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64.帰り道のいたずら

 練習試合の後、少しだけ練習をして帰る。普段とは違う事をしていつもより疲れたがいい経験にはなった。


「蒼生くん、さすがに今日は疲れたでしょう」

「慣れない事をしたからな……ど、どうしたの?」


 いつも通り結奈としーちゃんの三人で帰っている。突然、歩いていた結奈が覗き込む仕草で俺の顔を見るので驚いてしまう。

 今日はほとんど結奈と会話らしい会話はしていない、練習試合の前も別々に来たので隣りにいるのは一日の中で初めてだ。


「ふふっ、だって今日は蒼生くんの顔をちゃんと見てなかったからね」

「あ、え、っと、そうだな、結奈は忙しそうだったからな」


 悪戯っぽい笑みを浮かべている結奈を動揺してしまった俺は誤魔化す様に平静を装う。いきなり鼻と鼻が当たりそうな勢いで結奈の顔が目の前に現れれば慌てるのは当たり前だ。

 見る角度によればいきなりキスした様にも見える。たまたまそのタイミングで後方にいたしーちゃんの視線に入ってしまった。


「……ちょ、ちょっと、ゆ、ゆいちゃん、い、今、な、な、何したの? も、も、もしかして、キ、キスしてなかった?」

「はぁぁ……なんでだよ、する訳ないだろう、こんな所でするか?」


 しーちゃんの声に反応した俺は呆れた表情で否定する。なんでタイミングよく顔が近づい時に……と思いながら結奈と目を合わせるとまだ結奈の表情は悪戯モードままだった。


「ふふふ、だって今日はしーちゃんの方が蒼生くんと一緒にいる事が多かったでしょう? だから帰る時ぐらいね」

「うぅぅ、だからって……それは反則だよ」


 俺の声は無視される様に二人で話が進んでいる。結奈はどこまで本気なのか分からないが、しーちゃんは完全に信じ込んでいる顔で少し涙目になりかけている。

 結奈の顔を見れば信じてしまうだろうな……このままではいろいろと大変な目に合いそうな気がしてきたので早めに解決をしないといけない。


「結奈、もう頼むからしーちゃんを揶揄わないでくれよ」

「う〜ん、そうね、ちょっとやり過ぎたかな? さすがに私もこんな場所ではないわ。ごめんね、本当にキスしてないから安心して」

「ほら、結奈が謝っているだろう。本当に違うから、していないから大丈夫だ」


 結奈と二人でしーちゃんに冗談だと伝えるが、なんとなく俺は微妙な気持ちになった。とりあえず今はしーちゃんの誤解を解くのが先だ。余計な事を考えていたら解決しない。


「……ホント?」


 涙目になっていたしーちゃんが顔を上げて俺と結奈を見つめる。ウルウルしたしーちゃんの目が可愛らしいくて胸が痛くなる。

 元々俺はひとつも悪くないのだが、謝らないといけない気持ちになる。


「だから最初に言っているだろう、違うって……」

「う、うん、分かった……」


 やっとしーちゃんが納得してくれたみたいでとりあえず安心する。結奈もとりあえずほっとした表情をしていたが、何処となく寂しそうな顔にも見えた。

 すぐに結奈はしーちゃんの側に寄り小さな声で話しかけると、やっとしーちゃんの表情が和らいだ。そして、数分後にはいつもの仲良しに戻っていて、これで普通に帰る事が出来そうな雰囲気になった。ただでさえいつもより疲れたのに些細な事だったけどどっと疲れが増した気がした。

 翌日は練習が休みだったが、課題やらが溜まっていたので家でしーちゃんと一緒にやる事になった。前日の事があったので少し気になっていたが、普段と変わらない様子だったので安心した。


 週が明けて、いつも通り三人で通学した。お互いに変わった様子もなく普段通りだった。教室に着くとそれぞれの席に向かう。俺は鞄を置いて席に着いた。

 結奈としーちゃんの姿を追うとお互いに別々のクラスメイトと会話をしている。しーちゃんも転入してきてもう一ヶ月以上が過ぎてクラスに馴染んできている。以前は休憩時間毎に俺の所に来ていたが、この頃はクラスの友達と過ごしている時間が増えてきたみたいだ。


「なぁ、宅見、お前達、別れたのか?」


 突然、横から突拍子もない事を聞いてきたので振り向くと阿南が立っている。一昨日の練習試合は阿南が休んだせいで俺が大変な目に遭ったのだ。若干恨み節で阿南を睨む。


「あのな、何処からそんなネタが出てくるんだ……そもそも誰とも付き合ってはない」

「……そんな不機嫌そうな顔をするなよ。だってこの最近、東條と一緒にいる所見かけてないし、御坂と一緒にいる方が多くない?」

「はぁ……それは、しーちゃんが転入して分からない事があったから聞きやすい俺の所に来ていただけで、結奈は……あれ……」

「どうした? 東條が何だって? やっぱり何かあったんだろう」


 阿南は予想が的中したみたいな顔をしているが、俺は阿南に言われて初めて気が付いた。しーちゃんが転入してきて結奈と一緒にいる時間が減っている。


「何もないよ、それに元々付き合ってるわけじゃないから……周りがそう言っているだけだ」

「本当か? でも俺達から見ると付き合っていたしか見えないけどな……なんで宅見ばかりモテるのかなぁ、はぁ……もういいや」


 肩を落とす様に落胆した顔で阿南が席に戻る。阿南を見送りながら結奈の姿を再び探すと今は一人で座っていた。

 中学時代は話したり勉強を教えてもらったりしても特に噂になる様な事はなかった。


「やっぱり言われるよな……」


 思わず本音が漏れてしまう。阿南には否定していたが、そう言われても仕方がないと思っていた。特に最近は可愛いさがアップしたみたいで男子達の評価は爆上がりしていた。このクラスだけではなくて他所のクラスでも名前が出ているらしい。

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