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魔法の花屋は、今日も花言葉に想いを込める  作者: 夕綾 るか


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22/60

22. 赤の公爵に、白い花を


 王城の廊下、片隅にて。

 

 どうにかしてアッシュを引き留めておきたいローズマリーと、これ以上、平民であるしがない庭師を関わらせたくないアーネスト侯爵の間で、しばらく押し問答していたのだが、思いがけない人物の登場により、アッシュとリアは窮地を脱した。


「――アッシュ?」


 その場に現れたのは、“赤”の騎士。

 いつもであれば、リアと一緒にいることを全力で阻止したい相手なのだが、今のアッシュには救いに思えた。


 しかし、彼が随伴する圧倒的存在感を放つ人物にその場にいる者は浅く息を呑み、深く頭を垂れた。


「ジャック。もしかして――?」

「ええ」


 視線を床へと落としているアッシュとリアには、二人の表情は見えないが、ジャックの柔らかな返事に、いつもの笑顔を連想させる。


「顔を上げなさい」


 言葉と話し方は優しいのだが声質に凛とした芯を感じる。まるで触れたらスパッと切れらてしまいそうなほどピンと張った糸が通っているかのようだ。

 侯爵の背中には冷たい滴がツゥと流れた。


 ゆっくりと顔を上げたアッシュとリアに向かい、彼女は整った赤い唇の両端をキュッと上げた。


「まあ、可愛らしいお花屋さんね」


 そういうと、二人と同時に頭を上げたアーネスト侯爵に視線を移し、一瞬にして表情を無に変えた。


「アーネスト侯爵。令嬢(レディ)を紹介してくださる?」

「ハートラブル公爵閣下。こちらが我が娘、ローズマリーでございます」


 侯爵とローズマリーは再度、頭を下げた。ハートラブル公爵は、顔色一つ変えず、ルビーを思わせるその真っ赤な瞳をローズマリーに移す。


「そう。あなたが王太子の新しい婚約者、なのね」


 宝石のような美しい瞳を上から下へと往復させると、さほど興味がなかったのか、すぐに視線を侯爵へと戻した。


「ねえ、侯爵。こちらの“お花屋さん”にはもう用事は済みましたの?」

「え、ええ……」

「ならば、私が貰い受けても構わないかしら?」

「え……?」


 その一言にアーネスト侯爵だけではなく、ローズマリーやアッシュ、リアも驚き、目を見開いた。


「“彼女”とは、もう関係はないのね? 除籍されたのは知っているし、もう王太子の婚約者でもない。それに――あなたは今、“彼女”のことを私に紹介しなかったし、すでに“お花屋さん”という認識でいるのでしょう?」


 この場に“花屋”は、二人いる。


 それなのにアーネスト侯爵はハートラブル公爵が『花屋を貰い受ける』と言った瞬間、ウィステリアを見たのだ。

 ハートラブル公爵はそれを見逃さなかった。


 そもそも、公爵が侯爵家の令嬢を知らないはずがないし、ウィステリアにおいては王太子の元婚約者である。知っていて当然なのだ。それなのに、わざわざ侯爵自身に娘を紹介させた。

 それが意味するのは――“彼女”が今、侯爵にとってどのような存在なのかを確認するためだ。


 それに――すでに侯爵家から除籍し、追放した娘を公爵家が『貰い受ける』とは。


 アーネスト侯爵は公爵の言葉を図りかねていた。侯爵家で厄介払いした者に公爵が興味を示すほどの価値があるとは思えなかったからだ。

 侯爵にとってウィステリアは魔法も遣えず、性格に難のある、ただの厄介者でしかなかった。


 アーネスト侯爵が何も答えられずにいるとハートラブル公爵が口を開く。


「こちらの花屋と少しお話しがしたいの。花屋の、()()()()()()()貰い受けても構わないかしら?」

「え……ええ、もちろんでございます」


(何だ、そういうことか……)


 侯爵は安堵した。公爵は()()()()()()()()()()貰い受けたいと言ったわけではなかったのだ、と。




 アーネスト侯爵とローズマリーがその場を去った後、ハートラブル公爵はウィステリアに向かって、優しい声をかける。


「その中から、私に花を選んでくれないかしら?」


 視線の先には廊下の花瓶に飾る前の花々がある。ハートラブル公爵といえば……家紋にもなっている真っ赤な薔薇が定番――なのだが。残念なことに、今ここに“赤い薔薇”はない。淡いピンクやきいろ、白の花しかないのだ。


 お気に召さないものを差し上げてしまったら、とリアは少し躊躇ったが、思いのほか優しさを含んだ声に、意を決して花を選び始めた。


 公爵とリアは以前、何度か会っている。もちろん王太子の婚約者であったから式典や夜会などで顔を合わせたり、妃教育の際、何日も王城に通っていたから、というのもある。


 ただその時の印象は――『怖い』だった。

 彼女の王城での呼び名は『赤の王女』。

 前世での、あの“物語”の女王、そのものだったのだから。


「こちらを、公爵閣下へ」


 リアが差し出した花は――


「これは――ヒヤシンス?」

「はい、おっしゃるとおりでございます」


 呆気にとられた公爵に、リアは口を横に結ぶ。


 赤の公爵に向かって、真っ白なヒヤシンスを差し出したのだ。対極とも思えるリアの選択にアッシュはゴクリと息を呑む。

 緊張に包まれた空気の中、公爵の隣に立っていた赤の騎士が満面の笑みを浮かべた。


「いやぁ……さすがだよ、リアちゃん!」

「え……?」


 今度はリアがポカンと口を開けてしまった。けれど、そんなことはお構いなしにジャックは続けた。


「僕はね、実は花言葉に強いんだ。白いヒヤシンスの意味……うん、とてもいいね! 閣下にピッタリだ」


 ジャックが口にした『花言葉』という単語に反応したアッシュが鋭い視線を向けた。


「――花言葉に強い? 初めて聞いたけど」


 ジャックは肩をすくめると、リアに問いかけた。


「白のヒヤシンスは『あなたのために祈ります』。『勝利』を意味する、ヴィクトリーからだよね?」


 リアは驚いたように目を瞬かせ、頷いた。


 ヴィクトリア・ハートラブル公爵に贈った花は、彼女の名にちなんだ『勝利』と、もう一つ。


 今も独り身を貫く、彼女への応援(エール)だ。



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