63.いつもと違った試合
ハーフタイムの時間が残り少なくなってきた。落ち込んでいたチームの雰囲気も多少良くなり皆んなの表情が明るくなっていた。
「……あおくん」
「ん、どうしたの?」
しーちゃんがちょこんと遠慮気味にやってきて不安そうな表情を浮かべている。それまでは近づける雰囲気でなかったみたいで、ちょっと離れた場所から俺達の様子を窺っていた。
「……勝てそう?」
「そうだな……先ずは追いついて、それからだな」
「……うん」
「大丈夫だよ、ちゃんと追いつけるから」
試合前の元気が嘘のみたいにしーちゃんの声は弱気になっている。たぶんしーちゃんが思っていた試合展開とは大きく違っていたのだろう。それに試合中の俺達が苦しそうにしている姿を見て余計に思ったのかもしれない。
「ごめんなさい、私、ちょっと浮かれてたみたい……」
「そんな謝らなくてもいいよ、気にする事ないからね。もう暗い顔をするなって」
俺の返事を聞いたしーちゃんはやっと表情が和らいできた。やっぱりしーちゃんは明るい表情が似合っている、そんな暗い顔にした俺は悔しかった。
「う、うん、ゆいちゃんも同じ事言ってたよ。それにあおくんがどうにかしてくれるから心配しなくていいもいいって……さすがゆいちゃんは落ち着いているよ、ふふふ……」
「そ、そうか、結奈は俺の事を過大評価し過ぎだ、ははは……」
やっと笑顔を見せてくれたしーちゃんに少しホッとしたが、結奈の期待の大きさにちょっと参りそうになる。でもしーちゃんと結奈を笑顔にする為には、そんな弱気な考えをしていてはいけないのだ。俺はしーちゃんの頭を軽くポンと手を置いた。
「そうだな、なんとかしてやりますか!」
ちょっとハーフタイムが終わろうとしていた。ゆっくりと腰を上げて立ち上がる、前半が終わった頃の疲労感はないようだ。
「えへへ、頑張ってね、あおくん!」
試合前の笑顔に戻ったしーちゃんが見送ってくれた。これまでは結奈が話しかけにきていたが、今日はしーちゃんに遠慮したのか、忙しかったのか、ハーフタイムの間は俺の所には来なかった。
そして後半の第三クォーターが始まり、前半と同じようにピッタリとマークがついた。しかし慌てる事はない、ハーフタイムの時に皆んなで作戦を立て対応策を話し合った。
「いい感じじゃないか?」
試合再開から半分くらいが過ぎて点差が無くなっていて、永尾が俺の声を聞いて頷いてる。山西と山寺も前半に比べると余裕がある表情をしてプレーをしている。
「……やっと俺達の流れになってきたな」
「あぁ、後は宅見がしっかりと決めてくれよ」
「そうだな……そろそろ相手も疲れてくるだろう」
俺に付いていたマークがだんだんと緩くなってきてだいぶ自由に動ける様になってきた。山西から来るパスも増えてきて得点に絡む機会が増えた。
ベンチも盛り上がってきてみたいで、しーちゃんは嬉しそうに結奈の隣で応援している。スコアをつけている結奈も笑顔が見えたので安堵した。
俺達チームの流れのまま第三クォーターは終了して、勢いそのままに第四クォーターも始めから確実に得点を決めて遂に同点に追いついた。
「……これからだな」
「そうなんだが、どうするんだ?」
しかい早々にポイントガードの山西が足を攣ってしまい交代してしまった。キャプテンの永尾が困った顔で相談してきた。体調不良で阿南が休んでいるので交代出来るポイントガードがいないのだ。あれこれと考えても仕方がない、すぐに答えが出た。
「俺が代わりをやる」
「はぁ? 宅見が? 誰が点を稼ぐだよ」
「大丈夫だ、村野がいるし、永尾もいるだろう。なんとかなるさ!」
「でもお前、やった事あるのか? これまで試合で見た事ないぞ」
永尾が更に難しい顔をするが、もうあれこれ話している時間はない。
「今日は練習試合だ。これもいざという時の練習になる」
そう言って俺はパスをもらい試合を再開した。確かに慣れないポジションだが、視野を広く持って後は皆んなのタイミングを見計らってやれば出来るはずだ。さすがに相手チームも慌てたみたいで、バタバタしている。このチャンスを逃す訳にはいかない。ボールを持ち、パスを出していくと思った以上に上手くいき次々と村野や永尾が得点をあげてあっさりと逆転してしまう。
「やっぱり宅見は凄いな……」
「なんだ?」
ゴール下でシュートを決めて俺の前に戻ってきた村野が驚きの顔で呟いた。
「マジでチームメイトで良かった」
「なんだよ、そんな事を言っても何も出さないぞ」
「ははは、いや、ホントだよ。これからが楽しみだ、冗談抜きで全国大会に出られるかもしれないな」
「何言ってだ、まだこれは練習試合だからな、本当の大会だと簡単にはいかないぞ」
笑顔で村野がデフェンスに戻ったがあまり気にしていないようで、俺はこれでまた一つチームの問題点がはっきりと見えた。県大会を勝ち進んでいくにはまだまだ問題が山積みだ。
試合は永尾が最後に豪快にシュートを決めて締めくくった。とりあえずは約束通りに勝つ事は出来たが、しーちゃんが期待していた様な事はなかったと残念に思いながらベンチに戻る。すぐに山西が足を気にしながやって来て少し悔しそうな表情をして褒めてくれた。いつもと違った形で仲間から褒めてもらえるの嬉しいものだ。でも最後に山西は自分がやり難くなるからもうガードをやらないでくれと笑いながら頼まれた。




