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魔法の花屋は、今日も花言葉に想いを込める  作者: 夕綾 るか


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24/60

24. 理想の夫婦


 ――ローズマリーは、アッシュを知っていた。


 その事実がリアの心を締めつける。


(アッシュは一体、何者なの?)


 自分も知らないアッシュの秘密をローズマリーが知っている。リアの不安や焦りにも似た嫌な鼓動はずっと続いたままだった。


 そんな元気のないリアに気がつかないアッシュではない。王城に行ったあの日からずっと何かに思い悩んでいることは分かっていた。リアに直接聞いたところではぐらかされてしまうのだが。


「そうだ! 今日はクレメンタイン教授の屋敷に花を届けることになっているんだ。教授は奥様に渡す花だけはリアに選んでほしいって言ってたよ」


 屋敷内の花の入れ替えも依頼されている。

 教授からの言伝を聞くと、リアの表情がぱあっと明るくなった。

 アッシュはなぜか複雑な想いを抱く。それは彼女を笑顔にさせるのはいつも自分でありたいという、独占欲からだ。


 愛妻家であるクレメンタイン教授に嫉妬するなど――アッシュは思わず自分自身の重さに苦笑いしてしまった。


 嬉しそうに花を選ぶリアを見て、少し安堵する。


 最近のリアは、ふと気がつくと花をぼんやり見つめて小さな溜め息をついていることが多かった。

 先ほどは嫉妬してしまったがこうしてリアを連れ出す口実をもらえクレメンタイン教授には感謝しかない。


 アッシュは他の場所に飾る花を選び始めた。



 ◇◇◇◇



 クレメンタイン教授の屋敷はハートラブル公爵領の一角にある。

 陽当たりも良く、綺麗に整えられた地にエルダー園芸店でも扱っていない豊富な種類の植物が、ゆらゆらと風に揺れていた。


「やあ、いらっしゃい」


 いつかの凍てつく視線とは真逆の温かな眼差しにリアはクレメンタイン夫人が順調に回復しているのだと、ホッと胸をなでおろす。


 教授の案内で屋敷の中に入ると、まだ建てて間もないと感じさせるかのように、どこも綺麗で設備も最新のものが揃っていた。


「ヘザー、入るよ」


 その扉の前で立ち止まると、教授は優しくノックをし、中に向かって声をかけた。


「ええ、どうぞ」


 招き入れられリアとアッシュが入室すると、そこにはすでに四人分の席が用意されていた。

 席のひとつに、ニッコリと微笑む夫人が腰かけている。その顔色はとても良さそうだ。


「いつも素敵なお花をありがとう。どうしても直接お礼を言いたかったのよ。だから、今日は主人にお願いして、あなたたちに無理をさせてしまったわ。ごめんなさいね」


 リアは小さく首を横に振った。


「さあ、二人とも座ってくれないか。茶でも飲みながら今日の花を見せてもらえるかな?」


 教授が腰かけたのを見届けると、リアとアッシュも席に着く。側にいた侍女がお茶と菓子を用意してくれた。


 少しいただいてから、リアは早速、持参した鉢を紹介する。


「本日はこちらをお持ちしました」

「これは?」

「グズマニア、です。観葉植物として鉢植えのまま、風通しがよいお部屋の中の明るい日陰に飾ってください」

「まあ、何て鮮やかで明るい色なの! こちらまで元気をもらえるわ」

「お気に召していただけて、幸いです」


 クレメンタイン夫人とリアが微笑み合う。


 その様子に教授は――もしも娘がいたら、こんな感じだったのだろうか、と想いを馳せていた。


 二人には子どもがいない。夫人は元々身体が弱く出産に耐えられないと判断された。それでも二人は夫婦になることを選んだのだ。


 二人は子どもがいないことを互いに口には出さずとも気にかけていた。夫は“妻が自分のせいだと思っているのではないか”と。妻は“夫に子どもを残してあげたい”と。しかし、想い合うだけで年月は経ってしまった。


 今、目の前には二人が夢に見た時が流れている。


 ずっとこんな時間が続けばと、いくら願ったとしても楽しくて幸せな時間は、無情にもあっという間に過ぎていった。いつの間にか傾きかけた陽射しにアッシュが気づき、「そろそろ……」と切り出す。


 クレメンタイン教授と夫人は残念そうな顔をしたが、リアが「また来ます」と言うと、たちまち笑顔に変わった。


 いくつかの部屋や廊下の花々を生け替えてから、二人に見送られ、荷馬車に乗り込む。

 ゆっくりと走り始め、しばらくするとアッシュは自分の肩に重みを感じた。

 そちらに視線を送り、思わずクスリと笑う。


「いい植物を選んだね」


 教授の屋敷から花屋までの帰り道。

 荷馬車に揺られて、気持ち良さそうに自分の肩を枕に眠ってしまったリアを見つめアッシュは囁く。


「グズマニアの花言葉は『いつまでも健康で幸せ』それと――『理想の夫婦』」


 いつか、あの二人のような『理想の夫婦』になれたら――と、アッシュは幸せな肩の重みに、そっと頬をつけた。


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