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魔法の花屋は、今日も花言葉に想いを込める  作者: 夕綾 るか


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46. 花に想いを込める理由


「ちょっと小耳に挟んだんだけど――」


 ストックの花束をハートラブル公爵の部屋に飾り付け、今日の仕事を終えたリアの耳元にジャックが口元を寄せる。

 すかさず、アッシュが間に滑り込んだ。


「近い。離れろ」

「ごめん、ごめん。……分かったから!」


 アッシュの瞳が一瞬、キラリと光ったのを確認し、背筋を震わせたジャックは苦い顔をした。


「それで? 何を小耳に挟んだって?」


 アッシュはリアを背に仁王立ちし、腕を組んで、ジャックを睨みつける。「落ち着けって!」と両手を開いてみせたジャックに、話の続きを急かした。


「リアちゃんの元ご実家。今、ちょっと大変みたいだね」

「ああ……それは……」


 当たり前――と言いかけて、リアは呑み込んだ。

 なぜならリアには、心当たりがあったからだ。


 そろそろだと思っていた。八侯爵家による総会。そこで提出する書類を見て、父はきっと初めて知るのだろう。昨年度が大幅な赤字だったことを。


 すべてはリアが前の記憶を完全に取り戻し、『悪役令嬢』を演じ始めてから起こったことだ。

 とはいえ、リアが何かをしたのではない。


 ()()()()()()()、のである。


 リアが隠している能力。それは――『透視』。


 ただし、問題が起こっている場合のみ、遣える力なのだ。そして、それに関係する人物と直接、瞳を合わせなければ、()()ことはできない。


 記憶を鮮明に思い出してから、今までしてきた『透視』をやめた。正確に言えば、()()()()()()()をやめた。


 リアの『魔法』も、『能力』も、家族の誰一人、知らない。――いや、知ろうとしなかった。リアには興味も、関心も、なかったからだ。


 それでも家族だからと、ずっと陰で支えてきた。


 問題が起こっている土地があれば、そこの話題を出してみたり。大きな損失を出す商談と分かれば、『魔法』を遣って相手を屋敷に来られなくしたり。


 昨年あった、鉱山の事故。本当は防げていたはずだった。あの時、自分が『悪役令嬢』をしていなければ、多くの人を救えていた。リアは、あの事故のことだけは自分が許せなかった。


 父ゼフィランサスに避けられ、あまり会えていなかったとはいえ、会えたときにその瞳を見つめればよかった、と。いくら母を見つめてくれなかった瞳だから、と――逸らしていたのは、自分も同じだ。


 そのせいで多くの人を失った。それは、物語でも何でもなく、紛れもない事実。


 だから、リアは花に想いを込める。弔いにはならないかもしれない。けれど少しでも花屋に来る人が幸せになれるように、そして、悲しみが癒えるように、と祈りを添えて。


 本来であれば、侯爵家を除籍されて、追放された時点で、修道院へ行こうとしていた。そこで祈りを捧げようと思っていたのだ。

 しかし、アッシュが迎えに来たことで花屋を手伝うことになった。花屋にはさまざまな人が花を買いにくる。中には、供える花もある。


 毎月、あの事故があった日に、リアはその場所の近くまで行き、薄紫と白のシオンを花束にして捧げている。


 『遠くの人を想う』、『あなたを忘れない』という花言葉を持つ、シオンの花に祈りを込めて。


「リア?」


 背中の後ろで黙ったままのリアに、異変を感じたアッシュが振り返る。呼ばれた声にハッと反応したリアを見て、ホッと安堵の息を吐いた。


「侯爵家でのことを思い出していたの?」


 アッシュにはすべてお見通し、だ。

 リアは、小さくこくんと頷いた。


「除籍されたとはいえ、家族には変わりない。そう簡単に忘れられるわけないよね。でも――」


 アッシュはリアの瞳を見つめる。ヘーゼルの瞳の中にリアの姿が映る。


「これからは、僕がリアの家族だ」


 リアとその場にいたジャックが大きく息を吸う。


「だから――今までの分も、僕が家族としてリアを愛していく。もちろん僕の妻としても溺愛していくつもりだから、覚悟してね」


 驚いて目を見開いたままのリアと、ポカンと口を開けたままのジャックに、アッシュが笑う。


「あー、えっと? 二人は……婚約したの?」

「そうだよ」


 我に返ったジャックが質問すると、胸を反らし、満足げにアッシュが頷いた。


「さあ、リア。仕事も終わったことだし、帰ろう」


 アッシュは呆然としているリアの手を引き、荷馬車へと連れて行く。


「ああ、二人とも! 婚約、おめでとう!!」


 また今度お祝いするね、とジャックが手を振る。手を繋いだままのリアとアッシュは、お互いに目を見合わせると、微笑み合った。


「「ありがとう!!」」


 重なった瞳と、重なった声に、二人は幸せで胸がいっぱいになるのを感じていた。




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