんな思考も一瞬で霧散してしまうほど、その時のオフィーリアは疲れ切っていた。
しかし、当時のオフィーリアにそんな甘えが許されるはずもなかった。
報告を受けたマナミが自らやって来て、声をかけても起きないオフィーリアの布団を剥ぎ取り、髪を鷲掴んで寒空の下へ引きずり出したのだ。
あの時ばかりは本当に命の危険を感じたほどで、もう二度とあんな恐怖を経験したくはないと――
「オフィーリア、起きなさい」
「!」
瞬間、オフィーリアの意識は覚醒した。
「ご、ごめんなさいお母様! 直ぐに支度をして魔法の訓練を、」
「ふぉっふぉっふぉ。する必要はないから落ち着きなさい。お主の母は此処には居らんからのう」
「え? あ……」
オフィーリアは反射的に下げていた頭を、恐る恐る持ち上げてみる。
すると、そこに居たのは凍てつくような視線を向ける母ではなく、頭がつるりとした白髭の老人だった。
初めて会う人物のはずだが、優しげな表情がそう思わせるのか。どこか懐かしいような、心安らぐ感覚を覚えてオフィーリアは首を傾げた。
「あの、貴方は……?」
「神じゃよ」
「え? か、神様……?」
「うむ。自分で言うとめちゃんこ胡散臭いがのう。事実故に仕方ない」
「は、はあ……」
好々爺の予想外すぎる言葉に、オフィーリアは目を瞬かせる。
神様ってそんな。騙すつもりならもう少し言い方があるのでは……と、気まずさ故に視線を逸らしたところ、オフィーリアは周りの景色に気が付いた。
今、自分達がいるのは東家のような壁のない小さな建物だ。周りは色とりどりの美しい草花に囲まれていて、その中で可愛らしい小動物達がのほほんと過ごしている。
なんて美しい場所なのだろう……。
オフィーリアは一瞬で心を奪われた。
しかし、そもそもこんな場所へ来た覚えもなければ、記憶にあるどこの景色とも違う。まるで天国のように美しい場所だと考えた瞬間、ストンと腑に落ちた。
ああ、そうか、自分は死んだのだ――と。
何てことはない。
最後の記憶を思い起こせば、別邸での夕食で何か薬を盛られ、意識が朦朧とする中ドレスのまま母に海へ突き落とされたのだった。
薬の影響で魔法を使うことも出来ず、海水を吸って鉛のように重くなったドレスで泳ぐことも敵わないオフィーリアに、なす術はなかった。
あのまま海の中で死んだのだとすれば、今現在天国のような場所で神様と名乗る人物が目の前にいることにも頷けた。というか、そうとしか思えなかった。
「いやいや、お主は死んでおらんよ」
「え?」
不意にそんなことを言われ、オフィーリアは固まった。
神様のいる天国のような場所に来ているのだから、寧ろ死んでいなかったらおかしい――いや、それよりも。まさか今、心を読んだ? とオフィーリアは慌てた。
「ふぉっふぉっふぉ、すまんのう。読んだ方が早いもんじゃから、つい癖でのう。止めるから怒らんでくれ」
「あ、いえ、怒るなんて……その、驚いただけで。本当に神様……なんですね?」
「然り。神じゃからのう、人の心を読むことも、魂を一時的に此方へ呼び寄せるなんて芸当もお茶の子さいさいなのじゃよ。お主は本当に死んでおらんから安心せえ」
「は、はい」
生きていると言われても、それが喜ぶべきことなのかどうか、オフィーリアには分からない。もちろん嬉しくないわけではないのだが、実の母に殺されかけたのだ。とても喜べそうになかった。
寧ろ、あの時に死んでしまった方がよほど楽だったのではないだろうか。実の母や弟妹に殺されかけた苦しみを背負いながら生きるなど、生き地獄以外の何でもないだろう。
あの瞬間を思い出しただけでも心が軋んで、今にもボロボロと崩れ落ちていきそうな感覚を覚える。
今、どうにか理性を保っていられるのが不思議なほどだった。
「まあ、それはさて置き。お主を呼んだ理由なんじゃが……ちと時間がないのでのう、駆け足になるが聞いてもらえるかな?」
「は、はい」
時間がないとはどういうことなのか。
気にはなったが、ここは素直に頷いておく。
神様は何処からともなくティーセットを取り出すと、慣れた手付きで二人分を淹れる。恐れ多くも勧められた紅茶に口を付ければ、香りが良くてほんのりと甘いそれに少しだけ気分が解れた。
「先ずは結論から言おう。先程儂はお主は死んでいないと言ったが、あの状況で助かったのは何故か。それはお主が『神』だからじゃ」
「………………はい?」
神様の突拍子もない発言に、オフィーリアは肩に頭がつきそうになるほど首を傾げる。
「正確には『魂』が、なんじゃがの」
「は、はあ……」
自分の魂が神様?
益々訳が分からない。
もはや何を聞けば良いかも分からないので、オフィーリアは紅茶をちびちびと飲みながら大人しく言葉の続きを待った。
「確か、お主の世界は多神教じゃったかの?」
「は、はい。様々な神が信仰されています」
「そうかそうか。中には一神教の世界もあったりするんじゃが、実際、神は無数におってのう。まあ、創ったのは儂なんじゃが」
「そ、そうなのですか?」
「うむ。分かりやすく言えば儂は最高神、あるいは創造神といった立場での。森羅万象を司る唯一無二の神なのじゃよ。……やっぱり自分で言うとめちゃんこ胡散臭いがのう」
「い、いえ……」
「おほん。それで、儂は遠い昔に自分の仕事を減らすため……ではなく。数多ある世界をしっかりと見守るため、新たに神々を生み出して儂の持つ権能――役割じゃな。それを任せることにした。例えば【生】や【死】、【知】、【愛】といったあらゆる権能をの」
「な、なるほど……」
多神教の起源が、創造神が自分の仕事を減らすためにあったという割と残念な事実に、オフィーリアは苦笑いを浮かべるしかなかった。
「その一柱が、先日、神を辞して人の輪廻転生の輪に加わりたいと申してのう」
「神様が?」
「うむ。長らく頑張ってくれた者で、認めぬ理由もないからのう、許可を出したんじゃよ。しかし、そうすると後任が必要になるのは言うまでもなかろ?」
「そう、ですね」
「前回はまだ世界がろくに育っておらんかった故、今おる神々は儂が手ずから創り出したのじゃが……今回は試しに【人神】を創ることにしたのじゃよ」
「人神、ですか?」
聞いたことのない単語に、オフィーリアは反射的に尋ねる。
必要以上の勉強量を強制されてきたせいで食傷気味のオフィーリアだが、元々勉強は嫌いではない。寧ろ知識を得る喜びがあったからこそ、長年に渡り励んでこられたのだ。
「うむ。人神とは、人の魂を儂の力で神へと昇格させた者のことを言うての。元は人であるものの歴とした神なのじゃよ」
「なるほど……凄い方なのですね」
「それがお主でのう」
「へっ!?」
突然話の矛先が自分へ向いて、オフィーリアは素っ頓狂な声を上げてしまう。
慌てて両手で口を塞ぐものの、神様は愉快そうに笑っていた。
「お主の魂が実に理想的だったんじゃよ。お主は何度も輪廻転生を繰り返しておるが、魂がとても清らかでのう。穢れを知らぬ清らかな魂というのは、宇宙広しと言えどそう在るものではない。普通は何度も輪廻転生を繰り返す内に、大なり小なり穢れていってしまうものじゃからなあ。故にお主の魂を見つけた時はそれはもう即決じゃった」
「そ、そうなのですね……光栄です」
とてもいい笑顔で、グッ! と親指を立てる神様に、何と言っていいか分からないオフィーリアは曖昧な笑みを浮かべる。
「ちなみに、今のお主に記憶はないじゃろうが、ちゃんと許可は取っておるよ」
「! そ、そうでしたか……」
何でも、前世を終え天界へ戻って来た際に神様とは一度話をしていたのだそうだ。転生すると前世の記憶は全てリセットされてしまうらしく、今のオフィーリアに記憶はないが。
しかし、普通に考えれば光栄なこと――なのだろう。
仮に今、改めて神化への是非を聞かれたとしても特に断る理由もない気がする。
まあ、そんな大役が自分に務まるのかと恐縮はするだろうが、頼まれれば断れないのがオフィーリアだ。どの道きっと話を受けていただろう。
「お主という清らかな魂を得られたことは幸いじゃった。しかし、神の仕事は時に残酷な決断を下す必要もある。清らかすぎても神としては些か心配でのう。故に儂は、お主の魂を神へと昇格させた後、人としての最後の生へ送り修行をさせることにしたのじゃよ。さすれば此度の記憶を保持したまま神となる故、厳しくも優しい良き神となれるじゃろうと」
「! それは……」
「……王家というのは、実に理想的な環境じゃった。常に難しい選択を迫られる立場じゃからのう、良い経験を積めるはずだと思ったんじゃよ。それに、賢者と聖女の称号を持つ者が親であれば申し分ないと、そう思っておったのじゃが……。まさかこんなことになるとは……」
頭痛を堪えるかのように、こめかみを押さえつつ神様は言った。
対してオフィーリアも、衝撃的な事実に開いた口が塞がらない。
まさかあの家に、両親の下に生まれたことが神様の思し召しであったなんて、と。
しかも、話を聞いた限りではオフィーリアを待ち受けていた運命に関しては神様も知らなかったようだ。実の母に殺されかけるという、あの惨たらしい運命を――。
森羅万象を司るとはそれ即ち、運命さえも神の掌の上ということ。知らなかった、などということがあり得るのだろうかと、オフィーリアは純粋に疑問を覚える。それこそ、
「全て、神様のご意志だった……わけではないのですか?」
そう邪推してしまう程度には。
「そう思うのも無理はない。今回のことは手間を惜しんだ儂に全ての非があるからのう……。地神に見守りを頼んでおった故に、それで十分じゃろうと思うてお主の運命までは視なかったのじゃよ。本当に悪いことをした」
「っ!? い、いえ、頭を上げてください!」
この世界――いや、あらゆる世界で最も尊いであろう神に深々と頭を下げられて、オフィーリアは慌てた。
仮に、母に殺されかけることさえも神の意向であったなら。流石のオフィーリアも、この場を借りて一個や十個や百個くらいは文句を言っただろう。
何故、そこまでしなければならなかったのか――と。
しかし、テーブルに額が着くほど深々と頭を下げる神様を見れば、それが決して故意ではなかったのだと理解出来る。
そうでなくとも、人の良さそうな顔をした神様がわざわざそんな仕打ちをするとは思えなかったし、思いたくもなかった。
居た堪れないこの空気をどうにかしたくて、オフィーリアは話を逸らすことにした。
「あ、あの! 地神様とは?」
「……ああ、地神はのう、それぞれの世界にいる監視役の神なのじゃよ。神は儂が最高神として、上級神、中級神、下級神、地神と格が在ってのう。ちなみにお主は上級神じゃ」
「えっ!?」
「地神が泣きながら連絡してきた時は何事かと思ったわい。ほんの少し目を離した隙にお主が死にかけておったそうでの……それはそれは慌てておったわ」
「そ、そうでしたか。それは地神様に申し訳ないことを……」
神様に頭を下げさせただけではなく、まさか知らぬところで泣かせていたとは。
何だか頭が痛くなってきた気がして、オフィーリアはこめかみを押さえた。
「ふぉっふぉっふぉ、お主が謝ることはない。あやつの部下に当たる海龍がお主を助けてくれたお陰で、今こうしてことなきを得ておるのじゃから」
「! 海龍様が私を助けてくださったのですね……」
「うむ。そんなこんなでお主は助かったんじゃが、これは流石に説明しておかねば支障が出兼ねんと思うての。此処へ呼んだのじゃ」
「そうだったのですね……ご配慮、痛み入ります」
上手いこと話を逸らせた上に、自分が神の元へ呼ばれた理由を知って、オフィーリアは安堵から小さく息を吐いた。
何が分からないかも分からぬ状態でひたすら聞きに徹していたオフィーリアだが、何とか事態は飲み込めた……と思う。
まあ、想像を遥かに超える事態で、心は到底追い付いていないけれど。
「そこで、じゃ。お主はどうしたい?」
「えっと……?」
「一応、前世のお主には許可は得ておったのじゃが、如何せんこんなことがあったからのう……。生を全うして戻って来たら、約束通り神になってくれとは図々しくて言えんよ。お主が望むのであれば人の魂へと戻すつもりじゃ」
神様は白髭を撫でながら溜息混じりに告げた。
いわく、今回の生を全うして天界へ戻ればオフィーリアは神となるらしいが、そうすると今回の記憶が丸々残るらしい。
というのも、立場、価値観、経験値。それが人神の利点であるからだそうだ。
オフィーリアも今回のようなことがなければ問題はなかったのだが、記憶が残ったまま神となるには辛すぎる経験をしてしまった。
つまり、神様は約束を反故にしてもいいと言ってくれているのだ。
人として輪廻転生の輪へ戻れば、次の生では記憶もリセットされるから。
オフィーリアはカップの中で揺らめく紅茶を眺めながら考える。
「一つ、お聞きしたいのですが……」
「うむ、何でも聞きなさい」
「今回の件で、私の魂は穢れて? いないのですか?」
「そのことなら問題はない。今なおお主の魂は綺麗なままじゃよ。驚くべきことにのう。実際、お主は母を恨んでなかろう?」
「……そう、ですね」
実の母に殺されかけたことは、オフィーリアの心に大きすぎる傷を刻んだ。そうでなくとも、これまでの厳しすぎる教育によって、元々母には畏怖の念を抱いている。
仮に今後母と再会することがあれば、正気でいられる自信はなかった。
きっとあの日のことが甦り、自分はパニックを起こすだろう。
しかし、恨んでいるのかと言われるとそれも違う。
どちらかと言えば無才であった自責の念が大きく、弟妹のように愛してもらえなかったことも仕方がないと思っている。
――いや。寧ろ愛されていたからこそ、あそこまで追い込まれたのかもしれない。幼い頃は、父も母も可愛い可愛いと飽きるほど可愛がってくれていたのだから。
その期待を裏切ったのは自分なのだから、恨むなんてお門違いだとさえ思っている。それがオフィーリアだった。
しかし……いくら考えても、今この場で結論を出すことが出来ない。ただでさえ情報過多で頭がパンクしそうなのだ。そんな状態で何十年も先のことを決めるには、頭も心もこんがらがり過ぎていた。
「……あの、直ぐに答えを出さなければ駄目でしょうか? 人としての生を終えた後に神としてのお役目につくのであれば、この生を終えるまで……考える時間を頂けないでしょうか?」
人の魂へと戻してもらえば悩むこともないのだろう。
だが、一度請け負ってしまった以上簡単に放り出すのも信条に反する。これはただの口約束ではない、神様との約束なのだから。
何より、ここであっさりと逃げてしまえば、これまでの人生を自らも否定してしまう気がして嫌だった。
「うむ、それもそうじゃなあ……。別に急ぐ訳ではないからのう」
自分で淹れた紅茶を飲み、神様はのほほんと答えた。
「! ありがとう、ございます。ここから戻ったら修行と思い、頑張って生きます。ですが、もしも……もしも、生を終えるその時まで辛い記憶に縛られたままであったら……申し訳ありませんが、どうか私をただの人間へ戻してください。きっと神には相応しくないですから……」
「うむ、お主の希望通りにしよう」
神様が優しく微笑んで頷き、安堵したオフィーリアは再度深々と頭を下げる。その瞬間、視界に入った自分の体が何だか透けていることに気付き、ぎょっとした。
「む、そろそろ時間じゃの」
「?」
「お主の体が神の器として成熟し、目覚めの時を迎えようとしておるのじゃよ。何分、肉体が不完全な状態で死にかけてしもうたからのう……今、お主の肉体は深い眠りに就いておる。それを利用して魂のみを此処へ呼んだのじゃ。目覚めれば魂は自然と肉体へ戻る」
「な、なるほど……」
相槌を打ってみたものの、正直よく分かっていない。
時間がないらしいので、これ以上の疑問を挟む余地がなかっただけだ。
――というか、十中八九時間が限られていたのはこのせいなのだろう。目覚めるまでの隙間時間を利用して、神様は自分をこちらへ呼んだのだ。
何でも出来るはずの神様ならば起きている時に呼ぶことも可能なのだろうが、たぶん気を遣ってのことに違いないとオフィーリアは思った。
「肉体が神の器として成熟したことで、お主は神としての力を振るえるようになる。上級神である【愛】の神として、大いなる力をの。目が覚めたら修行の一環と思って自由に力を使ってみなさい」
「えっ!? いえ、でも……」
「ふぉっふぉっふぉ、心配かの? あんな目に遭ってもなお穢れを知らぬお主なら大丈夫じゃよ。きちんと正しきことのために力を振るえるじゃろう。それに、少しくらいやらかしても儂がどうにかするでの、へっちゃらじゃよ」
「は、はい……」
そこまで言われては嫌とも言えない。
それに、つい今しがた頑張ってみると宣言したばかりなのだ。今度こそ人の期待に応えたいとオフィーリアは気を引き締めた。
と同時に、オフィーリアの体が淡い光を放ちながら透けていく。まるで夢の世界へ誘われるように、ふんわりと意識が遠退いていく。
ああ、魂が肉体へ戻るのだ――と、直感で分かった。
「それでは、またの」
「あ、ありがとうございました……!」
神様がニコニコと微笑みながら手を振る。
再びやってきた心地の良い微睡みに身を委ねながら、こんな祖父がいてくれたら、きっと心強かっただろうなぁ……なんて思いながら、オフィーリアは意識を手放した。
オフィーリアを見送って暫し。
何処からともなく創造神に声をかける者がいた。
「――あの紅茶、一服盛りましたね?」
責めるでも揶揄うでもない、淡々とした若い男性の声。
そんな声の主を振り返ることなく、温くなった紅茶に口を付けてから創造神は答えた。
「人聞きが悪いのう。傷付いた魂を癒して、心が元気になるようにちょこっとおまじないをかけただけじゃよ」
「だいぶ亀裂が入っていましたからね。確かに、あの清らかな魂を失うのは惜しい」
「じゃろ?」
「ええ、愛の神を継ぐに相応しい魂です。見目も申し分ない」
「まあ、そこはオマケじゃが……」
「美しいに越したことはないでしょう。私も同僚として頻繁に顔を合わせる事になりますから、どうせなら美しい者の方が有難いです」
「お主はブレんのう……」
やれやれと溜息を零す創造神に、悪びれる様子もなく声の主は言った。
「それはそうと。【審判】は多忙ですから私が代行を務めますが、あの者らの処分は二級でよろしいのですか?」
「うむ、その方が彼奴らには罰になるじゃろうて。まあ、お主に任せるよ」
「そうですね。では、そのように」
声の主は姿を見せることのないまま早々に立ち去り、辺りには心地の良い静寂が戻ってくる。手元にやって来た小鳥を愛でながら、創造神は誰にともなく呟いた。
「能力など関係なく子を慈しんでおれば、今頃あの者は望む全てを手にしておっただろうに……ほんに愚かなことよ。知らなかったで済まされるほど、この罪は軽くないぞい」