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魔法の花屋は、今日も花言葉に想いを込める  作者: 夕綾 るか


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37. ヒマワリの花言葉は


『君に永遠の愛を誓うよ。ずっと一緒にいよう?』


 あの台詞を聞いてから、すでに5日。

 この5日間は、いつものお決まりの台詞だった。


『リア、迎えに来たよ! ねえ、もうそろそろ一緒に暮らさない?』――と。


 アッシュにとって、あれは『愛の告白』などではなかった。これからも永遠に家族でいよう、だからずっと一緒にいよう、という意味だったのだ。


 カウンターにある5つの花瓶。5つ目の花瓶には5本のヒマワリが朝日に向かって綺麗に咲き誇っている。まるで太陽に笑いかけているみたいだ。


 リアはドアにかけられた木札を『営業中』に回転させて、鍵を開ける。


 すると――いつものように、いつもの青年が一番最初に飛び込んでくる。

 そして、一輪のヒマワリを手に、いつもの台詞を言うのだ――。


「リア」


 アッシュの手には、()()()ヒマワリ。


「え……?」


 ポカンと呆気にとられているリアに、アッシュは手にしている3本のヒマワリでできた花束をそっと差し出した。


「あの日のヒマワリをカウントしようか、迷ったんだけど。やっぱり、花言葉なら『花束』だからね。僕があと2日、待てなかった。1日も早く、リアと一緒にいたい。だから今日、あの日の分のヒマワリを渡すよ」


 あの日――。

 幼い二人が約束をした日。そして、もうひとつはアッシュが迎えに来てくれた日。

 ――あの2本のヒマワリのことだ。


 アッシュはあの日と変わらない少し照れた表情で、リアに差し出している花束に視線を向けた。


「3本のヒマワリの花言葉は――『愛の告白』。僕はすでに2回、リアに告白しているよね?」

「え……?」


 ――そうだった。1回目は、ここに来た日に。


『初めて会ったその日にリアを好きになったんだ』


 あれは――“家族として”という意味だとばかり、思っていた。あの頃は家族に虐げられていたから。アッシュが気遣ってくれているだけだ、と。


 そして、その2日後。ここに来て3日目に『一緒に暮らそう? 僕はリアのことが好きだから、心配で夜も眠れない』と、そう言っていた。


 あの時は単純に、お嬢様が突然、一人暮らしなどできるはずがない、という意味だと思っていた。


 今、思い返せば、7本目の『密かな愛』も、11本目の『最愛』も、2回ずつあったような気がする。


「あ……!」


 そうだ。99本目も……あったのだ。97本だった、その日に。

 花言葉を意識していなかったのは、自分だ――。


 そして今、花瓶には105本のヒマワリ。


 目の前から人懐っこい笑顔が消えていた。リアの瞳には柔らかな栗色の髪が映る。


 リアの前に跪いたアッシュが、3本のヒマワリを捧げる。


「リア。僕はリアのことだけが今までもこれからも大好きだから――」


 合わせて、108本のヒマワリ。その花言葉は――


「結婚しよう」


 リアの瞳が涙であふれる。


「だから――店を出ていくなんて、考えないで」

「……え?」

「違うの? ジャックが……そう言ってたんだ」

「ジャックさんが……?」


 確かに考えてはいたが誰かに話したことはない。


 ――それをなぜ、ジャックが知っているのか?


 藤色の瞳に溜まっていた涙が、流れ落ちるよりも前に、急速に乾いていく。リアは動揺する心を落ち着けるように大きく深呼吸した。


 ――やっぱり彼は物語を知っているのだ。そしてきっと、結末も。


 もはや、この胸の鼓動が不意打ちのプロポーズを受けたことによるものなのか、彼が知る結末が何かという不安な気持ちからくるものなのか、分からずにリアはただ呆然としていた。



 ◇◇◇◇



 返事を聞こうにも放心状態のリアに言い出せずにいたアッシュに、「そうだ!」と名案が浮かんだ。


「今から新店舗に行かない?」

「えっ?」


 今までずっとリアを連れて行かなかったのには、理由があった。もうすでに新店舗は完成し、あとは引っ越しとここから花を揃えて持っていくのみだ。


 リアの顔がみるみるうちに笑顔に変わる。それにアッシュは満足げに微笑むと「じゃあ、決まり!」と扉を開けた。


 荷馬車に積めるだけの花を積み込むと、ゆっくり出発する。リアの瞳はワクワクする気持ちを隠しきれていない。アッシュはチラリと横を見て、ゆるむ口元を片手で覆った。


「さあ、着いたよ」


 荷馬車に慣れたとはいえ、やはり長時間乗ると、あちらこちらが痛くなる。しかし、目の前の光景を見た瞬間、そんな些細なことはどこかに吹き飛んでしまった。


「うわぁ……!」


 アッシュはリアの好みを熟知している。 


 思わず感嘆の声を漏らしたリアに、思惑どおりとしたり顔をしたアッシュは、店舗の鍵を開けた。


「さあ、中へどうぞ。お嬢様」


 いつものようにジトリとした視線を向けたリアにアッシュはホッと胸を撫で下ろす。やっと元の調子に戻ったリアに先ほどの返事を聞いてもいいものか――と、アッシュは思案した。


「1階は店舗。2階は居住スペースになってるよ」


 基本的な配置は前の店舗と変えていないが内装や居住スペースの水回り、家具などすべて新しいものに交換してある。


 2階に上がると、不意にリアが呟いた。


「少し……広すぎない?」

「そうかな? これでも狭い気がするけど?」

「ええ? でも私一人だし、今の店舗くらいの広さが落ち着く――」

「――リア? 今、なんて?」

「え……?」


 急に真顔になったアッシュに、リアは動揺する。

 何か悪いことでも言っただろうか、とリアは今、自分が口にした言葉を反芻する。


「少し、広すぎる……私一人だから今の店舗くらいが落ち着く……」

「なんで、()()なの?」

「えっ?」


 アッシュがリアの前に立つ。リアの両手を優しく包み込むようにとると、視線を合わせた。


「僕はここでリアと()()で暮らしたいと思ってる。さっきの、返事を聞かせて? ……まあ、『はい』以外、聞き入れる気はないけど」


 リアが目を見開くとアッシュはニッコリ微笑む。


「僕は何度だってリアに求婚するから。幸い、999本まで、まだまだ時間はあるからね」

「それって……」


 999本のヒマワリの花言葉は――『何度生まれ変わっても、あなたを愛す』。


 アッシュはリアが頷くまで毎日、ヒマワリを一輪ずつ持ってくるつもりでいるのだ。


 それを聞いたリアの頬に、今度こそ、温かい涙があふれ流れた。



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