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魔法の花屋は、今日も花言葉に想いを込める  作者: 夕綾 るか


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25. 騎士の策略


「リア、リア……」

「んんっ……ん?」


 揺り起こされリアが意識を手繰り寄せると、目の前には人懐っこい整った顔とヘーゼルの瞳が今まで見たこともないくらい近くにあった。


「あ……アッシュ?!」

「おはよう。とても気持ちよさそうに寝ているから起こすの、躊躇っちゃった」


 悪戯にニッと笑い、アッシュは荷馬車からひょいと先に降りて、リアに手を差し出した。


「さあ、お手をどうぞ」

「ありがとう……」


(絶対に、寝顔見られてた……)


 少し赤く染めた頬を夕陽のせいにして、リアは何事もなかったかのようにその手を取った。


 店の鍵を開け、荷馬車から降ろした荷物を手早く運び入れる。片付けていると、あっという間に辺りは暗くなってしまった。


 ドアにかかった木札を裏返し、鍵をかける。今日の営業はここまでだ。

 リアはアッシュと一緒に閉店作業を始めた。


 いつも何だかんだと理由をつけてアッシュはしっかり食事までして帰る。――時々、帰りたくないと駄々までこねるのだが。


「じゃあ、リア。僕はそろそろ帰るね。戸締まりはちゃんとするように――」

「――え?」


 いつもと違う流れにリアが思わず声を上げると、アッシュは首を傾けた。


「ん? どうかした?」

「あ、うん。今日は食事していかないのかなって」


 アッシュは「何だ、そんなこと?」と少しホッとしたように笑った。


「さっき寝ちゃってたでしょ? 疲れているんじゃないかなって。もし食事していっていいなら、僕も一緒に用意するよ」


 アッシュはやっぱり優しい。リアは満面の笑みを浮かべて「うん!」と返事をした。



 二人で一緒に簡単な料理を作り、小さなテーブルに並べていく。

 いつも一人だった食事は、いつの間にか、二人になった。慣れていたはずの静かな食卓は、二人で他愛もない話に花を咲かせるようになっていた。

 もう、一人には戻れそうにない。


 リアは毎朝、アッシュから貰うヒマワリを生けてある花瓶から一輪とるとテーブルの中央に用意した小さな花瓶へと挿し込んだ。


 ここに来て約2か月。アッシュは毎日、ヒマワリをくれる。1つ目の花瓶はいっぱいになり、すでに2つ目に入っていた。

 アッシュのかける保存魔法は完璧だ。ヒマワリの花は今も綺麗な状態を保ち続けている。


「さあ、食べよう」


 いつものように向かい合って座る。リアはそっと手を合わせ、小さく「いただきます」と呟いた。


「リア、いつもそれやるよね。何かの(まじな)い?」

「え……?」

「ほら、ご飯が美味しくなる、とか?」


(そうか……確かに、この世界にはない習慣だわ)


 もしかしたら無意識に出てしまっているかも、とリアは改めて気を引き締めようと心に誓った。


「“(まじな)い”ではなくて、“感謝の気持ち”かな」

「“感謝の気持ち”……?」

「うん。自分が生きるために、生きる命を“いただきます”。あとは食材を作ってくれた人への“感謝の気持ち”。そして、一緒に料理をしてくれたアッシュへの“感謝の気持ち”」

「へえ……なんか、いいね。そういうの。僕もリアに“感謝の気持ち”を伝えないとね。いつも料理してくれてありがとう――いただきます」


 アッシュが顔の前でパチリと手を合わせる。こうしてさり気ない想いも共感できることがこの上なく嬉しい。小さなことだけれど、積もれば山となる。ほころべば穴は大きくなる。だから、些細なことが一緒だと安心する。


 ただ、リアの胸の中には何か引っかかっていた。思い出せそうで思い出せない、何かがある。


 それも食事を始めて、アッシュとの会話を楽しんでいる間にすっかり忘れてしまったのだった。



 ◇◇◇◇



「――どうだった?」

「ん。おおよそ、アッシュの予想通りだよ」

「そうか……やっぱり」


 リアとの食事を楽しんだ後、家に帰る途中のアッシュを赤髪の美青年が待ち構えていた。

 二人は歩きながら話を続ける。


「アッシュ、“あのコ”には気をつけた方がいい」

「“あのコ”って?」

「あの時、王城で会った“あのコ”さ」

「王城? ああ、アーネスト侯爵令嬢のこと?」

「そう」


 珍しく真面目なジャックの顔にアッシュは只事ではないと確信する。


「具体的に、どう気をつければいい?」

「うーん。今、僕から言えるのは……彼女はかなりヤバい“能力”を持っているかもってことだけだね」

「ヤバい?」

「ああ……えっと、“危険な能力”ってことね」


(どういうことだ? ジャックは詳しく話せないっていう意味でいっている?)


 ジャックの心を読むかのごとく、ジッと見つめてくるアッシュに、赤髪の美青年は苦い顔をした。


「やめてよ、それ……。分かったよ。これは多分、なんだけど。クレメンタイン教授の教員室にあった花は“彼女の能力”が関係しているかも」

「ええ……? 何だよ、それ」

「詳しく分かったら伝えるようにするけど……話せないこともあるからあまり期待しないでよ」

「……分かってる」


 ジャックとて公爵家に仕える身だ。ただの友人に、それも敵対する領地の者に言えることなどないだろう。ここまで話してくれただけでも充分だ。


「そこで、相談なんだけど――」

「え?」


 こちらを伺うように話を切り出したジャックに、アッシュはいつもと同じように怪訝な顔をする。


「あの話、実現させない?」



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