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魔法の花屋は、今日も花言葉に想いを込める  作者: 夕綾 るか


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51. 魔法の痕跡


「君か? 花を用意したのは」


 発生した問題の内容を詳しく聞くこともできず、急かすようにホールに入れられたリアとアッシュを王太子アドルフが待っていた。


 この状況に血の気が引き、頭を上げられないリアを背後に隠すようにアッシュは一歩、前へ出る。


「何か問題がございましたでしょうか?」


 アッシュに視線を向けたアドルフは「あっ」と、小さな声を上げた。


「君は確か、温室庭園の……?」

「ええ、庭師でございます」

「ハートラブル公爵邸も、君が?」

「さようでございます」


 顔を上げたアッシュにアドルフの隣にいたローズマリーが満面の笑みを向ける。しかし、アッシュは真顔のまま、王太子アドルフから瞳を逸らさない。


 アッシュと目が合わなかったローズマリーは頬を膨らませると彼の背に隠れるように頭を下げている人物に視線を移した。


「ウィステリア、お姉さま……?」


 彼の後ろにいた人物がびくりと肩を揺らす。

 ローズマリーの一言にアドルフもそちらを見た。


「ウィステリア、なのか……?」


 リアは観念したように大きく息を吸い込み、顔を上げた。


「お久しぶりでございます。アドルフ王太子殿下」


 質素なワンピースの裾を持ち上げ、平民の姿からは想像もできないような美しい礼をとる。


「ウィステリアって、あの?」「王太子殿下の元婚約者?」「態度が悪すぎて侯爵家からも追放されたっていう……?」「見ろよ、あの格好! あーやだやだ。あそこまで落ちぶれたくはないね」


 ホールのあちらこちらでヒソヒソと囁かれる声。聞きたくなくても、勝手に耳に入ってくる。


 耳を塞いでしまいたい衝動にかられるが、リアはスカートの布をぎゅっと握りしめることで耐えた。


 ふいにその手を包み込むような温かさを感じる。そちらの手のほうを向くと、アッシュがにっこりと微笑んでいた。――もう一人じゃない。誰かが側にいてくれることがこんなにも心強いなんて。今まで知らなかった。


 アッシュの隣でリアは堂々と胸を張った。


「何の騒ぎかしら?」


 フロアの中央に真っ赤なドレスを身に纏ったこの舞踏会の主催者が姿を現す。その斜め後ろには赤の騎士が先ほどとはまた違う騎士服に身を包み控えていた。


「ハートラブル公爵。お招きありがとう」

「お越しいただきありがとうございます。アドルフ王太子殿下。ところで――何かございましたでしょうか?」


 傍らで頭を下げている花屋の二人に視線を向け、ハートラブル公爵は王太子に問いかけた。


「この薔薇。魔法がかけられている。どういう意図があって魔法を遣ったのか、説明してもらおうかと思ってね」

「そうなんです! ひとつだけあった青い薔薇が、触れた途端、白い薔薇になってしまって……」


 突然会話に割り込んできたローズマリーに、公爵は無表情で目を向ける。


「だから――公爵家の花屋をこの場にお呼びになられた、と?」


 ハートラブル公爵がリアとアッシュの前に立つ。

 リアは問題を起こしてしまったことを叱責されるのではないかと覚悟を決めた。


 しかし公爵は、くるりと向きを変え、二人に背を向けると、アドルフとローズマリーの真正面に向き合った。


「この舞踏会の責任者は、この私ですわ。何かございましたら、まずはこの私を通していただけますでしょうか」


 ハートラブル公爵の有無を言わせないオーラに、その場にいた誰もがゴクリと息を呑む。


「それで? この花に魔法が……と、おっしゃったかしら? それは当たり前のこと、ですわ」


 赤の公爵は、真っ赤な唇を横に引いた。


「白い薔薇を『魔法』で“青く”染めたのですから。そこに魔法の痕跡が残るのは、当然のこと。それにしても――さすが王太子殿下の婚約者様になられただけありますわ」


 公爵はローズマリーに真っ赤な瞳を移すと、整い過ぎた笑顔を向けた。


「白い薔薇の中にあるたった一つの青い薔薇を見つけられるなんて」


 会場がザワリとする。

 その様子に公爵は扇子で口元を隠し、小さな笑いを漏らす。


「実は皆様にちょっとしたプレゼントをご用意しておりましたの。お伝えする前に王太子殿下のご婚約者様に暴かれてしまいましたけれど」


 ハートラブル公爵は残念そうに目を伏せた。

 彼女の言葉と態度にローズマリーの顔は少しずつこわばっていく。


「触れても“白”に戻らない、“青”の薔薇を見つけた方には『奇跡』が起きるように、とご用意した特別な薔薇ですのよ」


 公爵は近くのテーブルにある薔薇の中から一つの薔薇を取り出すと、アドルフへ差し出す。


「――問題は解決されたでしょうか、王太子殿下」


 アドルフが差し出された青い薔薇を手にすると、先ほどと同じ魔法の痕跡を感じた。――その魔法は間違いなく、害のないものだ。それどころか公爵が言ったように、本当に『奇跡』が起きてしまいそうなほど、心地のよい魔法。そして、いつかどこかで触れたことのある懐かしい魔法。


 アドルフはウィステリアに視線を送った。


 ――ウィステリアのはずはない。彼女は『魔法』を遣えないのだから。


 アッシュと手を繋いでいるリアの顔は、アドルフの知る“ウィステリア”とは違う。まるで別人だ。


 アドルフが今まで一度も見たことのないウィステリアが、そこにはいた。


 彼女には一体、いくつの顔があるのだろう。そして、どれが本当の彼女なのだろう。今さら知ろうとしたところで、もう遅いのだけれど。


 アドルフはそっと目を伏せた。そして、ゆっくり開けるとハートラブル公爵へと向き直る。


「公爵。騒ぎ立てて、すまなかった」

「いえ、誤解が解けて何よりですわ」


 事態が収束に向かうと、ホールのあちらこちらで飾られている薔薇の観賞が始まった。


「見つけたわ! なんて美しいのかしら……」

「まるで星がきらめく夜空のようですわ」

「こちらの白い薔薇も見事だ」


 集まる視線が対象を変えたのを見計らい、リアとアッシュに赤の騎士がそっと声をかけた。


「二人とも、こちらへ」


 今の彼から先ほどの不穏な空気は一切感じない。

 さすが公爵家の護衛騎士をしているだけのことはある。


 そう感心しつつも、リアには不安が残った。秘密をアッシュに話す前に、ジャックに話すことはしたくない。リアはジャックと少し距離をとった。


 先ほどとは違う部屋に案内され入室すると、それまで無言だったジャックが「はぁー」と大きく息を吐いた。


「リアちゃん、さっきはごめんね」

「え?」


 驚いて顔を上げたリアに赤の騎士は苦笑いする。


「態度が悪かったでしょ? 公爵様の用事を忘れててさ、怒られそうだったから」

「そうだったの、ですか……」

「うん。ところで、リアちゃん。あの青い薔薇は、もしかして――」


 やはり隠し通せなかった、とリアが思った瞬間。


「――『伝説』の薔薇、を作ってくれようとしたんじゃない?」

「へっ?」


 思わず出てしまった妙な返事に、アッシュさえも振り向く。ジャックは気まずそうに頭をかいた。


「いやさ、先にそんな話を聞いたら、何か新しい花の方がいいかもしれないと思っちゃうよね」

「ん……? え、ええ。そうですね」

「でも、よかったよ。間に合って」


 自分だけが話を読めていないのか。一体、何に何が間に合ったのか。理解できずにリアが首を傾げると、突然ジャックが真面目な顔をした。


「リアちゃんは知ってるの? 君の妹の『能力』」

「え……? ローズマリーの『能力』……?」

「そうだよ。『魔法の無効化』の『能力』のこと」


(――『魔法の無効化』? 一体、何……それ?)


 ジャックは、ふぅと息を吐き「その様子だと知らなかったんだね」と言う。


 リアには頷くことしかできなかった。



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