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14. 諸悪の根源は


 アッシュは考え込んでいた。


 クレメンタイン教授の教員室で見た花々の状態。――あれは何らかの魔法の影響を受けている。もしくは、意図的に誰かが魔法を遣っている。


(――誰が? 一体、何のために?)


 そして、あの後、教授から聞いたクレメンタイン夫人の様子も引っかかる。夫人が倒れたのは今から2か月前だったらしい。そのとき、何があったというのか。


 アッシュが戻ってきたのは、リアが卒業した後で今から約1か月前だ。ちょうどその時、教授の教員室を訪ね、彼の留守中に花を交換している。

 だから、あの部屋にあった、あの状態の花々にはアッシュによる保存魔法がかけられていたということになる。


 自分の保存魔法をも上回る魔法が遣われた。

 その事実だけでも納得がいかず、嫌な感覚がするというのに。――あの朽ち果て方。まるで『呪い』か何かのようだ。


 そして、1か月前といえば侯爵家から追放されたリアを迎えに行ったのも、ちょうどその頃だ。


(戻ってくる前の1か月、何があった?)


 その頃、()()()()()()()()()()()()()アッシュには知る由もなかった。




 ◇◇◇◇




 考えられる原因は、ただ一つ。

 ――何らかの抗争に巻き込まれた。


 魔法薬学の研究で成果を挙げ、陞爵(しょうしゃく)した。子爵から伯爵になり、ハートラブル領へと移ったことで気に入らない者たちがいたのだろう。

 愛妻家で名高いクレメンタイン教授の力を削ぐには夫人を陥れるのが一番効果的だ、と。


(許せない。どんな手段を使っても根源を特定し、相応の制裁を加え、排除しなければ――)




 エルダー園芸店の花屋からあふれるほどの花束を持ち帰ったハイデは未だベッドから起き上がることができずにいる妻ヘザーにそれを渡す。


「まあ……色鮮やかで素敵なハーブね」


 ヘザーは満面の笑みを浮かべた。

 今回の花にも“彼女の魔法”が遣われている。どんな魔法なのか、までは分からないのだが受け取ったときにも感じた温かさから悪いものではないということは分かる。


 ハイデは順調に回復している妻の様子に安堵しながらも、教え子であったアッシュの言葉がどうしても気にかかっていた。




「教員室に飾られていた花の状態に嫌な感覚がしました。少し……気になります。教授、何か思い当たることはありませんか?」


 アッシュに聞かれたクレメンタインは、手触りが良くなった顎に手をあて、記憶を辿る。


 ――約2か月前。ヘザーが倒れたときのことを思い返す。


 元は北寄りの王都に領地を持っていたが、陞爵を機に領地内で薬草を育てようと、植物の生育によりよい土地をハートラブル領に見つけ、ハートラブル公爵家と交渉し、移ったばかりだった。よって、


「考え得るのは、デスペード公爵。もしくは――」


 クレメンタインの脳裏に最悪の可能性がよぎる。ハートラブル公爵家と対立しているのは他の公爵家だけではない。


 そこまで出かかった名を口にできず呑み込むと、それを察した聡い元教え子はあからさまに苦い顔をして、目を細めた。


「なるほど。巻き込まれた、というわけですね」


 溜息を混ぜたように吐き出すと、一気に立て直し彼は真剣な瞳を教授に向けた。


「それだけ教授の研究が脅威である、という何よりの証拠にもなります。北のデスペード公爵閣下だけでなく……“彼ら”にとっても――」


 クレメンタインが静かに頷くと、元教え子はその人懐っこい顔に、ゆっくりと笑みを浮かべる。


「僕も――“彼ら”には、お返ししなければならない『借り』があるのです」


 両方の口角を上げたアッシュの顔は教え子だった頃の、すべてに一線を引くようなどこか冷めている青年の顔、そのものだった。


 クレメンタインの背筋に、何となく悪寒が走る。

 以前から感じていた。彼には――“何か”がある。魔力とは違う、『何か』が。


「教授。何か分かりましたら、僕にも教えていただけますか? 僕も花を調べて、原因が分かり次第、お伝えします」

「いいだろう。私からも頼む」


 アッシュの顔は一瞬にして元の穏やかなものへと変わり、小さく頷いた。

 

 


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