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魔法の花屋は、今日も花言葉に想いを込める  作者: 夕綾 るか


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57. 隠された真実


「ウィステリアは――屋敷(ここ)にはおりません……!」


 ゼフィランサスは何とかこの場を切り抜けようと『嘘』をつく。


 何としてもここを乗り切り、ウィステリアの元へと行き、急ぎ『予知』をさせればいい。起こることが分かっていれば、どうにでも手は打てる。


 ふと赤い護衛騎士の後ろにいた侍女が目に入る。騎士服のマントで隠れていたのか、そこに人がいるとは思ってもいなかったゼフィランサスは、彼女の顔をジッと見つめた。


 その侍女もゼフィランサスと瞳を合わせる。その視線を辿った赤の騎士が顔だけを動かし、肩の後方にいる侍女を見た。


 赤い騎士の視線を感じ取ったのか、その侍女は、ゼフィランサスから視線を真っ赤な瞳へと移す。

 そして、少し背伸びをするように、口元を赤い髪がかかった耳元へと寄せた。


 侍女が短く何かを囁くと、小さく頷いた赤の騎士が今度は赤の公爵へと耳打ちをする。薔薇柄の扇子で遮られてしまい、ゼフィランサスからその口元は見えない。


「そう……侯爵がおっしゃるのなら、きっとそうなのでしょう。ただし――」


 再度、パシリと扇子を閉じると、ルビーのようにキラキラと輝く瞳をゼフィランサスへと向けた。


「その発言が虚偽であった場合、覚悟はよろしいのかしら?」


 ゴクリと喉を鳴らす。ゼフィランサスの顔には、尋常ではないほどの汗が流れ落ちてくる。


 公爵といえど、相手は王族。

 王族に嘘偽りを述べるなど、重罪。奪爵(だっしゃく)もしくは取り潰し――。


 ゼフィランサスの背中に伝う汗は冷たい。


「ご存知かとは思いますが――。我がハートラブル公爵家が、何を司っているのか」


 美しく整った笑顔を向け、真っ青になったゼフィランサスの顔を公爵の真っ赤な瞳が映す。


「言質は――いただきましたわよ」


 ゼフィランサスの身体が小刻みに震え出す。


 ハートラブル公爵家は――諸々の問題を解決する『司法』を担う。ありとあらゆる書面から証拠集めまで、完全な形で、完璧に執行する。


 今さら『嘘』だとは言えるはずもない。


 その時――。鳴り響いたノック音。


「エルダー園芸店でございます。本日の作業で少々確認させていただきたいことがございます」


 ゼフィランサスは眉をしかめた。こんな時に……しかも公爵が来ているというのに。一体、誰がこの部屋まで案内したのだ、と怒りが湧いてくる。


「お父さま? いらっしゃるのでしょう? お話がありますの!」

「なっ……。ローズマリーか……?」


 扉の向こうから、明らかに場違いな愛らしい声が響き渡る。名前を呼ばれたことで入室を許可されたと勘違いしたローズマリーは扉を開いた。


「お父さま! これからはアッシュさ……彼に侯爵家の専属庭師として来てもらえるようにしていただきたいの!」


 勢いよく飛び込んできたローズマリーにゼフィランサスは息を呑んだ。恐る恐る目の前の美しい顔に瞳を向ける。


 ゼフィランサスの目に飛び込んできたのは、恐ろしいまでに温度の下がった冷酷な王女の顔だった。



 ◇◇◇◇



 ハートラブル公爵家での舞踏会の翌朝。


 夜明けと共に鳴り響く馬車の音で目覚めたローズマリーは、そっと窓の外を見た。


「こんな朝早くに……誰よ?」


 そこに止まっていたのは見慣れた馬車。侯爵家(うち)のものだ。


 そのままジッと見つめていると、馬車から降りてきたのは父、ゼフィランサスだった。そして、腕を引きずるように父が降ろしたのは――


「ウィステリア、お姉さま?」


 ――姉が、なぜ侯爵家に?


 しかし、沸き起こった疑問も目の前の光景を見てすぐに消えてしまう。


 姉が後ろ手に縛られている。


 あれではまるで罪人か何かのようだ。

 ローズマリーは昨夜の出来事を思い出し、思わず微笑んだ。


「きっと罰が下ったんだわ」


 姉が屋敷の中へと引きずられていくのを見つめたまま、ローズマリーはまだ眠い目をこする。

 外の人影がなくなったのを確認し、ローズマリーは再度、ベッドへ戻った。




 起きてから、姉の使っていた部屋へ行ってみるも姿はなく、朝食にも昼食にも見かけなかった。


 晩餐の時間になり、父ゼフィランサスが帰宅してから食事の席で聞いてみる。


「ウィステリアお姉さまは、今どちらに?」

「うっ、ごほっ……」


 ゼフィランサスが急に喉を詰まらせ、咳き込む。妻ロザリーが驚いて、そっと背中をさすった。


「なっ、何を突然……ウィステリアがどこにいるかなど、私が知るはずもない」


 父ゼフィランサスは胸を押さえながら、答えた。


 しかし、ローズマリーは確かに見たのだ。けれど父は姉のことを隠したがっている。

 ローズマリーは白く細い首をひねった。


 翌日になっても屋敷内から姉の気配を感じない。あれは夢だったのか――と思い始めていると、その次の日、屋敷の庭園にアッシュを見つけた。

 その隣にいつも邪魔していた姉の姿はない。


 庭師として働くアッシュに見惚れていると、屋敷内が急に騒がしくなった。従者や侍女たちが慌ただしく行き交っている。


「ねえ、何かあったの?」

「ああ、ローズマリーお嬢様。ええ、急なお客様がいらして……」

「急なお客様?」


 説明する間もなく、「失礼します」と頭を下げて、いなくなってしまった。


 ローズマリーは仕方なく今まで見ていた窓の外に視線を向ける。


「あっ……!」


 そこにはもうアッシュの姿はなくなっていた。


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