65.優柔不断な気持ち
結奈は俺の視線には気が付いていないみたいで、クラスの友達と楽しそうに会話を続けている。あまり見続けているとまた冷やかせられるかもしれないので視線を変える。
「はぁ……」
思わず大きなため息が出てしまう。本当は二学期が始まる時に結奈にちゃんと気持ちを伝えるつもりでいた。でも予想外の出来事が起きてしまう。
俺はしーちゃんが座っている方向に視線を向けるとこちらも楽しそうな顔で友達と話をしている。しーちゃんは学校に慣れてきた事もあり最近男子達の中でだんだんと人気が出てきたみたいだ。だから余計にでも妬まれるのだろう。
「なんでこうなったのだろう……」
笑顔で話しているしーちゃんを見て自らに言い聞かせるよう呟いた。しーちゃんは俺にとって大事な存在なのだ。だから結奈としーちゃんのどちらかを選ぶ事は出来ない。他人からすればただの優柔不断なだけだ。
「うぅぅ……」
朝からだんだんと気持ちが落ち込んできた。もちろん解決方法が見つかる訳もなく、項垂れているうちに、始業時間のチャイムの音が聞こえてきた。
午前の授業はいつもと変わらず過ぎていった。休み時間も特に変わった事はなく、結奈もしーちゃんも当たり前だがいつも通りで、一人俺だけが悶々としていたみたいだ。
気がつけば昼休みなったがあまり食欲がない。このままお弁当を食べず居たら不自然なのでこっそりと教室の外に出る事にした。
教室を出て誰にも会わずに暫く時間が過ぎた。
「ふぅ……」
心地良い風が吹き抜けて、思わず大きなため息が出てしまう。午前中の授業中はほとんど頭に入っていない、考えないようにしてもやはり無理だった。今直ぐに解決する訳ではないし、焦っても仕方がない事だが、分かっていても頭から離れないのだ。
「あれ、蒼生? こんな所で何してるの?」
ここは校舎の端にある外階段であまり人がいない所なので、予想外に名前を呼ばれて振り向くと原田が不思議そうな顔で立っていた。
「あっ、いや、別に何もしてないよ……」
「そうなの? でも凄く落ち込んだ様な顔をしているわよ。何か悩んでますって感じに見えるけど?」
「そ、そんな、ことはない……」
戸惑いながら否定しようとしたが言葉に詰まる。やはりかなり精神的にダメージがあるみたいで、いつもの様に強気の言葉が出てこない。
そんな弱っている俺を見透かした表情をして原田は苦笑いを浮かべている。さすがに中学時代から知っている中なので、なんとなく察したのだろう、少し間を空けて口を開いた。
「そうね……確かに蒼生はバスケに関しては凄いけど、恋愛になると途端にポンコツになるからね……どうするか迷っているのでしょう?」
「……うん、答えが出なくて」
原田のズバリな問いかけに何も反論出来ずに頷く事しか出来なかった。もともと曇っていた気持ちが更にどんよりと重たなっていきそうになる。
「ふふふ、そんな顔をしなくてもいいわよ。きっと二人とも分かっているわ、蒼生の気持ち。だから焦る必要はないじゃないかな、今の関係で」
「えっ……で、でも……」
意外な反応に驚いてしまう。笑みを浮かべている原田の顔を見てまさかそんな事を言われるとは想像もしていなかった。もっと厳しい事を言われると思っていた。
「もちろん、いずれはちゃんと答えを出してあげないといけないけど、しばらくはいいんじゃないの? まぁ、私は第三者だから責任は持てないけど……蒼生を含めて三人を知っている人間としては変に拗れて欲しくないからね」
戸惑いながら原田の顔を見ているとほんの少し気持ちが軽くなれたような気分になった。
「あ、ありがとう……」
「いつでも相談しなよ、それに蒼生は気軽に話せる女子がいないでしょう」
「そうだな……」
予想もしていなかった所に味方がいてくれた。俺達の関係を理解してくれている数少ない女子で、性格的にも頼りになる。ちょっとオーバーだけど今は女神様に見えた。
「ふふっ、やっと表情が明るくなってきたわね。あまり落ち込んだ顔をしないでよ、二人が心配するから」
「あぁ、分かった……」
返事を聞いた原田は安心した表情を見せて、俺も少し体が軽くなった気がした。時計を見ると昼休みの時間は残り少なくなっていた。
「そろそろ教室に戻ろかな。じゃあね、蒼生」
「お、おう、また放課後だな」
クルッと向きを変えて原田は軽い足取りで教室に向かい始める。俺は原田の背中を見送っていたが、一つ疑問が残った。
(あれ? でも何でわざわざここに来たんだ? それに俺が悩んでいたのを知っていたんだ?)
俺がここに来るのを偶然見かけたとしても悩みの事まで分からないはずだ。もしかしたら結奈から相談されていたのか?そう考えると何となく辻褄が合ってくる。
「ふぅ……しばらくはこのままでいいか」
気持ちに余裕が出来たにだろう、心の声が思わず出てしまった。今は答えが出ないというより出したくないのが本音なのだ。
本当に原田が相談されて、ここに来たのなら同じ事を結奈は思っているかもしれない。ちょっと都合良すぎる気がするけど、今はそう思う事にした。
もう一度時計を見るともうすぐ終わり時間になっていたので急いで教室に戻った。
教室に入るとすぐに結奈と目が合って、不安そうな表情をしていた。何か言いたそうな顔をしたが、俺が笑顔で手を振るとほっとした表情に変わった。
あの様子だと原田に相談していたに違いない。これ以上、結奈を心配させまいと暗い顔をしない様に過ごす事にした。




