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06. 秘密の温室庭園

 

「ここって……?」


 アッシュに抱きかかえられて連れてこられたのはエルダー園芸店にはない施設。学園に三年も通っていたというのに、その存在すら知らなかった。


 ただの温室であれば、エルダー園芸店にもある。魔法のあるこの世界で、その施設が必要なのかとも思うが、実際に気候や気温の変化をコントロールし続けるのは難しい。それが広範囲なら、なおさら。


 その温室庭園は堂々と存在していた。


 ……だというのに、今まで知らなかったのは、なぜなのか?


「ここは出入りできる人間が限られているんだ」


 なるほど、とリアは頷いた。

 この場所一帯に領域魔法がかけられている。この施設を隠すかのように。


 手も触れず、自動で開いた入り口に驚き、キョロキョロと周囲を見回す。まだアッシュはリアを抱えたまま。

 アッシュは呆気にとられているリアの様子を見てクスリと笑った。


 温室庭園内に入ると、ほわっとした暖かさに包まれる。アッシュは慣れたようにスタスタと奥まで続くタイルの道を歩き続けた。


「――さぁ、着いたよ」


 リアがゆっくり下ろされたのは、洗練されたデザインのふわふわなソファの上。


「うわぁ……」


 辺りを見回し、思わず、感嘆のため息をもらす。


 ドーム状のガラス屋根からは陽の光がもれ、青く澄み渡った空が見えた。そそぎ込む光に照らされ、綺麗に整えられた花や葉がキラキラと輝いている。

 そして、庭園の中心には細かく柔らかな水しぶきをあげる噴水が心地よい水音を奏でていた。


(なんて素敵な場所なの……!)


 せわしなく首と視線を動かすリアに、アッシュが上がってしまう口角を隠すように手のひらで覆い、息を漏らした。


「気に入ってくれたみたいで嬉しいよ。きっとリアは好きだと思った」


 優しく目を細めたアッシュは、リアの隣に腰かけて話し始めた。


「学園に通っていた時からずっと、ここにリアを連れてきたかったんだ。僕が卒業して、リアが学園に通っていた時、すぐにでもこの場所を教えてあげたかった」


 先ほどまでの柔らかい笑顔が、すぅっと消えた。


「リアが辛い思いをしているだろうと思っていたのに何もしてあげられなくて……本当にごめん。辛い時ほど側にいてほしいものだよね」


 リアは小さく首を振った。


「ううん。辛かったのは最初だけ。何だかいろいろと吹っ切れたら、悪役に徹するのも楽しかったわ」


 リアは、ふふっと口元に手をあてて笑う。予想外の反応だったからか、アッシュは目を丸くした。


「だって、おかしいのよ? ローズマリーは自分が私にされたってことを本当にされると、慌てすぎてボロが出ちゃうんだもの」


 思い出したようにお腹を抱えて笑い始めたリアにアッシュもつられて微笑む。


(……知ってる。君のことは、何でも全部――)


 離れていてもリアの様子は常に見守られていた。もちろん、王太子の婚約者だったからだ。

 そして――それを()()()()報告させなかった。


「僕が()()()()()()になるために、卒業してからも修業していたのは知ってるよね?」

「う、うん……」

「……ん? リア?」


 まさか忘れていたとは言えない状況にリアは視線を左右に揺らす。その様子を見て悟ったアッシュはジトリとした視線をリアに向けた。


「まさか……忘れていたの?」

「ご、ごめんなさい! あの時、日々を乗り越えるので精一杯で……」


 アッシュは眉を下げ、大きく肩を落とすと、息を「はぁー」っと吐き出した。


「大丈夫――仕方がないよ。僕も側にいてあげられなかったわけだし……」


 申し訳なさそうにうつむいているリアの背中を、ポンポンと優しく弾く。顔を上げたリアにアッシュは微笑んだ。


「リア。君には知っておいてほしい。僕には『姓』がある。それと――継がなければならない、()()があるんだ」




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